生田信一(ファー・インク)
コミックエッセイ「温泉浴衣をめぐる旅」の特製しおりを活版印刷で作りました
今回のコラムは、イラストレーターのスタジオクゥ、ひよさ&うにささんが書き下ろしたコミックエッセイ『温泉浴衣をめぐる旅』の刊行を記念した、特製の栞(しおり)を活版印刷で作る工程をご紹介します。
このコラムでは名刺など比較的厚手の用紙の事例を取り上げることが多かったのですが、栞のトライアルは初めてです。栞に適した用紙の選定についても触れたいと思います。また、紙質を変えることでどんな違いが生まれるのかの実験も試みました。さらには新刊の発売を記念しての落語会のお知らせなど、盛りだくさんの内容になっています。
しばしの間、寄ってらっしゃ〜い\(^o^)/
スタジオクゥさんのコミックエッセイ「温泉浴衣をめぐる旅」が刊行
スタジオクゥさんのコミックは既に2冊が刊行されています。一作目の『召しませキモノ』(イースト・プレス刊)、二作目の『おひとり様のふたり暮らし』(イースト・プレス刊)があります(写真1)。
本では、作者のひよさ&うにささんの関心のあるテーマを取り上げ、体験・取材して、漫画や写真を交えた構成になっています。作者のお二人は、漫画の中に実在の人物として登場します。実際にお会いしてお話ししてみると、実にソックリで、お二人の特徴をよく捉えています。
一作目の『召しませキモノ』は、着物の楽しさ、おもしろさを綴った一冊です。着物に関心がある女性が主な読者層で、ファンの年齢層も幅広いようです。一作目でありながら、今でも売れ続けるロングヒットになっています。背景を聞くと、「キモノがストーリーの入口ではあるけれど、できるだけ違う出口を考えて作りました。それが長く読んで頂ける理由かもしれません。」と話してくれました。
大学の同級生だったお二人は、共に美術大学の油絵科に在籍されていました。卒業後にひょんなことからお二人でイラストの仕事を始め、数年後にルームシェアを始めたそうです。このあたりは、二作目の『おひとり様のふたり暮らし』に詳しく描いてあるので、是非読んでみて下さい。
で、今回3年振りの新刊が発売されます。『温泉浴衣をめぐる旅』(イースト・プレス刊)で、全ページフルカラー、温泉と浴衣、さらにオイシイもの、ヘンなもの、笑えるモノ、ためになるもの、などなど情報満載です。きっと楽しく読んでいただけると思います(写真2)。
2色刷り栞の印刷データ
スタジオクゥ ひよさ&うにささんの興味や関心は、印刷関連のグッズ制作にも向かっています。お話を伺うと、大学の一・二年生のときは、油絵の絵画技法以外に、版画の技法を学ぶカリキュラムがあったそうです、現在では、仕事で雑誌の挿絵などの絵を描いていますから、絵作りに関しては申し分ない知識をお持ちです。
今回、新刊書籍の発売に合わせて印刷グッズを何か作ろう、という企画が持ち上がり、私と活版印刷研究所がお手伝いさせていただくことになりました。このあたりの経緯は、飲み会の勢いで、ということもありましたが、私がスタジオクゥさんの描くマンガが大好きだったということであります。
データ作成にあたっては、手描きのイラストをスキャニングした後に、Photoshopで加工し2色のデータを作成していただきました(写真3〜5)。
印刷入稿用にIllustratorでそれぞれトンボを付けて画像を配置したのが(写真6、7)。2色が毛抜き合わせになっており、絵柄が細かいので、印刷時の見当合わせの難易度が高そうです。印刷を請け負うCAPPAN STUDIOさんにデータを確認してもらい、OKをいただき、製版・印刷の工程に進みました。
フリッターで印刷する
印刷用紙の選定は、当初悩みました。CAPPAN STUDIOさんに相談しましたが、絵柄が決まらない段階では、どの用紙が適切か判断できないとのことでした。年が明けた1月初頃、出来上がった絵柄をCAPPAN STUDIOさんに見ていただきました。最終的には「フリッター ホワイト 135kg」で行くことに決めました。
平和紙業の「フリッター」は、昨年10月にリニューアルが実施され、色数、斤量が大幅に増えました(コラム「軽やかで明るい色合いのファンシーペーパー「フリッター」がリニューアル」参照)。フリッターを使った新作が市場に出回り始めていますので、ニュースとしても新鮮です。
フリッターは、表面がモコモコした凹凸が特徴で、見た目にも揚げ物のフライのように軽くて、明るいイメージのファンシーペーパーです。スタジオクゥさんの描くイラストの軽いタッチともマッチしています。
また、活版印刷特有の印圧による凹凸も出したいとの要望を受け、135kgの斤量を選びました。名刺のようなカードであれば、200kgくらいの厚い用紙も選択肢に入りますが、栞は本に挟んで使うものなので、斤量はやや低めのものを選びました。ちなみにフリッターのホワイトは、70kg、90kg、110kg、135kg、160kg、180kg、200kg、220kg、360kg、440kgの10種類の斤量があります。
出来上がりは(写真8〜12)を参照ください。
「温泉浴衣をめぐる旅」刊行を記念してのスペシャルな企画
スタジオクゥさんの3年振りの新刊「温泉浴衣をめぐる旅」の刊行を記念して、スペシャルな企画が用意されています。
●刊行を記念した落語会を開催
来る2019年3月17日に、単行本発売を記念して、なんともスペシャルでゴージャスなイベントを開催予定です。題して!
