生田信一(ファー・インク)
『くままでのおさらい 特装版』が「世界で最も美しい本コンクール」銀賞を受賞
2016年11月に刊行された『くままでのおさらい 特装版』(井上奈奈著、ビーナイス刊)という絵本をご存知でしょうか。この絵本の本文ページは、東京都杉並区にある中野活版印刷店でリソグラフ(デジタル孔版印刷)という印刷機で刷られています。鮮やかな表紙や本文ページの製本は、長野県にある美篶堂伊那製本所で手製本されました。
筆者がこの本を最初に手にしたときの感動は忘れられません。本を開くと、リソグラフ特有の印刷インキが美しく、絵本の著者の井上奈奈さんの絵やテキストと見事にマッチしていること、さらに手製本の造本の見事な出来栄えに驚かされ、その世界のすばらしさにしばし言葉を失い、見惚れてしまいました。
2018年3月、この絵本が、「世界で最も美しい本コンクール」において銀賞を受賞したというニュースが飛び込んできました。このコンクールは、世界各国のブックデザイン賞の入選作品等が審査対象となり、今回は33カ国から608作品がエントリーされたそうです。日本からは、「第51回造本装幀コンクール」(主催:日本書籍出版協会、日本印刷産業連合会)で日本印刷産業連合会会長賞を受賞した『くままでのおさらい特装版』を含め入賞した21作品が出品され、その中から『くままでのおさらい特装版』が銀賞を受賞しました。
受賞後、『くままでのおさらい 特装版』の増刷が決まり、急きょ2回目の印刷・製本のスケジュールが組まれました。今回のコラムでは、出版元のビーナスの杉田龍彦さんのご好意で、授賞式の様子や増刷時の印刷・製本の工程の写真をお借りすることができました。『くままでのおさらい特装版』の印刷・製本プロセスのレポートと、ドイツ、ライプチィヒのブックフェア会場で行われた授賞式の様子をお伝えします。
『くままでのおさらい 特装版』の魅力
銀賞を受賞した『くままでのおさらい 特装版』は7カ国から選ばれた審査員から「表紙に施された黄色いクロスは、見た目にはわからないが触ると感じられる特殊な布を用いており、その感触がこの横開きの布の本を開くのをしばしためらわせる。表紙の円形のレリーフは、縁とくぼみをもった皿を思わせ、エンボス加工ではなく三層構造で仕上げられている。表紙の第一層、二層が、円形に抜かれており、このレリーフの深さによって、はっきりとそして柔らかな影を持つ皿を表現している。」(講評一部抜粋)と評されました。
表紙は3枚の厚紙の合紙になっており、上の2枚が円形でくり抜かれ、お皿の窪みを表しています。表紙には布のような質感のクロスが巻かれていますが、お皿の窪みにぴったりと貼り合わされ、感触を楽しむことができます(写真1)。本体と表紙をつなぐ見返しのカラーは鮮やかなオレンジ色。最初のページはお皿を抱いたクマの扉絵です(写真2)。この物語は主人公の女の子がいろいろな動物を「ぱくぱく ごっくん」と食べるシーンが続き、お皿がキーモチーフになっています(写真3)
『くままでのおさらい』は、オンデマンド印刷、ソフトカバー仕様のハンディ版もあります(写真4)。コンパクトなサイズで、気軽に手に取ることができるのが魅力です。
(写真1)『くままでのおさらい 特装版』(井上奈奈 著、ビーナイス刊)。表紙は3枚の厚紙の合紙でできており、お皿の窪みを表しています。クロスが貼られているが、窪みにぴったりと密着している点に注目してほしい。タイトル文字はシルバーの箔押し。サイズ:255×216×10mm、装丁・本文デザイン:竹歳明弘(スタジオビート)、本文印刷:中野活版印刷店、製本:美篶堂、詳細はこちら
(写真2)鮮やかな朱色の見返しを開くと、お皿を持ったくまが現れる。見返しの用紙はタント。
(写真3)お皿に盛られた動物たちを「ぱくぱく ごっくん」とたいらげます。
(写真4)『くままでのおさらい(ハンディ版)』(絵と文:井上奈奈著、ビーナイス刊)。ハンディ版はサイズ148×148mm×7mm、オンデマンド印刷、ソフトカバーの体裁。
