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絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展

絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

絵本『ちょうちょうなんなん』から生まれたスピンオフ企画

ちょうちょうなんなん』(井上奈奈 作、あかね書房)は2018年春に発売された絵本です(写真1〜3)。この本には特筆すべき特徴がいくつかあります。

まず、色がとても鮮やかであること。これは、特色4色だけを使用して印刷されているからです。次に驚くのが、絵がすべてひとつながりになっていて、ページをまたいで最後までつながっていることです。テキストは蝶の飛翔の軌跡に沿って配置され、ひとつながりの線で結ばれています。まるで絵巻物のような絵本です。

(写真1)絵本『ちょうちょうなんなん』井上奈奈 作、あかね書房。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真1)

(写真2)絵本『ちょうちょうなんなん』井上奈奈 作、あかね書房。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真2)

(写真3)絵本『ちょうちょうなんなん』井上奈奈 作、あかね書房。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真3)
(写真1〜3)絵本『ちょうちょうなんなん』井上奈奈 作、あかね書房。

絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真1)絵本『ちょうちょうなんなん』井上奈奈 作、あかね書房。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真1)
※写真はクリックすると拡大されます。

(写真2)絵本『ちょうちょうなんなん』井上奈奈 作、あかね書房。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真2)

(写真3)絵本『ちょうちょうなんなん』井上奈奈 作、あかね書房。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真3)

(写真1〜3)絵本『ちょうちょうなんなん』井上奈奈 作、あかね書房。

陶芸家 こいけちえ、製本家 本間あずさ、写真家 前川貴行の協力を得て実現した特装版

『a Butterfly Effect』というスピンオフ企画は、『ちょうちょうなんなん』という1冊の絵本から派生した作品が集められた展示です。1冊の絵本が「種」になり、いろいろなものが派生していく様子を見ることができます。

今回の企画は、作家の井上奈奈さんが、陶芸家のこいけちえさん、製本家の本間あずささん、写真家の前川貴行さんに作品制作を依頼するところからはじまりました。井上奈奈さんは、今回は作家としてではなく、いわばプロデューサーとして全体を指揮する役に回ったところが興味深かったです。

出来上がった個々の作品が、今回はじめて公開されることになり、東京都国立市のmuseum shop Tで行われた展示会に行ってきました。以下に、制作された作品を順に見ていきましょう。

まず、製本家の本間あずささんが手がけたのは、手仕事で仕上げたジャバラ製本の絵本です(写真4〜6)。ジャバラ製本にするアイデアは、作家の井上奈奈さんが絵本の企画段階から考えてたことで、出版社とも協議を重ねたそうです。しかし、ジャバラ製本は書籍として量産が難しく、断念せざるをえなかったとのこと。

しかし、元々の絵本がページがつながる絵巻物のような作りになっていること、また蝶の飛翔の軌跡がつながった一本の線で表されていることから、ジャバラ製本の形態はこの絵本にはうってつけです。今回本間さんに制作を依頼できたことで、井上さんのかねてからの願いが叶ったということになります。さらに本間さんは、本を収納する黒の夫婦箱のブックケースも制作しました(写真7)。

製本されたものを拝見して一番驚いたのは、全ページにわたる「ちょうちょう」の軌跡が刺繍で表現されていることです。刺繍の工程が一番時間がかかり大変だったと本間さんは語ります。紙に刺繍する場合は、事前に穴を空け、糸のテンションを調整しながら慎重に進めていく作業になるそうで、気の遠くなるような作業であることが想像できます。

(写真4)本間あずささんが手がけられたジャバラ製本の絵本。刺繍はすべて手作業。表紙の素材はベルベット、箔押しも施されている。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真4)

(写真5)本間あずささんが手がけられたジャバラ製本の絵本。刺繍はすべて手作業。表紙の素材はベルベット、箔押しも施されている。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真5)

(写真6)本間あずささんが手がけられたジャバラ製本の絵本。刺繍はすべて手作業。表紙の素材はベルベット、箔押しも施されている。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真6)
(写真4〜6)本間あずささんが手がけられたジャバラ製本の絵本。刺繍はすべて手作業。表紙の素材はベルベット、箔押しも施されている。

(写真7)本間あずささんが手がけられた黒の夫婦箱のブックケース。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真7)本間あずささんが手がけられた黒の夫婦箱のブックケース。

陶芸家のこいけちえさんは、この本を収納する陶製の箱を制作しました。容器は蓋をして2段で重なるようになっています。下段には植物用の「種」が入った器(植木鉢として使える)が入り、上段にはジャバラ製本の絵本が収まる構造です(写真8、9)。

粘土は板状のものを組み立てるのですが、乾燥する際に収縮するので、サイズを見極めるには粘土の特性を熟知していないといけないそうです。乾燥後に穴を開ける作業もあり、展示に間に合わせるには失敗は許されない作業になったと語ります。

陶製の「種」は、こいけさんのアイデアで加えられたそうです。この種(絵本)から新しい作品やプロダクトが芽生えてくるようにとの願いが込められているのでしょう。

(写真8)こいけちえさんが手がけられた陶製の箱。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真8)こいけちえさんが手がけられた陶製の箱。

(写真9)上はジャバラの本を展開したもの。左は、本を収納する黒の夫婦箱のブックケース。右は本を収める陶製の箱。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真9)上はジャバラの本を展開したもの。左は、本を収納する黒の夫婦箱のブックケース。右は本を収める陶製の箱。