『温泉浴衣をめぐる旅』出版記念!特別寄席。
出演:柳家小せん(落語)・柳家小春(唄、三味線)
場所:らくごカフェ
https://rakugocafe.exblog.jp/
(〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2丁目3神田古書センター 5F)
日付:3月17日(昼の部)。開場時間13:00 開演13:30(予定)
料金:2500円
小せん師匠のスペシャル寄席の後は、スタジオクゥのお2人によるサイン会も予定されています。また、ご来場いただいた方には、このコラムでご紹介した特製栞をプレゼント!
チケットのご予約は「ご希望の落語会と日付」「お名前(フルネーム)」「ご連絡先(携帯電話等)」「ご必要枚数」をお書きの上、 『らくごカフェ』(rakugocafe@hotmail.co.jp)までご送信ください。お電話でのご予約は 03-6268-9818 までお願いいたします。(平日12時~18時受付)
●リソグラフで一筆箋を作る
新刊書籍が刊行されると、刊行後に取材などでお世話になった方へ見本誌を謹呈します。栞で作成した2色刷りのデータを元に、見本誌を送付する際に添える一筆箋もリソグラフで作成されました。印刷見本をいただいたので紹介します(写真13)。
リソグラフは孔版印刷の印刷機です。印刷は中野活版印刷店さんで行いました。用紙はわら半紙(更紙)、シンプルで懐かしい趣があります。
2色の重ね方は、栞の時と違って「ヌキ」(毛抜き合わせ、ノックアウトとも言う)ではなく「ノセ」にしたとのこと。リソグラフでは、2色を重ねる場合、あえて版ズレを作る技法があります。版ズレした部分は紙色が表れますが、あえて版ズレさせることでレトロな雰囲気を出す技法です。
しかし、一筆箋の絵柄は細かいので、版ズレを防止するためにデータ上「ノセ」にしたとのこと。「こうした印刷の技法は、実際にやってみないと解らないことが多く、今回いろんな印刷を試して勉強になりました」とひよささんは語ります。
紙質を変えて印刷する
今回のスタジオクゥさんの栞に印刷に合わせて、当サイトの活版印刷研究所で、印刷用紙を変えて効果を比較する実験を行いました。用意した用紙は、印刷用紙の代表的な3種類、上質紙、アートポスト紙、マットコート紙です。紙の厚みは、フリッター135kgと同程度のものをそれぞれ選びました。
用紙が変わると、印刷後のインキの発色具合が変わり、見た目の印象も大きく変わります。上質紙、アートポスト紙、マットコート紙の用紙の特徴や印刷仕上がりの違いを知っておくと、今後、印刷発注する際の参考になると思います。刷りは活版印刷で2色刷りを行った時と同じ条件で刷っています(厳密に言うと仕上がりを確認しながら機械を微調整しています)。
●上質紙
上質紙は、表面に塗料などがコーティングされていない紙です。印刷や筆記に適した紙で、コストが安いので利用する機会も多いでしょう。紙本来の質感が表れ、触ると紙の優しさを感じます。印刷時には紙にインキが浸透するので、コート紙に比べると色が沈みますが、落ち着いた仕上がりになります。
●アートポスト紙
アートポスト紙は、光沢が出る塗工を施した印刷用紙。一般的なコート紙よりもコーティング量が多く、アート紙というカテゴリーに入る紙です。光沢性があり彩度が高いので、カラー写真を印刷したポストカードや美術書など、色を表現したい印刷物に適しています。
●マットコート紙
表面にコーティングした用紙ですが、表面のツヤを消した印刷仕上がりになります。インキがのった時の発色も良く、光沢がなく光を反射しないので、可読性に優れています。しっとりとした質感と手触り感があり、上品で落ち着いた雰囲気を演出したい場合に選ぶとよいでしょう。
●活版印刷研究所が「活版印刷の特色表現 ED.002」を発売
以下、お知らせです。
当サイト、活版印刷研究所では、「活版印刷の基本表現」に続く第2弾「活版印刷の特色表現」の見本帳を発売します。三星インキの活版印刷用特色インキ18色を「非塗工紙」「塗工紙」「マットコート紙」それぞれに刷った見本帳です。3種類の用紙の印刷見本を比較して、用紙の種類による発色の違いが確認できます。特色の基本18色が鮮やかに再現され、さらに各色のベタ面や罫線、パターン、文字サイズの再現性も印刷見本を通じて確認できます。活版印刷の特色表現を検討する際に重宝する一冊です。ぜひお手元に。
追加情報です。
『温泉浴衣をめぐる旅』出版記念!特別寄席では、本の発売に合わせて井上新五郎正隆さんにより書きおろされた新作落語が披露されるそうです。楽しいイベントになりそうです。ぜひぜひお出かけください。
では、次回をお楽しみに!
プロフィール
スタジオクゥ ひよさ&うにさ
女性2人組のイラストレーター。書籍の挿絵などを中心に活動。ブログ『キモノは別腹』が人気となり、初のコミックエッセイ『召しませキモノ』を書き下ろす。2014年には台湾でも翻訳版が刊行された。ふたりの同居生活を描いた『おひとり様のふたり暮らし』も人気。