また、「くままでのおさらい」のスピンオフとして生まれた『うさぎまでのおさらい』があります。こちらは空想製本屋の本間あずささんが監修した糸かがりの手製本、表紙や本文ページはリソグラフ印刷で中野活版印刷店が手がけました(写真5)。こちらの印刷・手製本のレポートは、当サイトのコラム「手作り製本の魅力──絵本「うさぎまでのおさらい」ができるまで」を参照ください。
(写真5)『うさぎまでのおさらい』(絵と文:井上奈奈)、A5版20ページ、糸かがり手製本。「くままでのおさらい」スピンオフ絵本。製本監修:空想製本屋、リソグラフ印刷:中野活版印刷店。
(写真1)『くままでのおさらい 特装版』(井上奈奈 著、ビーナイス刊)。表紙は3枚の厚紙の合紙でできており、お皿の窪みを表しています。クロスが貼られているが、窪みにぴったりと密着している点に注目してほしい。タイトル文字はシルバーの箔押し。サイズ:255×216×10mm、装丁・本文デザイン:竹歳明弘(スタジオビート)、本文印刷:中野活版印刷店、製本:美篶堂、詳細はこちら
(写真2)鮮やかな朱色の見返しを開くと、お皿を持ったくまが現れる。見返しの用紙はタント。
(写真3)お皿に盛られた動物たちを「ぱくぱく ごっくん」とたいらげます。『
(写真4)『くままでのおさらい(ハンディ版)』(絵と文:井上奈奈著、ビーナイス刊)。ハンディ版はサイズ148×148mm×7mm、オンデマンド印刷、ソフトカバーの体裁。
(写真5)『うさぎまでのおさらい』(絵と文:井上奈奈)、A5版20ページ、糸かがり手製本。「くままでのおさらい」スピンオフ絵本。製本監修:空想製本屋、リソグラフ印刷:中野活版印刷店。
中野活版印刷店でリソグラフ印刷
出版元のビーナスの杉田龍彦さんを迎えて、今回の受賞にまつわるお話をお聞きしました。聞き手にはブックデザイナーの大森裕二さんに同席していただきました。大森さんは2006年に刊行された『江戸鳥類大図鑑』(平凡社刊)のデザインを手がけられ、この本は2008年の「世界で最も美しい本コンクール」で銀賞を受賞しました(写真6)。大森さんはドイツのライプツィヒの授賞式にも参加されたので、お二人のお話しを通して、今回の『くままでのおさらい特装版』の受賞について語っていただきました。
(写真6)『江戸鳥類大図鑑』(堀田正敦 著、鈴木道男 編著、平凡社)。江戸時代、幕府の中枢にいた堀田正敦が40年かけて執筆した鳥類図鑑に現代鳥類学の知見を加えて解説した。1170点の美しい細密画と膨大な鳥の情報がぎっしり入った豪華鳥類百科。造本設計:大森裕二、印刷:株式会社プロスト、製本:石津製本所、表紙金版:有限会社 坪井金版彫刻所。
大森さんは『くままでのおさらい 特装版』を眺め、「少ない色数で素晴らしい出来栄えに仕上がっていることに驚かされます」と感想を述べ、「手製本の造本はかねてから一度トライしてみたいと思っているのですが、なかなかそうした案件に巡り会えなくて…」と語ります。
ビーナイスの杉田龍彦さんは、出版社に勤務後に独立、「港区でいちばんちいさな出版社」として株式会社ビーナイスを立ち上げました。同社のホームページには「出版、ネットの枠を飛び越えた、手触り感覚のある作品を送り出せる新しいタイプの編集者、クリエイターと共に新しい企画を送り出していきます」とうたい、ユニークな出版物を送り続けています。全国の絵本専門店や本を愛する出版人と連携してさまざまな企画を催すほか、出版関連のイベントに出店する機会も多いそうです。ブースで見かけたらぜひのぞいてみてください。私が発売直後の『くままでのおさらい特装版』に出会ったのも、そうしたイベントがきっかけでした。
今回の受賞を機に2018年の春先に増刷を決定しました。今回の増刷では、杉田さんは制作現場をフォトグラファーの岩本竜典さんと同行し、数々の写真を残されました。以下では写真とともに『くままでのおさらい特装版』のメーキングを紹介していきましょう。
