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生田信一(ファーインク)
渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました

渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

今回のコラムは、渋谷区立中央図書館にある「和田誠記念文庫」をご紹介します。この施設は、同図書館の4Fフロアーの一室にあり、室内の書棚には和田さんの自著や装丁を手がけられた本や資料集が並ぶ特別な空間になっています。

この一室は、和田さんファンにとっては至福の時間を過ごせる贅沢な空間です。多くの方に知ってもらいたいと思い、今回のコラムで取り上げることにしました。駆け足になりますが、和田さんの代表的な著書を紹介しながら案内します。お楽しみください。

渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

和田誠記念文庫とは

「和田誠記念文庫」は渋谷区立中央図書館の4Fの一角にあります(写真1)。オープンしたのは2021年12月、この記念文庫は休館日以外であればいつでも入室できるので、空いた時間を利用して気軽に入室して閲覧できます。

(写真1) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)「和田誠記念文庫」は渋谷区立中央図書館の4Fの一角にあります。

同図書館のサイトでは、「和田誠記念文庫」について以下のように記述されています。

「和田誠さんはイラストレーター・グラフィックデザイナーとして、またそれ以外にもさまざまな分野で活躍されました。

和田さんは生前渋谷区にお住まいでした。事務所も渋谷区内にあり、その縁で、2019年に和田さんが亡くなったあと、事務所から自著や装丁を手掛けた本、資料として使われた本、コレクションなど数多くの蔵書を渋谷区の中央図書館に寄贈していただきました。記念文庫ではその中から約3,700冊を展示しています。

また同時に、本棚、和田さんが打合せで使っていたテーブルと椅子も寄贈していただきました。記念文庫ではそれらを使って和田さんの仕事場の一部を再現しています。」

和田さんの仕事場の一角が再現された空間

「和田誠記念文庫」は、4Fフロアーの一角に設けられています。入口に特設されたガラスケースには、黒柳徹子さん、阿川佐和子さん、ジュリー・アンドリュースさんのサイン本が展示されています(写真2)。(ガラスケースの展示は定期的に入れ替わります。)

(写真2) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)「和田誠記念文庫」の入口。写真右のパネルの絵はヒカリエ壁面画(2011)。こちらの作品の制作中の映像は、「Wada Makoto」サイトの「making」のページで見ることができます。

和田さんの経歴を簡単に紹介します。和田さんは1936年生まれ。多摩美術大学図案(現グラフィックデザイン)科卒業後、1959年、広告制作会社ライトパブリシティに入社。1968年よりフリーランスのグラフィックデザイナー、イラストレーターとして活躍されました。ライトパブリシティでの代表的なお仕事として、たばこの「ハイライト」のパッケージデザインがあります。

本や雑誌のデザインを手がける一方、イラストレーターとしても活躍、『週刊文春』の表紙イラストレーションは40年にわたって続けられました。さらに映画『麻雀放浪記』、『快盗ルビイ』の監督をつとめるなど、長年にわたって幅広く無数の仕事を手がけています。

室中に入ると、大きなテーブルと椅子があり、室内の書架に並べられた本を手にとって閲覧できます(注:貸し出しはできません)(写真3)。書棚の本の配置や並べ方の順番は、和田さんのお仕事場を再現されていることを職員の方からうかがい驚きました。中央に配置されたテーブルや椅子は和田さんの事務所で使われていたものがそのまま使われているのこと。まるで和田さんの事務所におじゃましたような不思議な気持ちになります。

(写真3) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真3)「和田誠記念文庫」の室内。

書棚には、和田さんの200冊を超える著書のほか、装丁を手がけた書籍や資料、コレクションが並んでいます。和田さんのお仕事は幅広く、ビジュアルの分野では、イラストレーション、デザイン、装丁、広告、似顔絵、絵本、ポスター、マークなどがあります。(写真4)は、和田誠記念文庫の書棚の分類・見取り図です。

(写真4) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真4)和田誠記念文庫の書棚の分類 出典:渋谷区立中図書館サイト

