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アミリョウコ
セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市)

Diciembre(12月)

オラー、こんにちは!オアハカよりアミリョウコです。オアハカの12月は晴れの日が多く、暑くもないので本当に過ごしやすいいい季節だなぁと思います。

写真1 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

空が本当に青くて平和です。そんな青い空のオアハカを少し離れてアメリカに行ってきました。

写真1 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

アメリカの活版印刷の保存と普及にかかわる機関を見てきました!

せっかく別の町に来たので、そこのプリント事情を知るべく、CENTRAL PRINTというNPO団体を訪れました。

セントラルプリントは、2014年に発足した活版印刷の技術の保存と教育に力を入れている非営利の団体です。アメリカのセントルイスという町にあるセントラルプリントは、入ると壁に貼られたたくさんのポスターや、活字の棚、そして大きなプレスが目に飛び込んできます。壁にはスパチュラやローラーが並び、その隣にはたくさんのインク缶。

明らかに「作業ができる」感じが漂っているものつくりをする人にとっては足を踏み入れただけでなんだかわくわく感が高まってきます。

写真2 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

外観の写真を撮るのを忘れたのですが、ガラス張りの建物で外からもプレス機が見えていて何をしているんだろうと思わずのぞいてみてみたくなります。

写真2 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

セントラルプリントにあったプレス機たち

私も実際に活字やプレス機を使ってて作業をさせていただきました。オアハカの版画工房ではエッチングプレス機、キンタス先生のところではチャンドラーやハイデルベルクが活躍していますが、ここでは見たことのないプレス機がいくつかありました。

写真3 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真4 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

まずはこの2つ。正式な名前はわからないのですが、Proof Pressとよばれているこのプレス機は、その名の通り活版印刷で印刷物が作られていた時には組んだ活字の誤字脱字などやレイアウトを確認するためのテストプリント用につかわれていたそうです。

ローラーで活字にインクを直接乗せて、機械の上部にある印刷用のローラーを手で移動させます。圧も調節できるし(写真下のもの)、とても簡単に印刷ができてめちゃくちゃ手軽!!

写真5 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

半自動のエッチングプレス機。モーターが付いていて、ボタンを押すだけでウイーンとローラーがまわってくれます。簡単に印刷できそうなのですが、なかなか扱いの難しい機械だという印象を感じました。というのも、ハンドルのついているプレス機だとか買っている圧を感じながら印刷できるのですが、何せ自動なのでそれを感じることができません。

どのマシンを使うにも慣れがいるのだと思いますが、手動で印刷するのに慣れている私は、いったいなぜ半自動にしたんだろう?!と腑に落ちない気持ちでした。

写真6 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

そして個人的に大興奮のベンダークック。活字を台の上にセットしてハンドルをくるくるとまわして印刷するというこのマシンをインスタグラムなどで見かけたことがあって一度見てみたい、そしてできるなら触ってみたいと思っていたプレス機です。

一枚ずつ紙をセットして印刷するのですが、紙がぐるりとローラーの周りを一周してローラーが端っこまで行くと「カチッ」と音がします。出発するときは真っ白だったのに一周して印字された紙をローラーから取り外すときは何とも言えないうれしい気持ちに包まれます。ローラーのインクをつけるところのみが電動なので、印刷スピードはそんなに速くありません。だからポスターなどの印刷に向いているのかな、という感じがしました。

その他、手フートやチャンドラー製のちいさな足踏みのプレス機もありました。

写真3 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真4 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真5 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真6 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

セントラルプリントに来る人たちって?

こんなにたくさんの設備を備えたセントラルプリント。非営利団体なのでここでプロダクトを作るということは行われていません。それではどんな人たちが利用するのでしょうか。

私も何日か出入りしただけなのですが、それでも様々な人たちに出会いました。

クリスマスカードを印刷する女の子、自分の展示の作品の一部に使うためのラベルをレタープレスで刷る大学生、ファンジンの表紙を刷りに来た女の子、大きな活字を使って実験的にいろいろ吸っていた大学の先生、ドライポイントの版を刷りに来た男の子、レタープレスのワークショップにやってきたグラフィックデザイナーの人、など、など。

写真7 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

本当に、年齢も職業も問わない様々な人がやってくるな、という印象を受けました。

機械や設備の説明が必要な人に対してはワークショップやスタジオツアーを開催し、制作のためにプレス機を使いたい人たちに対してはメンバーシップになって年会費を払うことにより場所と用具を提供したり、あるいはボランティアをしてスタジオを使える時間を獲得しているという人もいるようでした。

それと同時に、近所の子供たちが遊びに来たり、プリント工のおじいさんがやってきて若い人たちの作業風景を見たり話に来たりと、コミュニティスペースの体もなしている印象を受けました。

プリントをする環境が地域に密着しているというか、溶け込んでいる様子はとても新鮮に感じました。

写真7 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

ディレクターに話を聞いてみた

写真8 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

この面白い場所についてもう少し詳しく知るために、ディレクターを務めるマリーさんに話を聞かせてもらいました。

マリーさんは、もともとはテキスタイルを勉強したらしく美術の非常勤講師やアートにかかわるNPO団体で働く経験をしたのち、セントラルプリントの立ち上げにかかわることになったそうです。初めて活版印刷に出会ったとき、プリントメイキングの工程はとてもたくさんあって、それがもともと自分が勉強していたテキスタイルにも通じるものがあると感じたと言います。