まずは、印刷の工程です。印刷は中野活版印刷店が手がけました。印刷に使われたたのは理想科学工業の「リソグラフ」、孔版印刷の原理を生かしたデジタル印刷機です。「この絵本の出版の相談を著者の井上奈奈さんから受け、リソグラフ印刷を使うことになりました」と杉田さんは語ります。リソグラフはドラムが色ごとに用意されているので、CMYKの掛け合わせではない鮮やかな特色で色を再現できます。また製版が孔版印刷のしくみなので、刷り上がりがシルクスクリーンのような味わいがあります。使われた印刷機は2ドラムで一度に2色を印刷できるタイプです。ドラムは色ごとに用意されているので、ドラムを交換するだけでさまざまなバリエーションの多色刷りができます。
以下にリソグラフの印刷の様子を紹介します(写真7〜11)。
(写真7)中野活版印刷店店主の中野好雄さん。2ドラムのリソグラフ印刷機では、一度に2色を印刷できる。写真はドラムを取り替えているところ。
(写真8)
(写真9)
(写真8、9)リソグラフから出力された『くままでのおさらい 特装版』の紙面。
(写真10)
(写真11)
(写真10、11)多色刷りでは印刷位置を合わせる調整作業が欠かせない。濃度や印刷位置の調整は印刷機のパネルで操作できる。あえて印刷位置をずらすことで、版ずれをを起こしたような効果を再現することもできる。
初版発売時に話題になったのは、一冊一冊にシリアルナンバーが振られていることでした。限定部数の手製本であるため、本そのものがアート作品のようです。シリアルナンバーの印刷には金属活字と活版印刷機が使われています(写真12、13)。
(写真12)
(写真13)
(写真12、13)初版時のシリアルナンバー(写真12)と増刷時のシリアルナンバー(写真13)。金属活字を使った活版印刷で刷られている。
(写真14)印刷風景。店主の中野好雄さんは、デザインのお仕事を手がけながら印刷のお仕事もこなす。毎年夏に開催される活版TOKYOイベントの運営メンバーでもある。
写真7〜14、撮影:岩本竜典
(写真6)『江戸鳥類大図鑑』(堀田正敦 著、鈴木道男 編著、平凡社)。江戸時代、幕府の中枢にいた堀田正敦が40年かけて執筆した鳥類図鑑に現代鳥類学の知見を加えて解説した。1170点の美しい細密画と膨大な鳥の情報がぎっしり入った豪華鳥類百科。造本設計:大森裕二、印刷:株式会社プロスト、製本:石津製本所、表紙金版:有限会社 坪井金版彫刻所。
(写真7)中野活版印刷店店主の中野好雄さん。2ドラムのリソグラフ印刷機では、一度に2色を印刷できる。写真はドラムを取り替えているところ。
(写真8)
(写真8、9)リソグラフから出力された『くままでのおさらい 特装版』の紙面。
(写真9)
(写真10)
(写真10、11)多色刷りでは印刷位置を合わせる調整作業が欠かせない。濃度や印刷位置の調整は印刷機のパネルで操作できる。あえて印刷位置をずらすことで、版ずれをを起こしたような効果を再現することもできる。
(写真11)
(写真12)
(写真12、13)初版時のシリアルナンバー(写真12)と増刷時のシリアルナンバー(写真13)。金属活字を使った活版印刷で刷られている。
(写真13)
(写真14)印刷風景。店主の中野好雄さんは、デザインのお仕事を手がけながら印刷のお仕事もこなす。毎年夏に開催される活版TOKYOイベントの運営メンバーでもある。
写真7〜14、撮影:岩本竜典
美篶堂の手製本風景
製本を手がけたのは長野県伊那市美篶にある美篶堂伊那製本所です。杉田さんは伊那の製本所を訪ね、製本の工程に立ち会われ、製本工程の貴重なショットを撮っていただきました。以下に写真を見ながら工程を解説します。
製本所はのどかな田園風景が広がる環境の中に立地し、中に入ると広々とした空間の中に手製本を効率的に進めるための必要な道具が設備され、作業用の机が多数並んでいます。製本作業の基本は人の手によるものであることが伺え、大量の部数を製本する大型の機械は見当たりません(写真15、16)。
