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アミリョウコ
オアハカの郊外・サンアグスティンエトラの紙工場を訪ねる

Febrero(2月)

こんにちは。オアハカよりアミリョウコです。天気の良い日が続いて気持ちのいいオアハカです。今回は、オアハカの郊外にある手すきで紙を作っている工場を訪れたことについて話したいと思います。

CASA

オアハカにはたくさんの手工業があります。木製品、織物、陶芸、メスカルなどさまざまですが、それぞれの村の特産を見に行くために郊外に足を運ぶのもオアハカの楽しい過ごし方の一つです。

その中に、San Agustin Etla(サンアグスティンエトラ)という村があります。オアハカからは乗り合いタクシーで30分ほど離れたところにあるところです。緑の丘が広がってのどかで、リタイアした外国人が移住したり別荘を持っていたりもして、オアハカ市内とはまた違った雰囲気です。

サンアグスティンエトラには、オアハカ出身の画家フランシスコトレド氏により設立されたCentro de las Artes San Agustin(通称CASA、カサ)というアートセンターがあります。もともとは織物の工場があったらしいのですが、改装されてギャラリースペースがあったりコンサートなどのイベントが行われたりしているほか、一般に向けて様々なワークショップなども開催されています。(ワークショップはメヒコ人のみならず外国人も受講できます!!)また、アートインレジデンスでアーティストを受け入れるスペースもあるので国内のアーティストのみならず海外からのアーティストも多くやって来ているようです。

Fábrica de Papel Vista Hermosa

オアハカの郊外・サンアグスティンエトラの紙工場を訪ねる - アミリョウコ | 活版印刷研究所

カサのメインの建物から少し下がったところにその紙工場はあります。サンアグスティンエトラはオアハカの市内に比べるときれいな水が豊富にあることでも知られています。私が訪ねた時は2名の男性が働いていて、一人は18歳の若い男の子、もう一人は15年くらいそこで働いているというお兄さんでした。

2人とも真剣な顔をして働いていましたが、話し始めてしばらく経つと、あっという間に人懐っこい笑顔になって色々話を聞かせてくれました。お兄さんによると、もともとオアハカには紙を手ですくという技術がなかったのでその技術を学ばばせるために20年くらい前に設立されたそうです。そして設立当時からフィンランド、ドイツ、中国、日本など紙づくりの高い技術を持った国から職人やアーティスを招聘して紙づくりの技術を向上させてきたとのことでした。

様々な国の人が来て教えてくれるので、紙の作り方だけではなくその国民性も見られるのが面白いんだと話していたところが印象的でした。例えば、中国の職人さんなんかは出来上がった製品がすべてなので、そこに至るプロセスはあまり重要ではないらしく大雑把に作業を進めるのに対し、日本人が来た時に見せてくれる紙づくりはどの工程もとても丁寧だと驚いていました。反対に私が驚いたのは、メヒコ人のお兄さんの口から「トロロ」という単語が飛び出した時です。私は食べる方のとろろしか思いつかなかったので「ええーー!トロロメヒコで手に入るの?!」と驚いていると、メヒコ原産のものはないので輸入したりアジアからくる人に持ってきてもらうのだとか。

オアハカににもともと紙を作るという技術がなかったため、紙づくりでは各国の職人さんから教えてもらった技術を混ぜて使っているのがこの工場の紙づくりの特徴です。訪れた時はちょうど閑散期だということで2人で働いていました。1人でどの工程もこなすことができるやり方はヨーロッパ式なのだと教えてくれました。繁忙期には8人体制でフル回転で働いて、海外からのアーティストがやって来て一緒に作品作りをするときもあるそうで、ある時やって来た日本人のアーティストについて話してくれました。

「そいつは、やって来てからずっとパソコンとにらめっこしてたんだよ。そして、滞在日数も残り少なくなったある日急に、さあ働こう、って。それで彼の言うとおりに紙を作ったんだよ。そしたら折ったりり切り込みを入れたりして紙で歯車を作ったんだ、あいつ。本当に動くからびっくりしたよ。パソコン上でいろいろ考えてたんだろうけど、日本人って訳が分からないよね。」

オアハカの郊外・サンアグスティンエトラの紙工場を訪ねる - アミリョウコ | 活版印刷研究所

メヒコ製の紙

オアハカの郊外・サンアグスティンエトラの紙工場を訪ねる - アミリョウコ | 活版印刷研究所

この工場で作られた紙は海外などにも輸出されたりするのだそうですが、工場に隣接されたショップでも紙を買うことができます。訪れる多くの人は観光客なので、紙だけ売ってもあまり需要がないらしく、ノートやアクセサリーに加工したものを売っているのだそうです。

しかし、メヒコ国内での手すきの紙の需要はそんなにあるわけではないらしく、かといって値段が上がればさらに需要が落ち込むし、高くなると外国からの輸入紙の方がメヒコ人アーティストには好まれて使われるので、なかなか難しい事情なのだそう。やはり、何事もサポートが必要ですね。サポートを得るためには、まずはこの状況を知ってもらうところから、といったところでしょうか。

ふと、「買ってくれるのは外国人やお金のあるメヒコ人だけで、オアハカの普通の人は買わないよ」と版画家の友人が話していたことや、「安くて速いデジタル印刷にかなわない」と言っていた活版印刷のマエストロのを思い出しました。一般の人の意識としては、手間がかかってそれだけコストがかかる職人の作るものが手が出しにくいものなのかなという印象を受けます。先日拝見した株式会社オオウエさんのコラム「ドイツのグムントに行ってきました」のドイツの考え方と根本的に違うのだなぁ、というのを思い知った気がします。紙や印刷だけではなく、素晴らしい技術を持った職人さんたちの技術がもっと広く認められるメヒコになればいいのになと思います。

参考

CASA : http://www.casa.oaxaca.gob.mx/
Feria Maestros del Arte : http://www.feriamaestros.com/spanish-artepapel.html

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