(写真1) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)「和田誠記念文庫」は渋谷区立中央図書館の4Fの一角にあります。

(写真2) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)「和田誠記念文庫」の入口。写真右のパネルの絵はヒカリエ壁面画(2011)。こちらの作品の制作中の映像は、「Wada Makoto」サイトの「making」のページで見ることができます。

(写真3) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真3)「和田誠記念文庫」の室内。

(写真4) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真4)和田誠記念文庫の書棚の分類 出典:渋谷区立中図書館サイト

書棚を拝見する

では、書棚を順に見ていきましょう。

資料・コレクションの書棚

この棚には、和田さんが普段使っておられた辞書や事典、画集、資料集などが収められています(写真5)。普通は見ることができない貴重な資料であり、興味深く拝見しました。写真の奥に見える16mmフィルムの映写機は、仕事場の2Fで映画の鑑賞会が催されるときに使われていたそうです。

(写真5) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真5)資料・コレクションの書棚。

棚の上には、和田さんが手がけられた灰皿やトレイ、マッチ、コースターなどのグッズが並んでいます(写真6)。グッズには和田さん独特のタッチのイラストレーションがあしらわれていて、どれも素敵です。

(写真6) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真6)和田さんが手がけられた灰皿やトレイ、マッチ、コースターなどのグッズが並んでいます。

装丁 文庫の書棚

次に、文庫が並ぶ書棚を見ていきます(写真7)。

(写真7) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真7)装丁された文庫が並ぶ書棚。

和田さんは、さまざまな作家の書籍の装丁を手がけておられます。装丁の仕事が大きなシェアを占めてきた頃のことが、和田さんの著書『装丁物語』(和田誠 著、白水社、1997年)に記されています。以下に引用します。

「装丁という仕事がぼくの営業品目の中でシェアを占めてきたのは、1972年の遠藤周作『ぐうたら人間学』(講談社)あたりかな、と思います。

『ぐうたら人間学』はよく売れた本だったんです。売れたのは装丁のせいじゃありませんよ。内容がおもしろかったからです。読みやすい、気軽なエッセイ集であった」

その後、『狐狸庵VSマンボウ』の対談集が発売されました。表紙は狐狸庵先生とマンボウが対峙するイラストレーションです。人気作家同士の対談集で、読まれた方も多いのではないでしょうか。

「これ(筆者注:『狐狸庵VSマンボウ』)も面白おかしいというタイプの本で、ぼくとしても「ぐうたら」シリーズの手法をこれにあてはめました……(中略)……手法は「ぐうたらシリーズはロットリングで版下を描いて、色指定。『狐狸庵VSマンボウ』の方はロットリングじゃなくGペンを使っています」(同書より引用)。

和田さんが描くイラストレーションのタッチは独特です。筆者は、どのように描いておられるか気になり、和田さんが使われている同じ画材を買い求めたことが幾度かあります。和田さんは、画材についていろいろなことを教えてくれた恩人でもあります。

装丁 翻訳 映画関連の書棚

続いて、翻訳ものの本では、ジェイムス・ジョイス、村上春樹 翻訳ライブラリーなどの書籍、映画関連の本では、山田宏一、小林信彦、森卓也らの著書が並びます(写真8)。

(写真8) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真8)翻訳や映画関連の本が並ぶ書棚。

この一室は、和田さんが手がけられたさまざまなジャンルの本が一同に集められている点で、装丁デザインの見本の宝庫とも言えます。和田さんは、装丁を手がける前に必ず著者の原稿に目を通し、装丁のアイデアを練っておられました。どの本にも和田さんの思いが詰まっています。印刷されて形になった本を手にしてじっくり眺めることで、和田さんがどのように絵やデザインのアイデアを導き出したのか、感じ取れると思います。

装丁 日本人作家の書棚

装丁を手がけた日本人作家の書棚の棚では、丸谷才一、星新一、つかこうへい、椎名誠らの本が並びます。また、『井上ひさし短編中編小説集成 第1巻〜12巻』(岩波書店)、『色川武大 阿佐田哲也全集 1〜16』(福武書店)の全集を見ることもできました(写真9)。