(写真15)美篶堂の看板。
(写真16)製本所の内観。
製本作業の最初は、中野活版印刷店で刷られた『くままでのおさらい』の本文ページが机の上にページ順に並べられ、一枚ずつ拾う「丁合(ちょうあい)」という作業を行います(写真17、18)。一般的な書籍では、大判の用紙にページ面付けされた用紙を機械で折り、片面8ページや16ページの折丁を作成し、これをページ順に束ねていくのですが、今回はリソグラフ印刷で単ページで出力されているため、1枚ずつ拾っていく作業になりました。
今回の増刷では200部を製作します。出来上がった本にはシリアルナンバーが印刷されて読者に届けられるので、手にした人は特別な感情を抱きます。一冊ずつ手作業で丁寧に仕上げる本だからこそ味わえる楽しみと言えるでしょう。
(写真17)
(写真18)
(写真17、18)丁合作業。印刷された本文ページが並べられ、ページ順に用紙を拾っていく。
ページ順に重ねられた束は、背の部分を糊で固めます。糊付けを行う前に背の部分を化粧裁ちして印刷のドブ(裁ち落としの領域)を落とします(写真19)。次に、刷毛を使って糊を塗布し、背を固めます(写真20)。
(写真19)背の部分の化粧裁ちを行う。
(写真20)背を糊で固める(「ザク固め」というそうで、ほんの強度を出しています)。
糊で固めた背に寒冷紗を貼り(写真21)、カッターで1冊ずつバラします(写真22)。本の背に寒冷紗を貼ることで、崩れを防ぐとともに表紙と中身の接着を補強することができます。
(写真21)数冊まとめて背の部分に寒冷紗を貼ります。
(写真22)寒冷紗を貼った後、カッターで1冊ずつバラします。
本体と表紙は見返しの用紙で接着されます。見返しを折る作業も手作業で行われます(写真23)。まず、見返しを本体に糊付けします(写真24)。
(写真23)見返しを折る作業。
(写真24)見返しを本体に糊付けします。
本文ページの本体が出来上がると、背以外の三方を断裁し、化粧裁ちします(写真25)。
(写真25)天、地、小口側の三方を断裁し、断面をきれいに整えます。
背に寒冷紗を貼り(写真26、27)、花布(はなぎれ)を付け(写真28)、さらに背紙を貼ります(写真29)。背の見えない部分ですが、これだけの補強や花布の装飾が施されていることを知ると驚かされます。花布は、上製本などで、本文の背の天地両端に貼り付ける小さい布地です。もともとは色糸を折丁に交互に縫いつけ、本を丈夫にするとともに装飾としていたものですが、現在では布で色糸を模造し、これを装飾用として貼り付け背部を隠す目的で使われています。
(写真26)
(写真27)
(写真26、27)背に寒冷紗を貼ります。
(写真28)花布を付けます。
(写真29)背紙を貼る作業。
最後に、本文と表紙を合体させます。表紙のノド元に溝入れを行い、板紙を芯にした表紙を開きやすくします(写真30〜32)。
(写真30)
(写真31)
(写真32)
(写真30〜32)本文と表紙を合体させ、溝入れを行う。
表紙に見返しと本文ページが一体になった本体を糊で固定して、完成です(写真33、34)。
(写真33)
(写真34)
(写真33、34)見返しを付けて完成。
装丁のお皿のシルエットと窪みを表すアイデアは、デザイナーであるスタジオビート・竹歳明弘さんの発案です。このアイデアを実現するために、杉田さんは美篶堂さんに相談したそうです。当時のことを振り返り、美篶堂の上島明子さんは語ります(写真35〜37)。
「デザイナー竹歳さんの特装本の表紙のお皿のシルエットのアイディアを伺ったとき、上島松男親方に相談したところ、糊の濃度や抜き加工やプレスの仕方などをざっと教えてもらい「こうすれば、綺麗にできるよ」とのアドバイスをそのままお伝えしたところ、杉田さんが目をキラキラさせてお返事くださったこと忘れられません」
(写真35)美篶堂神田ショップ店長で美篶堂社長である上島明子さん。
