生田信一(ファーインク)
「本とか 装丁とか あいうえお」展/「新・和本装丁 イラストレーションとデザインで詠む万葉集」展に行ってきました
5月の連休前、茨城県 土浦市民ギャラリーを訪問し、「本とか 装丁とか あいうえお」展/「新・和本装丁 イラストレーションとデザインで詠む万葉集」展を見学しました。こちらは、一般社団法人 日本図書設計家協会の装画家、装丁家の皆さんによる企画展です。
本展は、本の専門家により本のさまざまな魅力を紹介してくれる展覧会です。筆者は専門学校でDTPの授業を受け持っているのですが、本の設計や印刷、製本をやさしく解説してくれる今回の展示は、筆者は是非みておきたいと思っていました。
では、会場にご案内します。
初めて訪れた 土浦市民ギャラリー
会場は茨城県土浦市の土浦市民ギャラリー、都心から1時間ほど電車に揺られて土浦駅に到着しました。会場の土浦市民ギャラリーは土浦駅に隣接した建物で、交通がとても便利(写真1、2)。
案内のテキストは以下の通り。
「本とか 装丁とか あいうえお」展
読者がふだん目にすることのない本づくりのウラ側を装丁家・装画家の視点でやさしく解説。どんな流れで本ができあがるの? デザインするときに気をつけていることは? パソコンのほかはどんな道具を使って仕事しているの? そんなブックデザインのあれこれを「あいうえお順」のパネルで、実物をまじえて楽しく紹介します。
「新・和本装丁 イラストレーションとデザインで詠む万葉集」展
日本図書設計家協会の装画家・装丁家が和様のファインペーパーを用いて制作した“令和時代の新しい和本”をご覧いただきます。 新元号の典拠となった万葉集から20首を選び、絵と文字で表現する「万葉画集」として一冊の本に仕立てました。 装画、装丁、紙による、色とりどりの和歌の世界をお楽しみください。
「本とか 装丁とか あいうえお」展
会場に入ると、中は広々としたスペースで、ゆったりとした展示が楽しめました。以下に展示風景を順に追っていきます。
まずは、「本とか 装丁とか あいうえお」展の展示から見ていきましょう。入口に掲げられた制作者ごあいさつのパネル(写真3)と、かわいいタッチのイラスト(写真4)が素敵です。イラストを担当されたのは、タオカミカさん。
会場に入ってすぐの展示では、本の構造が実物を展示して解説されていました。上製本(ハードカバー)の構造を上から俯瞰して、各部の名称を示しています(写真5、6)。
また、本を見開いたところを上から俯瞰した様子も図解されています(写真7、8)。
印刷・製本の専門用語は独特で、普段聞き慣れない言葉がずいぶんあります。例えば、「チリ」という言葉は、多くの方はご存じないのではないかと思います。
本展では、こうした普段聞きなれない専門用語が「あいうえお作文」になって登場します。最初に出会うのは本のオブジェです(写真9、10)。
本のタイトルは、装丁に関する専門用語です。タイトルは、あ行の「雨、雨降り」から始まり、以降「色見本」「裏抜け」「えびす紙」「帯」と続きます。
「雨、雨降り」というのは、「製本工程で、製本機の包丁(刃)がこぼれていると、小口に斜めの筋が残ることを指すとのこと。雨が降っているように見えることから、その跡を雨、雨降りと呼ぶそうです(写真11、12)。
「開き」の解説では、アジの「開き」のイラストが笑わせます。本の開きをよくするには、以前は糸かがりが必須だったのですが、近年は接着力の強い糊(「PUR」と呼ばれる製本用接着剤)が登場したことで、必ずしも糸かがりにする必要がなくなった、と解説されています。
「フランス装」という言葉も聞きなれない人には不思議なイメージかもしれません。「フランス装」については、「なんちゃってフランス装」について触れています。これは「仮フランス装」のことですね(写真13)。
展示スペースの方法もユニークです。「あ行」から順に紹介します(写真14、15)。
「か行」「さ行」の展示もおもしろいです(写真16、17)。
「は行」には、よく読むと、デザイナーさんの苦悩が見え隠れしています(写真18)。
そのほか、装丁の技法として、小口装飾、ホットスタンプ(写真19)、トムソン加工(写真20)の事例を見ることができました。
「新・和本装丁 イラストレーションとデザインで詠む万葉集」展
次に、同じ会場で催されていた『新・和文装丁』の展示について見ていきましょう。
パネルには以下の解説がありました(写真21)。
「『万葉画集』は、デザイナー(装丁家)とイラストレーター(装画家)がペアを組んで、それぞれ2ページ1見開きとブックカバー1種を担当して47ページの画集を制作しました。
この展覧会では、ページとブックカバーを変えながら、見開きとブックカバー各20作品40点を展示しています。
ブックカバーを掛けた40冊については、お手にとってご覧いただけますので、和様のファインペーパーの手触りをお楽しみください。」
『万葉画集』は、縦長の変形サイズで、本文の綴じ方が袋とじ状になったユニークな作りになっています。20種類ありますが、一部を紹介します(写真22〜25)。
奥付には、本書の印刷スペックが記されています。カバー、表紙、本文に使われた用紙のスペック、本書のカバーのイラストレーションを担当された装画家のみなさん、デザインを担当された装丁家のみなさんのお名前が記されています(写真26)。
カバーをはずした表紙のショット(写真27)
最後に、和綴じ風製本を解説したパネル(写真28)。和綴じ本を思わせる袋とじ状の本文は、印刷の面付や製本ラインの流し方を工夫して、機械で製本しています。
本の装丁について、いろいろ教えてくれる展示、楽しかったです。印刷・製本の世界の奥深さを実感させてくれるもので、クスっと笑えるユーモアが散りばめられていて、飽きさせません。お近くに巡回された折には是非ご覧になってください。
では、次回をお楽しみに!
一般社団法人 日本図書設計家協会
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル2F
URL:https://www.tosho-sekkei.gr.jp/
一般社団法人日本図書設計家協会(The Society of Publishing Arts)は、ブックデザイインに関わるクリエイターのための団体。略称は「SPA」「図書設計」。会員はブックデザイナー、イラストレーター、写真家、編集者で、書籍の装丁、雑誌などのエディトリアルデザイン、イラスト制作など多岐にわたる。