(写真9) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真9)日本人作家の本が並ぶ書棚。

全集やシリーズものの書籍では、通常の装丁のお仕事とは違った側面を見ることができます。まず、シリーズ全体のフォーマットを定める作業が加わります。また、シリーズ用に文字組みやレイアウトを改めたり、マークやロゴを作成する場合もあります。函入りの本では、函の表1・表4と、本の表1・表4をどのように関連させて見せるかといったこともテーマになります。この書棚からは、装丁のさまざまな事例とともに、クライアント(出版社)からの要望に対して和田さんがどのように考えて対処していったのかを知ることができます。

自著の書棚

自著の書棚の中では、和田さんご自身の著作の本のほか、絵本や作品集などが並びます(写真10)。

(写真10) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真10)和田さんの自著や作品集が並ぶ書棚。

和田さんの作品集は多くのものが遺されています。筆者が懐かしく感じたのが、初期の頃のシルクスクリーン印刷のお仕事を集めた『和田誠 日活名画座 ポスター集』(888ブックス、2021年)でした。この本では、1958年〜1968年に描かれた新宿名画座のポスターを見ることができます。

ポスターの印刷を行ったのは、西武新宿線中井駅近くにあったシルクスクリーン印刷所「サイトウプロセス」でした。同社では日活名画座のポスターの仕事を請け負っていました。同書には和田さんが日活名画座のポスターを手がけるようになった経緯が語られていますので、以下に引用します。無類の映画好きの和田さんらしいエピソードです。

「(筆者注:多摩美術大学を)卒業したての頃、見学に行っていたぼくに斉藤社長が言った。「君は映画が好きらしいな。うちは日活名画座のポスターを刷ってるんだが、名画座からは文字情報だけ入っていればいいと言われている。でも俺は絵が入るといいと思う。描いてみるか。」それはすごい申し出だ。ぼくは「やります」と即答した。社長は「向こうは絵はのぞんでいないから金は出ないんだよ。それでもいいかい」と念を押す。ぼくは「いいです。好きな映画のポスターが描ければ嬉しいですから」。社長「よし頼むよ」。」(同書から引用)

自著の書棚では、映画のジャンルの本がひときわ目を引きました。ロングセラーになった『お楽しみはこれからだ』(和田誠 著、文藝春秋、1975年)は、和田さんの代表作のひとつです。

この本のタイトルに込められた意味は、本書の冒頭で解説があります。映画『ジョルスン物語』(1946年のアメリカ合衆国の伝記映画)の中でショウを演じるジョルスン(配役:エイサ・ヨルセン)がクライマックスで「You ain’t heard nothing yet.」というセリフがあり、字幕では「お楽しみはこれからだ」と訳されます。直訳すると「あなたはまだ何も聞いていない」という意味ですが、この絶妙な意訳により名セリフが生まれました。

本書では、こうしたドキリとさせる映画の名セリフが豊富なイラストレーションとともに紹介されます。映画を見るのが楽しくなる一冊です。2022年には『愛蔵版 お楽しみはこれからだ』(和田誠 著、国書刊行会)が刊行され、全7巻を入手することができます。

さらに、和田さんの名著として知られる『倫敦巴里』(和田誠 著、話の特集、1977年)があります。この本は、雑誌「話の特集」や「オール読物」に掲載された和田さんのパロディ作品を中心に構成された作品集です。和田さんのパロディの手法は、絵とテキストをミックスさせて笑いを喚起する高度なもので、刊行当時衝撃を受けました。

この本も復刊が望まれ、『もう一度 倫敦巴里』(和田誠 著、ナナロク社、2017年)といタイトルで復刻版が発売されています(復刻版では未収録作品が加えられています)。

資料・コレクション(映画/音楽/マザーグース/詩/歴史/俳句/落語・お笑い)

この書棚には映画/音楽/マザーグース/詩/歴史/俳句/落語・お笑いのさまざまなジャンルの本が集められています(写真11)。

(写真11) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真11)映画や音楽、歴史などの資料集が並ぶ書棚。