(写真36)美篶堂伊那製本所の工場長 上島真一さん。
(写真37)美篶堂伊那製本所 副工場長の小泉翔さん。
本書のブックデザインを担当されたスタジオビート・竹歳明弘さんは語ります。「井上奈奈さんから私に、そして中野活版印刷さんへと、まさに手から手とリレーされたこの『特装版』は、美篶堂さんでクライマックスを迎え、世界に羽ばたいていきました。今回の増刷にあたり、初めて訪れた美篶堂さんで拝見した手仕事ぶりは、ものづくりの楽しさを再認識させてくれる素晴らしいものでした。ところで表紙の黄色いお皿、読者の方は何を載せるのでしょう(笑)。そんなことが気になる最近です」(写真38)。
(写真38)デザイナーのスタジオビート・竹歳明弘さん。
美篶堂伊那製本所の立会いには『くままでのおさらい 特装版』の受賞者が集合しました。本作りに関わったスタッフが一堂に会する機会はめったにありませんので、受賞者と美篶堂のスタッフのみなさんと集合写真を撮りました(写真39、40)。素敵なショットですね。感慨深いです。
(写真39)美篶堂伊那製本所の立会いには受賞者が集合した。左から、中野活版印刷店の中野好雄さん、デザイナーのスタジオビート・竹歳明弘さん、美篶堂伊那製本所の工場長 上島真一さん、ビーナイスの杉田龍彦さん、美篶堂神田ショップ店長で美篶堂社長である上島明子さん、美篶堂伊那製本所 副工場長の小泉翔さん。
(写真40)美篶堂のスタッフのみなさんとの集合写真。
写真15〜40、撮影:岩本竜典
(写真15)美篶堂の看板。
(写真16)製本所の内観。
(写真17)
(写真17、18)丁合作業。印刷された本文ページが並べられ、ページ順に用紙を拾っていく。
(写真18)
(写真19)背の部分の化粧裁ちを行う。
(写真20)背を糊で固める(「ザク固め」というそうで、ほんの強度を出しています)。
(写真21)数冊まとめて背の部分に寒冷紗を貼ります。
(写真22)寒冷紗を貼った後、カッターで1冊ずつバラします。
(写真23)見返しを折る作業。
(写真24)見返しを本体に糊付けします。
(写真25)天、地、小口側の三方を断裁し、断面をきれいに整えます。
(写真26)
(写真26、27)背に寒冷紗を貼ります。
(写真27)
(写真28)花布を付けます。
(写真29)背紙を貼る作業。
(写真30)
(写真31)
(写真30〜32)本文と表紙を合体させ、溝入れを行う。
(写真32)
(写真33)
(写真33、34)見返しを付けて完成。
(写真34)
(写真35)美篶堂神田ショップ店長で美篶堂社長である上島明子さん。
(写真36)美篶堂伊那製本所の工場長 上島真一さん。
(写真37)美篶堂伊那製本所 副工場長の小泉翔さん。
(写真38)デザイナーのスタジオビート・竹歳明弘さん。
(写真39)美篶堂伊那製本所の立会いには受賞者が集合した。左から、中野活版印刷店の中野好雄さん、デザイナーのスタジオビート・竹歳明弘さん、美篶堂伊那製本所の工場長 上島真一さん、ビーナイスの杉田龍彦さん、美篶堂神田ショップ店長で美篶堂社長である上島明子さん、美篶堂伊那製本所 副工場長の小泉翔さん。
(写真40)美篶堂のスタッフのみなさんとの集合写真。
写真15〜40、撮影:岩本竜典
「世界で最も美しい本コンクール」の審査風景
杉田さんから、今回の受賞の審査風景の写真を主催者から提供を受けたのことで、ここで紹介させていただきます。以前受賞された大森さんも、審査風景の写真を見るのは初めてとのことで興味深く拝見しました(写真41〜46)。
写真を見ると世界中から集まったさまざまなジャンルの本が山のように積まれています。毎年約30カ国以上の国から600冊余りの書籍が集まり、ドイツ国内外の書籍製作に携わる専門家7名の審査員がデザイン・コンセプト、機能性、タイポグラフィー、素材の選択、印刷、製本等の観点から審査にあたるそうです。
