生田信一(ファー・インク)
トーンF ── グレーのバリエーションが魅力のファンシーペーパー
2017年1月23日、平和紙業株式会社からグレーのバリエーションが豊富なファンシーペーパー「トーンF」が発売された。「トーンF」はクールグレー(CG)7種、ウォームグレー(WG)7種の計14種類のバリエーションをもつファンシーペーパーだ。
グレーに特化したファンシーペーパーのシリーズが発売されるのは今回が初めてとのこと。これまでは、グレーの色違いで展開を試みようとすると、異なる銘柄から選ばざるをえなかった。「トーンF」は同じシリーズの中でグレーの選択肢が豊富に用意されている点が大きな特徴になっている。
さっそく、東京中央区新川にある平和紙業に伺い、営業統括本部 谷口和隆氏にお話を伺った。価格もリーズナブルで、印刷適正も優れており、各方面での利用が見込まれる。このコラムでは「トーンF」の魅力を紹介しよう。
クールグレーとウォームグレーのバリエーション
デザインワークにおいては、グレーの利用頻度は高く、用紙を選ぶ際にもグレー系のものを選ぶ機会は多いだろう。グレーといっても、赤みがかったものや、青みがかったものまでさまざまな色合いがあるが、「トーンF」はグレーの代表的なカラーバリエーションである、寒色系の「クールグレー」と暖色系の「ウォームグレー」の2つの色体系から成っている。この2つのカラー体系があれば、さまざまなニーズに対応できる。
最初に「トーンF」の見本帳を見せていただいた(写真1〜4)。クールグレー系統とウォーム系統のグレーでそれぞれ7段階のカラーがあり、合計14種類の色数がある。この色見本を見ると、製造工程において色管理が難しいことが推察される。「染料で染めていますが、製造ごとに同じ色を再現するのは大変です。しかし、グレーの色の変化が崩れて見えないないように細心の注意を払っています」と谷口氏は語る。
「トーンF」は四六判Y目の60kg、90kg、160kgの連量構成になっている。ふっくら嵩高の紙であるが、紙質はしっかりした手応えで硬い感じがする。一般的に嵩高紙はふわっとした柔らかいイメージだが、「トーンF」は張りがあり硬い印象だ。さらに「トーンF」は活版印刷や箔押しとの相性も良い。「エッジがしっかり立つので、丸くならずにガツンとした活版になります」と谷口氏。
(写真5)は貼り箱に「トーンF」を使用したサンプル品。金の箔押しもシャープに仕上がっている。貼り箱のようなパッケージ製品の場合は、上蓋と本体の紙色を変えることで、違った効果を生み出すことができる。14種類の色数があるので、2色の組み合わせだけでも14×14で196通りの展開が可能だ。
(写真6)はプロセスカラー+Gold+Silverの刷り見本。CMYのプロセスカラーは地色の影響を受けるが、スミ文字の視認性は高く、細線の再現性も高い。さまざまな刷り色を重ねて複雑なテクスチャーを表現できるだろう。
本の装幀に活用された事例を見てみよう
出版物では、本の装幀のカバーや帯、表紙、見返し、扉に独特な風合いをもつファンシーペーパーが使われる。装幀のデザイン段階では、これらの紙質や色を変えて、コンビネーションや効果を検討するが、そうした場合に1つのシリーズでグレーの配色が選択できる「トーンF」の意義は大きいだろう。
出版業界においても「トーンF」の反響は大きいようだ。谷口氏に出版物での活用事例を紹介してほしいとお願いした。「まだ発売したばかりなので、実際に使用された例は少ないのですが、話題の新刊書籍「人生の踏絵」(遠藤周作 著、新潮社)には「トーンF」が採用されました。表紙にはWG5、扉にはWG1が使われています(写真7、8、9)」
この書籍は、マーティン・スコセッシ監督作品の映画『沈黙─サイレンス─』の公開で話題になっている。原作者の遠藤周作氏が『沈黙』をはじめとするキリスト教文学をテーマにした講演を書き起こしたもので、関心を寄せている方も多いだろう。本書を手にすると「トーンF」の感触を確かめることができる。
「トーンF」について、新潮社装幀室の黒田貴氏にお話を伺った。「グレー色の紙は意外と少なく、段階的な明度で色調が揃う紙というのは存在しなかったので、発売はとても嬉しいです。遠藤周作の「人生の踏絵」という本にさっそく使ってみました。表紙にWG5、扉にはWG1を使用しています。カバーがシンプルな地色なので表紙には淡くテクスチャーを印刷しました。紙の質感と相まって深みが出てとてもいい雰囲気です。扉のWG1は落ち着いた優しい白になりました。WGシリーズのウォームグレーの上品な色調は文芸書ととても相性が良いと思います」
本コラムをまとめるにあたり、私が普段お仕事をお願いしている装幀家の大森裕二氏氏に「トーンF」についての可能性を聞いてみた。驚いたことに大森氏は、「映画は文学をあきらめない」(宮脇俊文 編、水曜社、2017年3月8日発売)において見返しの用紙にさっそく「トーンF」を使用したそうだ(写真10)。
「平和紙業の方から新製品「トーンF」発売のニュースを聞いて、現在取り組んでいる仕事でさっそく使ってみました。「トーンF」は1つの銘柄でグレーのバリエーションが選べるのが魅力です。本の装幀以外でも、さまざまな案件に使えそうです。今後も積極的に提案していきたい」と大森氏は語る。
「トーンF」のホットな話題は尽きない。ファンシーペーパーの魅力を存分に発揮できる「トーンF」は、今後もさまざまな展開事例を見ることができるだろう。注目の新製品だ。