平和紙業株式会社
紙に歴史あり 「小暮紙」「アルメニアン」
1980年代の、所謂バブル期と呼ばれる頃、様々なファンシーペーパーが世に登場します。
世の中が新しいものを常に求めていたこの時代は、ファンシーペーパーにとっても、ある意味で実験を繰り返してきた時代でもありました。
特に、紙の中に、何かを混ぜ、意匠性を高めた商品の開発はその最たるものでした。
その中には、現在に続く商品もあれば、日の目を見ることなく姿を消した商品も多々あったのも事実です。
ファンシーペーパーを作るうえでの実験を繰り返す中、意匠性に重点を置くために、紙としての機能性を無くした商品までもが登場します。
紙に木屑を入れ、着色することで、極端にザラザラ感を出し、まるでサンドペーパーのような風合いに仕上げた紙までもが生まれることになりました。
1988年「小暮紙(こぐれし)」の誕生です。
薄口と厚口の二つの厚みで、しらかば、くるみ、かしの3色。
四六判(788×1091)T目の紙です。(写真1、2)
意匠性を高めるあまり、紙としては挑戦的過ぎる商品でした。
先ず、印刷ができない。木屑を混ぜたことにより、紙表面の凸凹感があまりに大きすぎて、インキが均等に乗らないことに加え、印刷時の吸紙段階で正常に吸紙されないし、更には、ブランケットを痛めると言うありさま。
シルク印刷も、インキが入り込まないので、正常な印刷ができないし、凸凹感が大きすぎて、箔押しも難しい。
更に大きな欠点として、断裁時には、断裁の刃を痛めてしまい、折を入れれば、木屑が脱落するといった、一体どうすれば利用できるのか分からない紙です。
もはや、使うことができるなら、使ってみろ!と言わんばかりの、使う者に、挑戦状を叩きつけるような紙でした。
しかし、意匠的にはこれ以上面白い紙は無く、面白い、使ってみたいと言わせるのですが、面白いけど使えないと言うのが本当のところでした。
当然、まったく売れず、ひっそりと姿を消すことになります。
1998年には、もう一つ、「小暮紙」と同じように、意匠性にこだわった紙が登場しています。
紙の上に糸を張った紙、『アルメニアン』です。
970×640㎜の寸法で、ナチュラル、セピア、ブルー、グレー、グリーンの5色展開。
この紙は、『アルメニアン』と言う名前が示す通り、アルメニアのカーペットを作る文化からインスパイアされたものです。“カーペット”という言葉は、古代アルメニア語の“カペルト”から来ているとも言われています。
紙表面に貼られた糸が個性を演出していて、紙でありながら、実際の織物のような雰囲気を醸し出しています。(写真3、4)
しかし、この紙も「小暮紙」同様、印刷ができない、箔が乗らない、折れば表面の糸が毛羽立つ等々、意匠性は面白いけど、実用性に欠ける商品でした。
更にこの紙は悲運に晒されます。
発売されてすぐに、アルメニアを大地震が襲ったのです。4万人以上の死傷者を出した、未曽有宇の大地震でした。
縁起でもない…。
この紙もいつの間にか、姿を消すことになりました。
とはいうものの、こうした実験的な取り組みが、今の商品開発の下支えになっていることは確かです。
面白さや、意匠性を持ちながら、同時に紙としての機能を持つ紙を如何に創り出していくかが課題でもあるからです。
今は姿を消した商品も、いつの日か再び機能性も両立させた商品として生まれ変わり、新しくなって登場する日がやってくるかもしれません。