審査について杉田さんのお話を紹介します。「2014、2017年に日本から審査に参加した同志社女子大学の高木毬子先生の話を後で伺いました。ご自身もコンクールで金の活字賞(大賞)を受賞された方です。審査で使われるチェック項目のリストを見せてもらったのですが、その審査基準の厳しさに驚いてしまいました。事前にそのチェックリストを知っていたら出品するのをためらってしまったかもしれません」と笑いながら話します。
大森さんが受賞された『江戸鳥類図鑑』では、審査にあたった海外の審査員の方が日本語を理解しているのか疑問に思われたそうです。というのも『江戸鳥類図鑑』では江戸期の文献を忠実に再現するために、現代では使われなくなった膨大な数の漢字を作字し、それらをフォント化して書籍の中に使っていることが特徴になっているからです。大森さんは審査員の方が日本語や漢字をそこまで理解していただけたのか疑問に思い授賞式の会場で問いかけたわけですが、明確な返事はもらえなかったとのこと。
『江戸鳥類図鑑』は、ページをめくると美しい鳥の図版が製版技術で忠実に再現され、縦組で組まれた日本語も読みやすく美しい書籍です。また、この本では「ダブル版面」というアイデアも評価されました。通常書籍の場合、図版や写真も本文にそろえて版面内に構成するものですが、この本では図版の版面を本文の版面と仕上がり面の間に設定し、ビジュアルをダイナミックに表現しています。
近年の受賞作品では、中国の書籍が数多く受賞の対象になっていることから、東アジアの書籍文化が世界で着実に評価されていることが伺えます。組版の読みやすさやレイアウトの美しさのクオリティは、国籍を問わず読者に伝わるものなのでしょう。デザインに携わる者にとっては身が引き締まる思いです。
(写真41)
(写真42)
(写真43)
(写真44)
(写真45)
(写真46)
(写真41〜46)コンテストの主催者から提供された2018年2月の審査風景の写真。7人の審査員が技術部門とデザイン部門に分かれ、デザイン・コンセプト、機能性、タイポグラフィー、素材の選択、印刷、製本等の観点から審査にあたり、入賞作品を選出する。
写真;Rolf Wöhrle
受賞作品の図録は冊子としてまとめられています。この冊子を見せていただき驚きました。製本が凝りに凝っているのです。『くままでのおさらい 特装版』が掲載された部分を紹介します(写真47)。
(写真47)2018年のコンクールの受賞作品の図録。
(写真41)
(写真42)
(写真43)
(写真44)
(写真45)
(写真41〜46)コンテストの主催者から提供された2018年2月の審査風景の写真。7人の審査員が技術部門とデザイン部門に分かれ、デザイン・コンセプト、機能性、タイポグラフィー、素材の選択、印刷、製本等の観点から審査にあたり、入賞作品を選出する。
写真;Rolf Wöhrle
(写真46)
(写真47)2018年のコンクールの受賞作品の図録。
受賞式と展示風景
授賞式と受賞作品の展示は、2018年3月、ライプチィヒのブックフェア会場に設けられたブースで行われました。杉田さんは当日参加できなくなってしまったために、中野活版印刷店の中野好雄さんが授賞式会場に参加されました(写真48)。
(写真48)中野活版印刷店 中野好雄さん。
中野好雄さんに授賞式の当日の様子を語っていただきました。「授賞式当日の朝にライプチィヒに到着し、ホテルに寄り、入場チケットを受け取ってからタクシーで会場へ向かいました。会場になっている「ライプチィヒ・メッセ」は、ライプチィヒ中央駅からトラム、電車で約20分で移動できる距離にあります。天候は雨から雪になり、かなり寒かったです。
5つのホールで構成されている巨大なライプチィヒ・メッセですが、その中を14のカテゴリーに分け、展示ブースでは主に出版社が自社の出版物のプレゼンテーションをしているようでした。小学生の高学年の団体、コスプレーヤーなどもいて、会場はめちゃくちゃ混んでいます。まずは受賞式の会場をチェックしようと探しましたが、広すぎるのと混んでいるので、確認できるまで30分以上かかりました。
