生田信一(ファーインク)
NECKTIE design office 千星健夫さんが作るクリエイティブな年賀状(前編)
年賀状は新年を祝う挨拶状。NECKTIE design office 千星健夫さんの作る毎年の年賀状には、あっと驚かせる仕掛けが詰まっています。
さらに千星さんは、これらの製作記録をSNSやNoteの記事で記録し、公開しています。このコラムでは2回に分けて千星さんの年賀状のプロジェクトの数々を紹介します。今回は、2014年から2017年までの年賀状を紹介します。
2014年年賀状──午(うま)
まずは2014年の年賀状の製作プロセスを紹介します。その当時の世相を思い出していただくために、その前年の流行語大賞を調べ、テキストに添えてみました。当時を思い出しながら読んでいただけると思います。
前年 2013年の流行語大賞を受賞したのは、予備校講師・林修氏の「今でしょ!」、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」、TBS系連続ドラマ『半沢直樹』の「倍返し」、東京五輪招致のプレゼンテーションで滝川クリステルが日本をPRする際に使用した「お・も・て・な・し」の4語(参考:オリコンニュース)。流行語が豊作の年でした。
2014年は午(うま)年であることから、馬の蹄鉄をモチーフにしました。完成品がこちら(写真1)。
作り方を紹介しましょう。まずは馬の蹄鉄を購入(写真2)。
本物の蹄鉄には馬の蹄が前に行かないように突起物がある、ということが判明。ということでグラインダーで切断することに。(写真3、4)。
切断面はそのままだと相当ガリガリなので、今度はヤスリで表面を整えます。(写真5、6)。
よく磨いて、表面と裏面を塗装します(写真7)。
レーザーで文字を彫刻します。加工時に結構火花がでます(写真8、9)。
台紙を作成します。「紙目を横目にしておかないとめっちゃ反る」ということらしいので、通常とは逆の紙目で紙をオーダーしてます。台紙はGAファイルを使用。でも厚すぎると今度はインクジェットの機械に通らないので、いくつかの厚みをテストして、最終的な厚みを決定しました(写真10)。
台紙と蹄鉄をセットし、脱気パックを依頼しました(写真11)。
2015年年賀状──未(ひつじ)
前年 2014年の流行語大賞は、お笑いコンビ・日本エレキテル連合の「ダメよ~ダメダメ」と、「集団的自衛権」の2語が年間大賞に選ばれた(参考:オリコンニュース)。
この年は未(ひつじ)年であることから、ふわふわの素材にアクリルの切り文字をセットしました。完成品がこちら(写真12)。
レーザーカット加工はIID世田谷ものづくり学校に入ってるレーザーカッターを使用しました(写真13)。
1枚に10面付けしてます。1枚カットするのに45分(写真14、15)。
カウンター部分(中抜き部分)はまだ残っているので、ここはちまちま手で取っていきます。裏面にはこんな感じでクラフト紙が貼ってあるのでこれをはがしていく(写真16、17)。
ふわふわ素材をちぎって袋に詰めて、文字をセットします(写真18、19)。
出来上がった年賀状の表面と裏面(写真20〜22)。
2016年年賀状──申(さる)
前年 2015年の流行語大賞は、「トリプルスリー」と、「爆買い」の2語が年間大賞に選ばれた(参考:オリコンニュース)。トリプルスリーはプロ野球の1シーズンで打率3割、ホームラン30本、30盗塁以上の成績を表します。この年は福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手と、東京ヤクルトスワローズの山田哲人選手の2人が達成し、それぞれのチームをリーグ優勝に導いた。
この年は申(さる)年。透明のボックスにOHPシートをセットし、花びらを詰めました。完成品がこちら(写真23)。
極薄のカラーラッピングペーパー カラペを積層してレーザーで抜いていきます(写真24)。
抜き上がりです。抜きがまちまちでしたが、きれいにむしり取りました(写真25、26)。
花がごっそりできました。抜けきれてなかった中心のモチーフをもぎ取っていきます(写真27、28)。
OHPフィルムを出力して、カッターで手切りします。透明のボックスにOHPシートをセットします(写真29、30)。
花びらを詰めて、メッセージカードを入れます(写真31、32)。
完成品です(写真33、34)。
2017年年賀状──酉(とり)
前年 2016年の流行語大賞は、「神ってる」が選ばれました(参考:オリコンニュース)。「神がかっている」さまを表現した省略語で、プロ野球・広島カープの緒方孝市監督が6月18日、2試合連続サヨナラホームランを放った鈴木誠也選手の神がかった活躍を「神ってる」と表現した。
この年は酉(とり)年。お送りした方々のさらなる成長と発展を期待する意味を込めて「金のたまご」を製作しました(写真35)。
まず最初に完全なたまご型のスチロールを大量購入。そのままのたまごを送りたかったが、DM便の厚みオーバーで郵送できないので、2分割して台紙に貼る方向に。まずは電熱スチロールカッターでたまごをまっぷたつ(写真36〜38)。
表面がスチロールっぽすぎるので、プライマーで下地処理をします(写真39〜41)。
プライマーが乾いたら、つぎは塗装。ダンボールの簡易ブースをつくって、塗装します(写真42〜44)。
カードの台紙のプリント用紙は、厚みがほしかったので、紙を二つ折りにしてて両面テープで接着しました(写真45〜47)。
たまごが乾いたら、スチロール用の両面テープを貼って台紙のカードに接着します。最後にOPPの袋に入れて完成(写真48、49)。
完成した年賀状(写真50、51)。
私の記憶で印象に残っている年賀状のひとつに、以前経理の仕事をお願いしていた公認会計士事務所の先生からいただく年賀状があります。その前年の流行語をふんだんに盛り込んだ年賀状で、受け取ったカードのメッセージに笑ったり、励まされたりしました。テキストには前年の流行語が10個くらい潜んでおり、ユーモアに富んだテキストでした。
クリエイターの方にとっては、年賀状は年に一度のグラフィックトライアルのチャンスでもあり、その経験を通して得た知識は大きいと思います。相手の印象に残る年賀状は何か? なかなか難しいテーマですが、あれこれ考えを巡らせるのも楽しいですね。
では、次回をお楽しみに!
[プロフィール]
千星健夫(Chiboshi Takeo)
1976年、兵庫県生まれ。GRAPHIC / WEB / PRODUCTとジャンルをはみだしたデザインを手がける。写真撮影や活版印刷も自らおこなう。デザイン事務所勤務を経て、2014年NECKTIE design officeを設立。
Interior Lifestyle Young Designer Award 2018受賞。朗文堂タイポグラフィースクール 新宿私塾 講師。
Phone Nº:0422 26 6916
Fax Nº:0422 26 6917
E-mail:web@necktie.tokyo
Address:5-26-8 Inokashira Mitaka Tokyo 181-0001
www:https://necktie.tokyo/