三星インキ株式会社
ブリードについて ①
読者の方の中に『ブリード』あるいは『色泣き』と呼ばれる現象を聞かれたり、実際に出会ってしまったことがある方がいると思います。
これは本来着色してはいけない部分(非画線部)が時間と共に着色する(色が滲みだす)現象のことであり、ブリード現象発生の具体的事案として、以下のようなことが挙げられます。
・白地のTシャツを洗濯した際に他の衣類(色もの)の色が移った。
・パッケージの絵柄の色が全体的に着色した。
・お酒の入ったグラスをコースターに置いていたらコースター全体が着色した。
・車用の吊り下げ型紙製芳香剤を店舗で販売していたら、未開封なのに商品が着色した。
上記のようなブリード現象が発生する要因としては、インキ中の成分が溶け出して非画線部にまで移行した(滲んだ)ことで着色するということが挙げられます。
では、どのような成分が溶け出すのでしょうか?
溶け出した成分が透明であれば問題ない(わからない)のですが、着色するということは何が溶け出しているかはお分かりですよね。
そう、色材なのです。
そして溶け出す色材の代表的なものとしては、耐性が弱い傾向にある『染料』が挙げられます。
オフセット印刷用インキ等は色材として主に『顔料』を使用していますが、インクジェット用インキや布を染める着色剤などには『染料』を色材として使用しているものがあります。
では顔料と染料はどう違うのでしょうか?
非常に簡単に言うと、色材が溶液に“溶けやすい”か“溶けにくい”かの違いであり、溶液に溶けやすい色材が『染料』、溶けにくい色材が『顔料』ということになります。
わかりやすいするために水に溶ける砂糖を「染料」、水に溶けない小麦粉を「顔料」に例えると、砂糖は水と混ざっても溶けることで無色透明で粘度変化もありません(砂糖は水の2倍量溶けるそうです)が、小麦粉は水に混ぜると溶けないために不透明で粘り気のある液体となります。
上記から、染料は溶液と混ざる(溶ける)ことで鮮明で着色力の高い印刷効果を得ることができますが、顔料は混ぜても溶けずに分散するだけで不透明となり、染料に比べると鮮明感・濃度感を得ることができません。
このように染料を使用することで鮮明で高濃度な色調を得ることができますが、溶液が乾燥して消失したことで皮膜形成した後も、染料自体が有する『溶ける』という特性が残ります。
つまり絵柄として形成された皮膜であっても、染料を溶かす性質のある溶液と接触した場合、皮膜から溶液に染料成分が溶け出し、溶け出して着色した溶液が移行することで非画線部が着色する。これがブリード現象の発生の要因の1つであります(ただし、皮膜強度が非常に強固な場合は移行は起こりにくくなります)。
では、最初に挙げさせて頂いた事案例から、ブリード現象が発生した要因を検討してみましょう。
・白地のTシャツを洗濯した際に他の衣類(色もの)の色が移った。
⇒他の衣類を染めるために使用した色材成分が洗剤などの界面活性剤の影響により洗濯時の水に溶け出し、着色した水が一緒に洗濯した白地のTシャツを着色した。
・パッケージ箱が経時で全体的に着色した。
⇒印刷後に後加工としてニスやフィルムでコーティングした際、ニス中の溶剤やフィルムの糊成分に含まれる溶剤などによって色材が溶け出し、紙全体が着色した。
・お酒の入ったグラスをコースターに置いていたらコースター全体が着色した。
⇒グラスに入っていたお酒(アルコール)がコースターに接触することで色材が溶け出し、コースター中を水分が移行してコースター全体が着色した。
・車用の吊り下げ型紙製芳香剤を店舗で販売していたら、未開封の商品が着色した。
⇒芳香成分を拡散させるために使用している有機溶剤が印刷物の色材を溶解し、商品全体が着色した。
上記のような染料を溶かす性質を持つ溶液として、トルエン・酢酸エチルなどの有機溶剤やアルコールなどが挙げられ、ごく身近なものとしては水なども該当し、これら溶液が色材と接触することで溶液に移行してブリード現象が発生することがありますので、染料などを使用したインキで印刷された印刷物を取扱う際は注意が必要となります。
ということは、染料を使用していない(顔料を用いた)インキを使用すればブリード現象は発生しない!ということになりますが、実は発生することがあるのです。
これは次回に