平和紙業株式会社
紙の色名を決める(その3)
2回にわたって「紙の色名」について書いてきましたが、果たして、紙を選ぶ人は、色名から紙を選んだりするのでしょうか?
紙の選び方にもいろいろ方法はありますが、最終的に選んだ紙が、たまたま○○という色名だったと言うことが大半のような気がします。
世の中には誰もが理解している色名が多数あるにも関わらず、何故こんなにこだわって、色名を考えるのかという疑問が湧いてきます。
赤、青、黄色、緑、紫、橙…みたいなのでいいじゃないか。
もしくは、レッド、ブルー、イエロー、グリーン、パープル、オレンジで事足りるじゃないか。
実は、私もそう思います。
しかし、一口に「赤」と言っても、紙の種類によって、その「赤」の方向性は違っています。濃い赤なのか、薄い赤なのか、鮮やかな赤なのか、爽やかな赤なのか、その紙の持つコンセプトを色に託した以上、その色は一つの主体性を持つことになるのです。他の紙には無い、個性を持った色。その個性を無視して、単純に「赤」とすることは、色に対する冒涜ではないのか…ちょっと大げさですがそんな気がするのです。
前回の「かぐや」同様、コンセプト優先の商品の色名には先人も苦労したようです。
例えば、「新草木染・ハーブ」という紙があります。
もともとは、草木染を紙で表現した、「新・草木染」と言う紙のコンセプトバージョンで、ハーブを使って布を染めたような風合いを求めた紙です。
1991年の発売当初は、8色の展開で、商品名に「ハーブ」とある通り、色名は植物のハーブからつけられています。1993年には7色を追加し全15色となりました。
フラックス、カモマイル、ローズマリー、ラクスパー、ヒソップ、マダー、マリーゴールド、オレガノ、レモングラス、バジル、ラベンダー、ローレル、ホップ、オニオン、プレーンの15色ですが、実際のところ、色と色名が本当にリンクしているのかというと、少し不自然なところも見受けられます。
同時に、そのハーブを知らないと色名を聞いただけでは、具体的な色が連想できないという、もどかしさも内包しています。
紙を選んだ時、その色名が「ラクスパー」だった場合、「ラクスパー」がどんな植物かを知らなければ、その色と色名とが頭の中で上手くリンクしない場合も生じます。
とは言え、商品のコンセプトを色名にまで反映させた点では、28年前に既にこうした実験的な取り組みが行われていたことに、少々驚きます。
しかも発売時のコピーが、「香りが、色になり、肌になり、紙になった。」です。
紙に香りを感じさせるという、嗅覚までも総動員して、紙の魅力を高めようとしたことに敬意を表さざるを得ません。
そして、時代を感じさせる「ハーブパーティーへようこそ」というコピーもまた、単なる紙という存在を超えて、紙から受ける印象を敢えて空間的な広がりにまで発展させています。「ハーブパーティー」というと、昨今ではちょっと危ないパーティーを連想させ、物議を醸しそうなコピーではありますが、当時は、お洒落なティーパーティーを連想させたかったに違いありません。
そして、ハーブの香りと、ハーブティーをポットからカップに注ぐ音まで聞こえてきそうです。更には、楽し気に集う人々の笑顔まで見えてきそうな、そんな空間が眼前に広がります。
視覚、味覚、触覚、聴覚、嗅覚といった、五感を総動員して、紙の魅力を伝えようとしたかったのでしょう。
一言に紙の色名と言っても、そこにはファンシーペーパーの魅力を、いかに伝えるかといった、大切な役割があるのだと思っています。
現在、新草木染・ハーブは、四六判Y目、全11色、3連量のラインナップとなっています。ちょっと一息入れたい時に、是非一度お手元にとって、眺めてみてください。
ハーブパーティーに誘われた気持ちになると思いますよ。