写真9 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

セントラルプリントの使命は前にも述べた通り「レタープレスの保存と普及」だそうですが、非営利団体という立場上「教育」の部分を多く担っているといいます。印刷物は私たちの生活のいたるところであるものなので、それらがどのようにできるのか、あるいはどのような歴史をたどっているかを若い世代に伝えるのはとても大事なことだと話しておられました。だからセントラルプリントは、すべての人たちが学べたり作れたりする環境を提供する場所であるのが理想なのだそうです。

非営利団体なので、政府に助成金を申請したりスポンサーを探したりと資金面やその調達した資金の使い方などにはいろいろと制約もあるようですが、非営利団体だからこそ、プレス機や活字を手放そうかと思っている人たちから無償で譲ってもらえたりという利点もあるそうです。

写真10 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

セントラルプリントには、活版印刷について全く知らない人、いわゆるプロの印刷工のおじいさん、あるいは活版印刷に興味のあるアーティストや学生など実に様々な人が来られます。マリーさんよりも活版印刷の技術や知識にたけた人たちもたくさんいるのだそうです。それらの人たちからは学び、助けが必要な人たちには場所や知識を提供するのばセントラルプリントの役目だだそうです。実際にセントラルプリントに来る様々な人たちを見ていると、子どもがふらりと遊びに来て、おしゃべりをしたり絵ををかいたり、たまには活字を組んで印刷してみたり、地域の中にこういう印刷を媒体としたコミュニティスペースのような場所があるのは非常にユニークだなと感じました。

オアハカにも印刷の文化がありますが、それとはまた違った感じがします。同じ印刷を媒体としているのに様々なアプローチの仕方があって面白いなとマリーさんと話しながら思いました。

他の活動の例としては、子供たち向けにサマーキャンプを開催したこともあるそうです。詩人の友人とコラボレーションの企画で、子供たちにライティングやリーディングの授業をして、その後プリントの技術を学んで彼らが作った詩のポスターを作り、街の中に掲示をしたのだそうです。教育と地域を大きく巻き込んだプロジェクトで、セントラルプリントが今まで行ったプロジェクトの中でも思い出深い、そしてまたやってみたい企画の一つだそうです。

もう一つ、マリーさんと話した中で興味深かったのは、活版印刷の在り方です。アメリカではレタープレスは今でも盛んにおこなわれていると思っていたのですが、プリンターすなわち「印刷工」として活版で印刷物を印刷して食べていくのはほとんど無理なのだそうです。しかし、そこにアート的な要素を加えたいわゆる作品を生み出すプリントメイカーとしてならまだ食べていける可能性があるそうです。

メヒコでもキンタス先生のように活版印刷だけで生活をするのは難しいので印刷業を廃業する人が多いですが、アメリカでも事情は同じのようです。

でもその中でも活版印刷の中に美しさと価値を見出した人たちが新しい表現の方法として今日でも様々な作品を生み出し続けています。

写真11 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

例えばセントラルプリント内の物販コーナーで販売されているポスターは、The Firecracker Pressという活版印刷の工房で生み出される作品の数々です。ブロックプリント(版画)とレタープレス(活版)を組み合わせて作られた作品はもちろん一枚ずつ手刷りで、独特の風合いが素敵です。

写真12 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真8 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真9 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真10 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真11 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真12 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

おわりに

今回、非営利団体という立場で社会と関わり貢献しているセントラルプリントという今まで見てきた印刷工房とは違うタイプの活版印刷を見て非常に興味深かったです。

次世代にこれまでの印刷の技術や歴史を伝えることは、とても大事なことだと思います。デジタルは便利ですがやはりものを作られる過程を知ることはやっぱりおもしろいし、古い技術を博物館や展示という形ではなく実際に触れて使って学べるというところが素晴らしいです。ものを作る人やアーティストたち、そうじゃない人たちにも誰にでも門扉が開かれている環境は理想的だなと思います。マリーさんは、「私たちは橋渡しの役目を果たせれば」と話しておられましたが、プレス機を使いに来ていた人たちにも使い方を聞かれたときに教えたりアドバイスをしたり、ボランティアに来ていた人たちにも教えながら仕事を与えたりといい距離感でその橋渡しを担っておられました。

印刷物や文字は私たちの生活になくてはならないものですし、めちゃくちゃ身近なものです。だからセントラルプリントのように誰でも「印刷がまなべる・できる」という環境が近くにあるのは本当うらやましいなと感じました。

インタビューをさせてくださったマリーさんに感謝です。

それでは、今年のコラムはこれで最後になりますが、つたない文章を読んでいただきありがとうございす。来年もどうぞよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えくださいね。

写真13 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所

写真13 | セントラルプリント(アメリカ、セントルイス市) - アミリョウコ | 活版印刷研究所