写真家の前川貴行さんには、物語の中で登場するクモの写真が依頼されました。クモは、ちょっとドキリとする被写体ですが、モノクロのイメージで再現されました(写真10)。

写真のプリントは、アワガミファクトリーによる和紙に出力され、柔らかな印象に仕上がっています。

(写真10)写真家の前川貴行さんによるクモの写真。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真10)写真家の前川貴行さんによるクモの写真。

「a Butterfly Effect」展は、これまでにない本のあり方を提起したもので、とても興味深く拝見しました。1冊の絵本から派生した、いろいろな作品やプロダクトが一堂に並べられた展示は素晴らしい眺めで、ファンにとってもワクワクするものでした(写真11)。今後は書店やギャラリーなどで展示が予定されているそうです。お近くで開催の折には、お見逃しなく。

(写真11)ギャラリー展示の風景。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真11)ギャラリー展示の風景。

当サイト(活版印刷研究所)では、これまで井上奈奈さんの絵本にまつわる情報をお届けしてきました。興味のある方は、以下のコラムを参照ください。

『くままでのおさらい 特装版』が「世界で最も美しい本コンクール」で銀賞を受賞

手作り製本の魅力──絵本「うさぎまでのおさらい」ができるまで

(写真4)本間あずささんが手がけられたジャバラ製本の絵本。刺繍はすべて手作業。表紙の素材はベルベット、箔押しも施されている。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真4)

(写真5)本間あずささんが手がけられたジャバラ製本の絵本。刺繍はすべて手作業。表紙の素材はベルベット、箔押しも施されている。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真5)

(写真6)本間あずささんが手がけられたジャバラ製本の絵本。刺繍はすべて手作業。表紙の素材はベルベット、箔押しも施されている。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真6)
(写真4〜6)本間あずささんが手がけられたジャバラ製本の絵本。刺繍はすべて手作業。表紙の素材はベルベット、箔押しも施されている。

(写真7)本間あずささんが手がけられた黒の夫婦箱のブックケース。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真7)本間あずささんが手がけられた黒の夫婦箱のブックケース。

(写真8)こいけちえさんが手がけられた陶製の箱。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真8)こいけちえさんが手がけられた陶製の箱。

(写真9)上はジャバラの本を展開したもの。左は、本を収納する黒の夫婦箱のブックケース。右は本を収める陶製の箱。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真9)上はジャバラの本を展開したもの。左は、本を収納する黒の夫婦箱のブックケース。右は本を収める陶製の箱。

(写真10)写真家の前川貴行さんによるクモの写真。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真10)写真家の前川貴行さんによるクモの写真。

(写真11)ギャラリー展示の風景。 | 絵本『ちょうちょうなんなん』から派生した『a Butterfly Effect』展 - TOPICS | 活版印刷研究所

(写真11)ギャラリー展示の風景。

「a Butterfly Effect」

●ギャラリー情報

「a Butterfly Effect 」
井上奈奈 / こいけちえ / 本間あずさ / 前川貴行
期間:3月30日(土) – 4月14日(日)
場所:museum shop T

●アーティストプロフィール

井上奈奈
京都府舞鶴市生まれ、東京都在住。16歳のとき、単身アメリカへ留学、美術を学ぶ。武蔵野美術大学卒業。主な著作に絵本『ウラオモテヤマネコ』『ちょうちょうなんなん』がある。2018年『くままでのおさらい』特装版がドイツライプチヒにて開催された[世界で最も美しい本コンクール]にて銀賞を受賞。国内外での個展やアートフェアにて作品発表を続け、舞台、書籍表紙や雑誌、雑貨デザインへ作品を提供している。

本間あずさ(空想製本屋)
1983年茨城県笠間市生まれ。東京外国語大学外国語学部卒業。大学在学中の2005年より、都内の工房にて手製本を学ぶ。編集職を経た後、2010年「空想製本屋」を屋号に製本家として独立。2011年、半年間スイス・アスコナの製本学校で再び学ぶ。現在は、東京都小金井市に自宅兼アトリエを構え、少部数の受注製本、製本教室、ワークショップなど活動中。
手製本リトルプレスMONONOME PRESS主宰。

こいけちえ(陶芸家)
長野県伊那市在住。1995年 カナダバンフアートセンターにて陶芸を始める。1999年 帰国後、愛知県瀬戸市 寺田康雄氏に師事。2003年 ハルヒポタリースタジオ 開設。2013年 フランス バロリスAIR 参加。2017 信州高遠美術館 「みんなの希望の種」インスタレーション。陶芸教室、陶芸関連イベント、個展、グループ展、クラフト市出店などの活動。現在伊那市にてAIRを立ち上げる準備を進めている。

前川貴行(写真家)
1969年、東京都生まれ。動物写真家。エンジニアとしてコンピューター関連会社に勤務した後、26歳の頃から独学で写真を始める。97年より動物写真家・田中光常氏の助手をつとめ、2000年よりフリーの動物写真家としての活動を開始。日本、北米、アフリカ、アジア、そして近年は中米、オセアニアにもそのフィールドを広げ、野生動物の生きる姿をテーマに撮影に取り組み、雑誌、写真集、写真展など、多くのメディアでその作品を発表している。2008年日本写真協会賞新人賞受賞。第一回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ。公益社団法人日本写真家協会会員。

協賛:湖山医療福祉グループ  株式会社 コンテクスト