一例をあげると、和田さんは落語好きであったことでも知られています。和田さんの著書『落語横車』(和田誠 著、講談社、1980年)という本がありますが、この本では和田さんが手がけた新作落語の台本をプロの落語家さんが演じるという企画の落語会の様子が記録されています。さらにこの本には落語にまつわる評論や対談も収められているので、和田さんが「笑い」についてどのように考えていたのかを知ることができる一冊になっています。

音楽については、レコードジャケットのデザインはもちろんのこと、曲の作詞・作曲も手がけられています。そのほか、俳句の著書も著すなど、実に幅広いジャンルの本を手がけられていることがわかります。

(写真5) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真5)資料・コレクションの書棚。

(写真6) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真6)和田さんが手がけられた灰皿やトレイ、マッチ、コースターなどのグッズが並んでいます。

(写真7) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真7)装丁された文庫が並ぶ書棚。

(写真8) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真8)翻訳や映画関連の本が並ぶ書棚。

(写真9) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真9)日本人作家の本が並ぶ書棚。

(写真10) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真10)和田さんの自著や作品集が並ぶ書棚。

(写真11) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真11)映画や音楽、歴史などの資料集が並ぶ書棚。

「ペルソナ展」と『週刊文春』の表紙

「ペルソナ展」

壁面には、和田さんが「ペルソナ展」(1965年)に参加された際のシルクスクリーン作品や、手がけられたお仕事のフィールドを「絵本」「装丁」「マーク・ロゴ」「ポスター」のジャンルに分けて解説したパネルを見ることができます(写真12)。写真右側の2枚のパネルに記されたクレジットから引用します。

「ペルソナ展出品作
早川良雄が「現在の日本を代表する中堅第一線の秀作」とした粟津潔、福田繁雄、細谷巌、片山利弘、勝井三雄、木村恒久、永井一正、田中一光、宇野亞喜良、和田誠、横尾忠則の11人を中心に、亀倉雄策、ルウ・ドーフスマン、ヤン・レニッツア、カール・ゲルストナー、ポール・デイヴィス(敬称略)という錚々たる面々が招待作家として加わったデザインの展覧会「ペルソナ展」(1965年)に和田さんが出品したシルクスクリーン作品。
 20代の和田さんが「町に貼られるのが嬉しい」という理由で、9年間無償で制作した「日活名画座ポスター」の原画を元にした、シルクスクリーンの組作品です。」

(写真12) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真12)右の2枚のパネルは、和田さんが「ペルソナ展」に出品された作品。壁の展示は定期的に入れ替わる予定です。

『週刊文春』の表紙のお仕事

最後に、『週刊文春』の表紙のお仕事を見ていきましょう。

1977年、『週刊文春』の第一回目の表紙は、エアメールを咥えた鳥のイラストレーションでした。手がけた表紙は2017年7月20日号で2000号に達し、記念すべきものになりました。2000号目のイラストレーションは、40年前の第1号に描かれた“小鳥”が再び登場しました。

和田さんが「週刊文春」の表紙イラストレーションを描く様子が、事務所のスタッフの手により記録されました。奥さまの平野レミさんのremyサイトでは、この時の記録映像を見ることができます。また、この絵を印刷した「週刊文春メモリアルクロック」が限定数製作され、販売で得た収益が非営利団体「あしなが育英会」さんに全額寄附されたことが伝えられています。 →週刊文春×和田誠「メモリアルクロック」を参照ください。

また、雑誌「イラストレーション 2020年6月号(通巻226号)」(玄光社、2020年)では、和田さんの2011年の仕事日記が再掲されており、毎週の「週刊文春」の表紙絵の入稿スケジュールについて記述があります。すさまじいローテーションで、日々仕事に取り組まれていたことがわかります。以下に引用します。

「『週刊文春』本川さん来る。先週分色校正、先々週分再校。今週分原画を渡し、明日発売の出来上がりを受け取る。毎週水曜日は表紙を描いて渡すこと、色校正をすること、出来上がりを受け取ること、の3つを一ぺんにやっているので、まあ能率的だ。明日は表紙についてのコメント「表紙はうたう」を書いてファックスでおくらなくてはならない。これは木曜日の仕事である。」(同書、2011年11月16日日記より)

