図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]103
資料保存ワークショップ番外編
「ルリュール 書物の美しき再生 再び 山野上禮子遺作展」を終えて
前回のコラム「図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]102 山野上禮子遺作展 開催ごあいさつ」でご案内しました展覧会「ルリュール 書物の美しき再生 再び 山野上禮子遺作展」
(会期:2025年5月30日(金)〜6月2日(月) 会場:ものことあとりえ一頁)
4日間の開催を無事に終えることができました。
私たちスタッフの予想を超え、86名もの方にご来場いただきました。
山野上アトリエに通われていた方、遠方からの方、図書館資料保存ワークショップとご縁のあった方、懐かしい方、そして、奈良の書物の歴史と保存修復に関する研究会さんからは、講師の方や生徒さんにも多数お越し頂きましたこと、厚くお礼申し上げます。
書物の歴史と保存修復に関する研究会の方々は、当然私たちスタッフよりも製本に詳しい方々ばかりで、こちらからの質問にたくさんお答えをもらって、勉強もさせていただきました。
展示した作品は75点。1970年代、山野上先生がルリュールを学びにベルギーに留学されていた頃の作品の展示から始まり、2010年頃制作のものまで。エチュイと呼ばれる本を収納する函やシュミーズというジャケットも合わせて作られたものは大型本もあれば、手のひらに収まるような小型のものや、巻子状のものまで形態も様々。
中には、本文の内容までも山野上先生による文章や絵、記録集といったものもあります。
本の内容だけで既に作品と言っていいものを、さらに和紙や様々な種類の動物の革、染めからご自身でされたマーブル紙などを使ってルリュールされています。
ルリュールをご存じない方もたくさん訪れられ、こんな世界があるんやねぇ、心が洗われるよう、などの感想の言葉を頂きました。
私も作品を見る度そのように思います。
ルリュールは、300ほどの工程があるとも聞きました。
作品1冊ごとに、山野上先生がそれだけの工程をかけて、来る日も来る日も作品と対話し続けた長い時間が込められています。そのような作品が並ぶ姿には、言葉がなくとも山野上先生の人生そのものを見せてもらっているようで、そこに山野上先生がいらっしゃるかのようにも感じました。
製本とは?ルリュールとは?修復とは?
気の遠くなるような時間をかけて1冊の本を製本してゆくわけですが、手を抜いたような部分はどこにも見当たらない手仕事の完璧な姿に崇敬の念を抱き、自分には到底できないが、このような世界もある、できる人がいた、その作品を後世で目にすることができる今、感動や感謝の思いがあふれて来ます。
作品のデザイン性や、配色の美しさへの感動に加え、哲学的な思考も引き出してくれるように思います。
今回の展覧会では、ご来場の皆さんに「お気に入りシール」というものを配布し、気に入った作品の台紙にシールを貼ってもらう試みをしました。
ただ展示するだけでなく、お客さまにもなにか参加してもらえるものがいい!と、この提案をしたのは展覧会主催の代表・堤美智子氏。
シールは、お渡しした枚数(お一人16シールほど)分貼付可、気に入った作品1作品につき最大3シール貼付可を条件とし、金色の丸いシールを配布しました。
甲斐あって、みなさん楽しんでくださったようです。シールが足りなかった、という方もありました。
最終日終了後の「お気に入りシール」集計結果から見えて来るものは・・・?
