フランス・キエロ出版社の希少な活版印刷本が共同書店「PASSAGE」で入手可能に
日本では名刺などの分野で見直されている活版印刷。フランスでは今でも、芸術性を重視した詩集などの書籍を、鉛合金の鋳造活字を用いた活版で印刷する出版社が少なからずある。中でもキエロ出版社は、活字に加え木版や樹脂版を使った絵を組み合わせ、表情豊かな書物にすることで注目を浴びているが、昨年末から東京神保町の共同書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」で入手できるようになった。
2メートル近い体を躍動させると印刷板がぐっるんと回転した。試し刷りを真剣な眼差しでチェックする。それから大きな背中を丸めて小さな活字やインテルを組み替えた。
キエロ出版社は、編集者で活版印刷家のサミュエル・オーテシエ氏が2010年に立ち上げた。ひとり出版社で、南仏プロヴァンスのフォルカルキエに事務所と活版印刷所がある。「素晴らしい言葉を持ち独創性がずば抜けている作家たち」(オーテシエ氏)を厳選、活版で印刷することで、内容にふさわしい形式美を書物に与えるようにしている。
これまで8冊を出版し、うち2冊は20世紀の詩人・翻訳者のギィ・レヴィ・マノ(Guy Lévis Mano 1904-80)が書いた詩集。ギィ・レヴィ・マノは、ダダイスム、シュルレアリスムを牽引したポール・エリュアールやアンドレ・ブルトン、岡本太郎などを出版したG.L.M.社を運営していた出版人でもあった。
キエロ出版社設立直後の2011年に出版した『Trois Typographes en avaient marre(うんざりした3人の植字工)』はキエロ社のロングセラー。G.L.M.社の本を重版するごとに装丁を変えたギィ・レヴィ・マノに倣い、オーテシエ氏はこのロングセラーの本の形式を毎回変えてきた。現在販売されている第4版は縦24センチ横17センチだが、今年の夏に出版予定の第5版はA6ほどの大きさを予定している。昨年出版された『Il est fou !(奴は狂ってる!)』の力強い絵は地元の木版画家ダヴィド・オディベールが手がけた。
キエロ社の書物は、いずれも300部限定の希少本。ギィ・レヴィ・マノの詩集を含む6作品を「PASSAGE by ALL REVIEWS」内のフランス語書籍専門棚『Bibliothèque de Goult』が扱っており、オンラインでも購入できる。オーテシエ氏は「人が書いたり描いたりしたものを芸術品に仕上げて届けることを活版印刷が可能にしてくれる。本が消耗品になってしまった今、手間暇かけて作られた書物をぜひ日本の人たちに手にとってもらいたい」と話している。
キエロ出版社のHP(フランス語) https://www.quiero.fr/
日本語の問い合わせ先 kioka-cy@kioka-cy.org