生田信一(ファー・インク)
ファインペーパー×活版印刷が融合したショップ、竹尾 淀屋橋見本帖がオープン
2018年4月7日、「竹尾 淀屋橋見本帖」がオープンした。これまで東大阪市の竹尾 大阪支店内にて営業していた「大阪見本帖」が、大阪市中央区の淀屋橋odona内へ移転、地下鉄御堂筋線「淀屋橋」駅10号出口直結、京阪本線「淀屋橋」駅3番出口から徒歩1分でアクセスでき、利用しやすくなった。
竹尾の「見本帖」とは、1899年創業の紙の専門商社 株式会社竹尾が運営する紙の専門店。新店舗の「竹尾 淀屋橋見本帖」は、紙選びの相談を承るほか、4,600 種類以上のファインペーパー、封筒やノートなどの紙製品を扱っている。さらに新店舗においてはCAPPAN STUDIOの工房を併設、ハイデルベルグ社の活版印刷機が設置され、名刺やカード、レターヘッド、封筒などの名入れ印刷の相談や発注が可能になっている。
CAPPAN STUDIOとの併設はうれしいニュース。ファインペーパーの検討と活版印刷の相談を同時に行えるメリットは大きく、名刺やカードなどの印刷物を検討されている方にとっては、格好の拠点になるだろう。新しい店舗の魅力や見所を紹介する。
落ち着いた店内で、じっくり用紙を選ぶ
新店舗「竹尾 淀屋橋見本帖」は、さまざまなライフスタイル情報を発信するショップが立ち並ぶodonaビルの1Fにある。営業時間は淀屋橋odonaに準じ、11:00-20:00、不定休である(土日も営業している)。活版印刷の相談は、土日の11:00-20:00に承っている(平日の相談は事前に予約が必要とのこと)。お休みの日にショッピングや散歩がてらに寄ってみたくなる立地だ。
新店舗は、ファインペーパーの情報発信の拠点としてさまざまな利用が期待されている。店内には全判4切サイズのファインペーパー約270銘柄 4,600商品のファインペーパーを常備在庫し、1 商品につき4切サイズ各3枚まで購入が可能(全紙、断裁のご注文はウェブストアまで)。また、竹尾ミニサンプル、竹尾デザイン封筒、その他各種紙製品を取り扱う。さらに、竹尾の発行物や各種紙見本帳を閲覧いただけるアーカイヴ・コーナーやギャラリーなども併設されている。
外からお店を覗くと、(写真1、2)のショップの看板が目に入る。シックな風合いの看板で、上品で洗練された印象である。この看板サインの素材は紙であり活版印刷で刷られている。
ショップのロゴやシンボルなどの VI(ビジュアル・アイデンティティ)の開発・設計を手がけられたのは、UMA/design farmの原田祐馬氏。原田氏に、VI開発についてお話を伺った。「お店のシンボルは、シンプルな線を組み合わせています。これは近くを流れる土佐堀川の流れをイメージしました」とのお話。ショップのロゴは、名刺やはがきのステーショナリー、ショッピングバッグ、各種グッズに展開され、お店のイメージを伝えている(写真3~5)。
「淀屋橋をイメージしたイラストを図案化した活版印刷のはがき(写真3参照)には、ちょっとした仕掛けがあります。川の流れを表す罫線は0.1mm~0.5mmの5段階の太さで表されています。またお店のロゴの文字は、10pt、8pt、3ptのサイズで組まれています。はがき自体が、細線や小さなサイズの文字の印刷サンプルになっています」と原田氏は話す。
また、ショップオープンに合わせて、「カルテ」という6穴のバインダーを制作した(写真5参照)。淀屋橋見本帖では紙を購入する際に、銘柄や重量を記入する注文票があるが、この控えを綴じて保管できるバインダーである。名刺やはがきをストックしておけるリフィルも付いている。表紙やリフィルの素材はすべて紙で、紙の専門店としてのこだわりを感じる。大変便利な手帳であり、ショップを利用するヘビーユーザーには喜ばれるに違いない。
店内の落ち着いた内装や調度類に注目してみよう。カウンターの中にある用紙をストックする引き出しが並ぶ収納棚は、紙の専門店、見本帖ならではの什器で、お店のシンボルとも言えるだろう。既存の見本帖ショップを訪れると、紙の収納棚のデザインにはショップごとのこだわりが見て取れる。淀屋橋見本帖では、ナチュラルな質感のラワンベニア合板が選ばれている(写真6、7)。
内装を担当された柳原照弘氏にお話を伺った。「店内の装飾や調度類は、紙を作る工程と同じように、木材の素材を生かすように選びました」と話す。「紙を選ぶということは、同時に紙の機能を選ぶことでもあり、さまざまな質感や強度の紙を組み合わせて“機能美”が作られます。店内の装飾もこれと同じ発想で設計しました」
紙見本を閲覧する台(カウンター式のテーブル)は、これまでにない試みが成されている。上部に紙見本が吊り下げられているが、銘柄別ではなく色調別に配列されている。手元に照明が自然に当たるようになっており、機能的で使いやすそう(写真8、9)。また、ミーティング用のテーブルの照明も、手元に置いた用紙や印刷物が見やすくなるように設計されている(写真10)。
そのほか、竹尾の刊行した各種書籍や印刷物のアーカイブも閲覧できる陳列台もある(写真11)。壁面を利用してのギャラリー展示も今後展開されていくとのことで、楽しい空間になるだろう。次回訪れるのが楽しみである。
お店の一角が、活版印刷の工房に
新しいショップには、CAPPAN STUDIOの活版印刷の工房と相談窓口が併設されたことが、今回特筆すべきニュースである。ショップ内にハイデルベルグ社の自動印刷機プラテンT型が設置され、ガラス越しではあるが実際に印刷機が稼働している姿を見ることができる(写真12)。
この印刷機はショップのオープンに合わせて導入されたもので、印刷の試験を行ったところ機械の扱いやすさの点では群を抜いて良い状態であるという。活版の印刷機は中古品の市場が出来上がっているそうで、中古品の中でもさまざまなレベルがあるという。私がパッと見た所、新品の機械かと思えたほどで、それくらい機械のメンテナンスが行き届いているように見受けられた。
機械が動き出すと、複雑に絡み合ったローラーが一斉に動き出し、インキや用紙が供給される。大阪の都会の真ん中で、大型の自動活版印刷機が駆動する様は、ショップのディスプレイ効果としても絶大だろう。新たな観光名所になるのではないかと思えるほどだ。興味をお持ちの方は、大阪に立ち寄った際に覗いてみることをお勧めする。
工房の周囲には、活版印刷で刷られた名刺や封筒、便箋、紙の缶バッジなどの印刷見本が数多く展示されていた(写真13、14)。
こういうショップが仕事場の近くにあると、ファインペーパーや活版印刷への熱が大いに刺激される。活版印刷の文化の拠点として、こうしたショップや工房が日本中のあちこちに出来れば、活版印刷の文化が広がり、定着し、根付いていくと思う。今後の動きに期待し、注目していきたい。
〈竹尾 淀屋橋見本帖〉
所在地:〒541-0042 大阪府大阪市中央区今橋4-1-1 淀屋橋odona1F
TEL:06-6232-2240
営業時間:11:00-20:00(不定休、淀屋橋odonaに準ずる)
取扱品目:
・全判4切サイズのファインペーパー約270銘柄 4,600商品
※1商品につき4切サイズ各3枚までご購入可(全紙、断裁のご注文はウェブストア)
・竹尾ミニサンプル、竹尾デザイン封筒、その他各種紙製品