人気投票などと称したら、山野上先生から叱られるかもしれませんが、上位3位をご紹介したいと思います。
・1位: 39シール
出雲の阿国 有吉佐和子著 中央公論社 1973年刊
全3巻
【製本構造等】半革装,シュミーズ,エチュイ,帙
【材料】表紙:モロッコ革(緑),大和紙の上にモザイク; 見返し:和紙
【箔】天金 【制作年】1980
1階の正面に3巻並べて配置しました。
表紙に革のモザイクで配された花が、1巻から3巻へと蕾から開花するデザインが印象的。和紙に革を合わせる山野上先生ならではの作品。
・2位: 31シール
La guirlande d’aphrodite Henri de Régnier著
詳細不明
【製本構造等】トリプレ
【箔】天金 【制作年】不明
1階入ってすぐのシザイユ(大型カッター)KRAUSEの上に配置。
艶のある黒い革で囲まれた平の部分の大きくはっきりしたマーブルが印象的。使用されたマーブル紙は、有名なマーブル職人の作品だとか。
・3位: 30シール
L’escapade Henri de Régnier著
詳細不明
【製本構造等】トリプレ
【箔】三方金
2階入って右手の長机の上に配置。背の茶色と平の艶のある濃い緑の革の色のコントラストが美しい。平の緑の革の上に柔らかな曲線が細い金線で箔押しされているのが印象的。
遊び心や創作性あふれるものより、正統派の美しい製本と見えるものが人気だったと伺えました。
展示スペースにも使用したものことあとりえ一頁の1階は、私たち図書館資料保存ワークショップ番外編のアトリエであるとともに、そこにはまさに山野上先生が作品制作に使用された機材や道具があります。
作品と合わせて使われた機材や道具も見て頂けるのは、アトリエでの展示ならでは。
来場者の方と機材に関する会話ができたこともよい時間でした。
山野上先生の机の上にはノートパソコンを設置し、展覧会主催の代表・堤美智子氏のご主人が30年前に撮影された生前の山野上先生の作業風景を動画で流しました。
長時間の動画ですが、お茶を飲みつつ食い入るようにずっとご覧になる方も多くいらっしゃいました。
今回の展覧会は、私たち図書館資料保存ワークショップ番外編のメンバーにとっても、共催として準備の段階から関わり、今までないほどに山野上先生の作品に触れる貴重な時間となりました。
最後になりましたが、今回の展覧会で協賛いただいた京都活版印刷所さん、活版印刷研究所さんには、心よりお礼申し上げます。
さて、合わせてここでお知らせしたいことがあります。
今回の「ルリュール 書物の美しき再生 再び 山野上禮子遺作展」の会場であり、図書館資料保存ワークショップ番外編のアトリエでもあるこの「ものことあとりえ一頁」ですが、諸般の事情で、本展覧会会期終了を持ちまして閉館させていただきました。
急な事情により、展覧会告知時期にはお知らせが出来ず、ご来場の方に少しずつお伝えする形となりましたこと、申し訳ありません。
図書館資料保存ワークショップ番外編は、しばらくお休みを頂戴した後、山野上先生から譲り受けた機材や道具とともに移転、再開の予定です。
目途が立ちましたら、このWEB MAGAZINEやものことあとりえ一頁のホームページ等でお知らせいたします。
これまで「ものことあとりえ一頁」に関わって下さったみなさま、心より感謝申し上げます。
この展覧会では、今後の活動の励みになるような新しいご縁もありました。
展覧会の名前のように「再び」へ向かって、もう歩み出しております。
「再び」でありつつも、新たな形での私たちの活動のお知らせをどうぞお待ちください。
・本展覧会開催概要
「「ルリュール 書物の美しき再生 再び 山野上禮子遺作展」開催のお知らせ」
・展覧会開催にあたってのご挨拶
「山野上禮子遺作展 開催ごあいさつ – 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所」
図書館資料保存ワークショップ
ものことあとりえ一頁管理人
永田千晃
(写真1)会場入口
(写真2)1階アトリエKRAUSEの上_1
(写真3)1階アトリエKRAUSEの上_2
(写真4)1階作業机の上と1位出雲の阿国_1
(写真5)2階会場風景
(写真6)2階ピアノ上
(写真7)2階ピアノ上_2
(写真8)2階_縦33cmの大型本とその帙
(写真9)3位L’escapadeと円空風土記
(写真10)1位_出雲の阿国
(写真11)2位_La guirlande d’aphrodite
(写真12)3位_La guirlande d’aphrodite