授賞式の会場は「世界で最も美しい本コンクール2018」に出品された全作品を手に取ってみることができます。受賞作品は専用の棚が用意され表に向けて独立して設置されているのですが、大きな本棚に1冊づつ展示してあるために、ずいぶんと寂しい展示に見えます。
さて、授賞式の時間に会場の近くまで行っても、特に何か始まりそうな気配が全くなく、会場を間違ったかと思ったくらいです。そのうち、スタッフがテーブルを並び替え、演台が用意され、おもむろに主催者の会長がちょっと挨拶をし、授賞式が始まりました。作品の紹介をし、出版社、著者、デザイナーの名前が呼ばれ、会場にいる受賞者の名前が呼ばれ、メダルが渡されます。思っていたより、とてもラフな感じです。
テーブルの上には、赤ワインとクラッカーがあり、受賞者やそのテーブルに座ってる人が各々話をしながら、飲みながら自分の番を待っています。自分の番が来れば、立ち上あがり、メダルを受け取りに演台まで行き、メダルを渡されて終わりです。ゴールデンレターを受賞したデザイナーだけが、受賞後のスピーチをし、最後にシャンパンが配られて全員で乾杯して、授賞式は終了でした。こっちも拍子抜けしてしまうほど、実にあっけなく終わりました。
帰国してから聴きましたが、「世界で最も美しい本コンクール」の受賞作品はドイツの国立図書館にパーマネントコレクションされるようなので、機会があれば、ぜひ見に行ってみたいと思います」(写真49〜52)
(写真49)
(写真50)
(写真49、50)ライプチィヒのブックフェア会場の授賞式の様子。
(写真51)『くままでのおさらい』が発表され、スクリーンに映し出されたシーン。
(写真52)授賞会場で受賞者達と集合写真。
中野さんに受賞者に贈られた銀メダルも見せていただきました。銀メダルは紙の中に埋め込まれています。賞状の紙加工や文字組版が素晴らしく、うっとり見惚れてしまいます(写真53)。
(写真53)受賞者に贈られた銀メダル。
ブックフェアの会場にはコンクールの受賞作品を展示するブースが設けられ、受賞した『くままでのおさらい 特装版』が展示されました(写真54〜58)。
(写真54)
(写真55)
(写真56)
(写真57)
(写真58)
(写真54〜58)ブース内の展示風景。
写真43〜52の授賞式の写真、撮影;中野好雄ほか
入賞作品を紹介した図録では、今回入賞した作品が紹介されています(写真59、60)。
(写真59)
(写真60)
(写真59、60)2018年「世界で最も美しい本コンクール」受賞作品の図録より。
「世界で最も美しい本コンクール」の受賞作品は、東京都文京区にある印刷博物館の1FにあるP&Pギャラリーの「世界のブックデザイン」展で毎年展示されます。2018年は11月下旬から展示が予定されており、『くままでのおさらい 特装版』も陳列されます。来場者は自由に本を閲覧することができ、直接手に取ることもできます。貴重な機会で毎年楽しみにしています。
本作りに関わる者として、今回の『くままでのおさらい 特装版』の受賞はとても励みになるニュースでした。最後に、コラムに写真を提供いただいたビーナイスの杉田龍彦さんや受賞者の皆さんに感謝し、心からお祝い申し上げます。
では、次回をお楽しみに!
(写真48)中野活版印刷店 中野好雄さん。
(写真49)
(写真49、50)ライプチィヒのブックフェア会場の授賞式の様子。
(写真50)
(写真51)『くままでのおさらい』が発表され、スクリーンに映し出されたシーン。
(写真52)授賞会場で受賞者達と集合写真。
(写真53)受賞者に贈られた銀メダル。
(写真54)
(写真55)
(写真56)
(写真57)
(写真58)
(写真54〜58)ブース内の展示風景。
写真43〜52の授賞式の写真、撮影;中野好雄ほか
(写真59)
(写真59、60)2018年「世界で最も美しい本コンクール」受賞作品の図録より。
(写真60)