「週刊文春」の表紙のイラストレーションの全作品は、『表紙はうたう 完全版』(和田誠 著、文藝春秋、2020年)で見ることができます。同書の中で、和田さんがこのお仕事でチャレンジされたことについて述べられています。以下に引用します。

「一つ自分で決めたのは、それまで使わなかった手法で描いてみよう、ということだった。不透明水彩のグァッシュで丁寧に描き込むことにしたのはそのためである。ぼくのメニューに新しい料理が加わったわけだ。」(同書、「話は31年前にさかのぼる」から引用)

ここでも和田さんの旺盛なチャレンジ精神を見ることができます。不透明水彩のグァッシュは、ポスターカラーに近い使い方ができ、和田さんにとってもなじみのある画材だったのでしょう。不透明水彩のグァッシュで完全なカラー原稿で仕上げる手法は、印刷再現においても手描きのタッチが表れますし、細かな描画も可能です。和田さんのイラストレーションの世界に新しい一面が加わることになったわけです。

「和田誠記念文庫」利用にあたっての注意事項

「和田誠記念文庫」の利用にあたって注意事項を以下にまとめます。

[注意事項]
・記念文庫内の本は手に取ってご覧いただけますが、貸出しはできません。記念文庫内でお読みください。
・文庫内の本は和田誠事務所から寄贈いただいた本です。貴重な本もたくさんありますので、お取り扱いにはご注意ください。
・閲覧後は本をもとの棚にお戻しください。わからなければ職員におたずねください。
・図書館内は撮影禁止ですが、記念文庫内では写真撮影ができます。ただし、個々の本の撮影はご遠慮ください。撮影の際は、フラッシュは禁止です。また、他の利用者の方が映り込まないようにお気を付けください。
・図書館の本を文庫内で読むなど、記念文庫の利用以外の目的でのご利用はご遠慮ください。
・記念文庫内の本の複写(コピー)はできません。
・記念文庫内は飲食禁止です。
・文庫内への入室の人数を制限している場合があります。
・マスクを着用の上、混み合う場合にはゆずり合ってご利用ください。
・ご不明な点がございましたら、お近くの職員へおたずねください。

和田誠展巡回展開催のご案内

和田誠展は巡回展を開催しています。

・2023年3月24日(金)ー 2023年5月7日(日) 岡山県立美術館
・2023年5月20日(土)ー 2023年6月18日(日) 美術館「えき」KYOTO
・2023年9月16日(土)ー 2023年11月5日(日) 刈谷市美術館
和田誠展:https://wadamakototen.jp/

 

和田さんの作品や手がけたお仕事を拝見すると、案件によって絵のタッチを変えたり、使用する画材を変えたりと、さまざまな試行錯誤を行っていることがうかがえます。さらに、相手がどうすれば喜ぶか、ということを常に意識されていた方なんだろうと思います。

和田さんの残された仕事は膨大で、まだほんの一握りしか触れていないように思います。この先にも新しい発見に出会えると思うとワクワクしますね。お楽しみはこれからです。

では、次回をお楽しみに!

(写真12) | 渋谷区立中央図書館「和田誠記念文庫」に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真12)右の2枚のパネルは、和田さんが「ペルソナ展」に出品された作品。壁の展示は定期的に入れ替わる予定です。

[施設情報]
渋谷区立中央図書館

所在地:〒150-0001 渋谷区神宮前1-4-1
電話番号:03-3403-2591
開館時間:火曜日から土曜日 午前9時から午後9時
     日曜・月曜日、祝・休日 午前9時から午後6時
休館日:第1月曜日 ※注意
    第3木曜日(館内整理日) ※注意
    年末年始、特別整理期間
※注意 祝休日にあたる場合は開館し、直後の平日が休館となります。
URL:https://www.lib.city.shibuya.tokyo.jp/library/central/