平和紙業株式会社
和紙の世界を覗いてみる。
和紙の世界を覗いてみると、なかなかに興味深い。とはいえ、和紙の作り方や、原料など、2017年1月~2018年4月まで、このWeb Magazineで紙の余白さんが紹介しているので、詳しくはそちらをご覧いただいた方が早いかもしれません。
私が興味深いと思ったのは、作り方や材料ではなく、和紙が伝統を守るだけではなく、進化し続けているところです。
何となく、和紙と言うと、江戸時代くらいまでの歴史と文化を背負った、伝統工芸品のような雰囲気を漂わせています。
確かに工芸品でもありますが、それだけでは今の世の中生き残ってはいけません。そこには、様々な工夫やアイデアが盛り込まれ、過去と現代、そして未来へと続いていく新しい価値を生み出しつつあります。
同時に、各和紙の産地では、独自のブランド化も進めています。
例えば「大礼紙」。和紙の中でも代表的な和紙で、紙の表面に「華(はな)」と呼ばれる楮の皮を繊維状に細かく花弁のように散らした紙です。
今では、礼状や、冠婚葬祭など、儀礼的な場面で使われることの多い和紙です。
この「大礼紙」は、昭和天皇が即位する際の、大礼の儀式に際して作られたと言われています。作ったのは、越前(福井県)和紙の和紙職人。
それ以来、「大礼紙」は、越前和紙の代表ともいえる和紙となり、現在では、福井県和紙工業協同組合が、「大礼」を商標登録しており、越前以外の産地で、同様の紙を作っても、「大礼紙」と称することはできません。
そのため、同じような和紙でも、越前以外の生産地では、名前を変えて、「典礼紙」とか、「大典紙」とかの名前で表現されています。
「大礼紙」の「華」をレーヨンにし、華の光沢感を出したものは、「レーヨン大礼紙」と呼ばれ、散りばめられた「華」の光沢感が高級感を醸し出しています。この「レーヨン大礼紙」という名前も越前和紙でしか使えない名前となっています。
何故なら、福井県和紙工業協同組合が、「レーヨン大礼紙」という名前を商標登録もしているからです。
この「大礼紙」は、大正から昭和にかけて作られた「雲竜紙」から派生しています。「雲竜紙」は、長めの繊維を使い、紙の表面に曲がりくねったり、漂ったりするように絹雲のような雰囲気を醸し出した和紙です。また、この繊維にレーヨン繊維を使ったものは、「レーヨン雲竜紙」と呼ばれ、光沢感のある雲竜模様が映える和紙です。
レーヨンと聞くと、化学繊維のような響きですが、ナイロンとか、ポリエステルとは違い、植物繊維から科学的に取り出した繊維です。レーヨンは光沢感のある繊維で、かつては絹糸の代用品としても使われており、人造絹糸を略して「人絹(じんけん)」とも呼んでいました。
雲竜紙から、大礼紙へと進化した後、金箔を散りばめた「金大礼」、金箔・銀箔を散りばめた「金銀大礼」、楮繊維に着色した「多彩大礼」、パッケージやカード向けに厚みを持たせた「大礼ボード」など、多くのバリエーションが造り出されています。
また、先ほどのレーヨン繊維で不織布を作り、その上に雲竜柄を合わせたものを「レーヨン雲竜」と呼んでいます。薄くて軽く、上品な雲竜柄とあいまって、食品などの包装紙などによく利用され、特に和菓子の包装など、高級感のある仕上がりになります。
特に裏面にラミネート加工を施すことで、生菓子などの個包装に利用されることが多いのもこの「レーヨン雲竜紙」です。
「大礼紙」「レーヨン大礼紙」「雲竜紙」「レーヨン雲竜紙」と、よく似た名前ではありますが、それぞれに独自の世界を持つ和紙に進化してきました。
今また、こうした独自の発想をもとに、次々に新しい和紙や新しい使い道が提案されつつあります。大礼紙や雲竜紙をベースに、オンデマンド印刷や、オフセット印刷に対応させたり、温かみのある和紙を、インテリアやアクセサリー、日常の生活用品に取り込んでみたりする動きが、時代の流れの中で多く見られるようになってきました。
伝統工芸としての和紙も大切ですが、より実用性の高い和紙も大切です。こうしたメリハリを付けながら進化する、和紙の世界をもう少し、掘り下げていきます。