あみりょうこ
ミニプリントオアハカ
Septiembre(9月)
こんにちは。オアハカよりあみりょうこです。9月16日はメキシコの独立記念日でした。その前夜には「グリート」という独立の叫びがあったのですが、間に合わず……。遠くから花火が上がるのだけ見ました。
オアハカの版画工房
「グリート」の夜からさかのぼること2日。9月13日にある展覧会のオープニングがありました。オアハカに版画の工房が多いのは以前にコラムで書かせてもらいましたが、最近はさらに増えているという印象を受けます。工房が乱立しているだけではなく、それぞれの工房で雰囲気が違ったり力を入れている活動などもあるのでいろいろ見て回って、話を聞いてみると面白いと思います。
私たちが想像するいわゆるアートギャラリーとオアハカの工房兼ギャラリーが大きく異なるのは、作家自らが運営している点だと思います。もちろん、ギャラリストが運営するアートギャラリーも見かけますが、オアハカでよく見かける版画の工房は作業スペースにギャラリースペースが併設されているという場所が多く、大きなプレス機や作家が作業している様子を間近に見ることができたり、彼らから直接話を聞くこともできます。この距離感は、オアハカ独特のものなのか、CDMX(メキシコシティ)でこういった個人の版画の工房を探そうとしましたが見つけることができませんでした。オアハカという大きすぎない町の規模も、この独特の工房と一般の人との距離感を作り出してくれているのかもしれません。
女性の版画家ばかりで構成された工房や、ワークショップを開催している工房などもあります。その中で今回紹介したいのは、Taller Burro Press(タジェールブロプレス)という工房です。彼らは3年前から「mini print(ミニプリント)」という、15センチ×15センチの版画のコンクールを開催しています。
Mini Print Oaxaca
2017年に始まったミニプリントオアハカですが、工房で運営されている版画コンクールです。受賞者には小さなプレス機が副賞として贈られます。
初回と2回目(2017年と2018年)はメキシコ人あるいはメキシコに一定年数以上住んでいる外国人が参加対象でしたが、2019年度はラテンアメリカにその規模を広げました。それにより、ペルーやコロンビア、ウルグアイなど多くの南アメリカ大陸にある国々からも参加があったそうです。国が変わると版画の雰囲気も違っていて、版画により文化交流につながっているという印象を受けます。要件さえ満たしていれば参加費が無料で一人3点まで応募できるので、若いアーティストたちにも参加の敷居が低く、様々な作品が集まってくるのだろうな、と想像します。
1 CONCURSO LATINOAMERICANO DE MINIPRINT OAXACA 2019(第1回ラテンアメリカ圏・オアハカ版画コンクール2019)
壮大なプロジェクトですが、メヒコの郵便事情や海外からの応募もあるということを加味して、もともとの締切期限を延長したりして、そのあたりはおおらかな対応でのんびりしてメヒコ的だなぁと思いながら見ていましたが、いざ審査が終わると授賞式と展覧会のオープニングに向けてエンジン全開で準備をしていて、それもまたメヒコらしいなぁ、とつくづく感じました。
そう、ことが進み始めるとメヒコの仕事はめちゃくちゃ早いのです。メヒコ人が怠け者だというのは大きな誤解です。めちゃくちゃ働き者が多いのがメヒコです。普段は彼らの作品を展示しているギャラリースペースをコンクールの作品展示用に早変わり。壁の色も白く塗りなおして、副賞のプレス機も組み立てて展示されていました。
オープニング
準備万端でオープニングを迎えました。授賞式には会場に入りきらないほど多くの人が来ていました。他の州からも足を運んでいた作家さんもいて、ここで新たに作家同士の交流なども生まれていたようです。
表彰式の後は、音楽を聞きながら軽食や飲み物がふるまわれて、みんなで作品を見たり話したりリラックスムードです。余談ですが、大きな音の音楽を聴くたびに、日本人の友だちが、「いや~、日本のオープニングはこんな爆音で音楽かけられないから陰気なもんっす」と以前コメントしていたのを思い出してしまいます。
宴もたけなわというときに、入賞者の一人が副賞のプレス機をもって帰るための車が到着しました。会場の真ん中にあった真新しいプレス機が車に運ばれていくのを見ながら会場からは「ブラボー」という歓声と拍手が起こります。
工房のメンバーの話では、今回の入賞者の3人はまだ誰も自分のプレス機を持っていなかったということなので、この上ない副賞にみんなめちゃくちゃうれしそうでした。受け取ったプレス機を使ってこれからたくさんの新しい作品が生み出されていくのだろうなと想像すると、この版画コンクールの意義は本当に大きいと感心させられる限りです。このようなラテンアメリカ版画シーン(特に新しい世代の版画家に対して)の活性化に大きな影響を与えているコンクールを工房の私費でやっているのだから、もうそれは「すごい」の一言に尽きます。
このミニプリントの展示は約1か月くらいとのことなので、10月の半ば頃までTaller Burro Pressで見ることができます。
Taller Burro Press
ミニプリントの作品展示期間も、奥のプレス機がある部屋がブロプレスのメンバーの作品を見られるので、オアハカに行く方はぜひとも彼らの工房をのぞいてみてください。
工房メンバー
Ivan Bautista : http://www.ivanbautista.mx/
Edith Chávez : https://www.instagram.com/eddith.chavez/
Alberto Cruz : https://www.albertocruzmx.com/
Misayo Tsutsui : https://www.instagram.com/misayotl/
まとめ
最近はオアハカのかわいい・おいしいが日本でも浸透してきているようですが、版画シーンもかなりアツいので、オアハカに行ってみようという方はぜひぜひチェックしてみてくださいね。クオリティの高い日本の彫刻刀は人気で、それらを使って制作に励んでいる人も多く、日本人としては妙に感慨深い気持ちになったりもします。
プレス機で印刷されたインクのもつ強烈な力強さの中に、オアハカの繊細さや文化をも感じられると思います。
それでは、また次回お会いしましょう!