生田信一(ファーインク)
宮田印刷が手がける「LETTERPRESS BOOK COVER」
今回のコラムは東京都文京区音羽にある宮田印刷さんにお伺いし、代表の山本千香さんにお話を伺いました。宮田印刷さんと出会ったのは、2018年の夏に行われた「活版TOKYO 2018」のイベントがきっかけでした。ブースで宮田印刷さんが手掛けられた2色刷りのブックカバーとしおりを拝見したのですが、マーブリング模様の柄が美しく、印刷仕上がりも活版らしい力強い仕上がりで、一目見て気に入ってしまいました。
ブースでお話を伺うと、宮田印刷さんは普段は書籍の付き物の印刷を手掛けておられるとのこと。付き物は、書籍や雑誌の本文以外のカバー、表紙、オビ、見返しの本文以外の要素、さらにハガキ、売上げカードなどの付属印刷物を総称したものを指します。私も普段は書籍を制作する仕事が多く、強い興味を抱きました。
ブースで拝見したしおりは、形状が独特で、本に付く売上カード(「スリップ」「短冊」ともいう)を連想させます。抜き取りやすいように丸い形の突起が飛び出ています。この丸い形を「坊主」と呼ぶこともあります。
このブックカバーとしおりがセットになって、本格的に販売されるとのこと。書店や雑貨店などでの店頭販売がスタートするとのことで、さっそくお話を聞いてきました。出版物では欠かせない付き物について、今回は掘り下げてみたいと思います。
印刷設備と抜き型加工
宮田印刷さんは昭和39年に設立されました。会社には活版印刷機、オフセット印刷機、型抜き機、断裁機が並んでいます(写真1〜4)。活版印刷機は、創業時におじいさまが購入されたものだそうです。
今回、活版印刷のグッズとして開発されたものは、印刷後に抜き加工を行っています。使われている抜き型をいくつか見せてもらいました。
円形のシールに使われている抜き型は、木材に丸い刃型が埋め込まれています。刃型は丸く加工され、刃の側面にクッション材が貼られています。クッション材があることで、抜いた後に材料がはさまれまいようになるそうです(写真5、6)。
しおりの抜き型は、上部と下部の2つのパーツで作られています。2つのパーツに分けているのは、しおりの長さを自由に調整するためだそうです。上部には「坊主」の形で切り抜かれ、四隅のコーナーは角が丸くなります。上部と下部を抜いた後で、断裁機で側面をカットして仕上げます。カット時の目安となるトンボは刃で切り込みが入り、印が付くようになっています(写真7)。
LETTERPRESS BOOK COVER
さて、マーブリングのパターンを大型の活版印刷機で刷ったブックカバー2枚と、坊主の形で抜いた「しおり」2枚をセットしたのが「LETTERPRESS BOOK COVER」のキットです(写真8〜10)。しおりとブックカバーはパターンの柄が共通しているのが魅力です。読書が楽しくなりそうですね。
宮田印刷の山本さんは語ります。「本屋さんでは、レジで「ブックカバーをお付けしますか?」と尋ねられることがよくあります。こうしたサービスはうれしいものですが、自分のお気に入りの柄のブックカバーが付けられたら楽しいですね。こうした思いから、今回の商品が生まれました」
自分用に、あるいはギフト用にと、お客様によって用途は様々。「LETTERPRESS BOOK COVER」は、長年書籍の付き物の印刷を手掛けられてきた宮田印刷さんだから思いついたアイデアであり、商品だと思います。「今後は、書店だけでなく、雑貨店にも置いていただけるよう、販路を広げていきたい」と、山本さんは語ります。
店頭での反応は上々で、追加のオーダーもいただいているとのこと(写真11)。また、店頭の販促用に活版印刷のムービーも作られました(ムービー1参照)。
ブックデザインと活版印刷のこれから
宮田印刷さんのホームページを拝見すると、これまで手掛けられた活版印刷の作例を見ることができます。
デザインも宮田印刷さんで手掛けられ、いくつかの作品が紹介されています。以下に紹介するのは、しおりをモチーフにしたもの(写真12、13)、結婚式招待状(写真14、15)です。
書籍の付き物では、カバーや見返しで活版印刷で刷った作例を見ることができます。カバーの作例では墨の刷り込みを活版印刷で行ったものが紹介されていました(写真16、17)。
見返しでマーブリングの模様を活版印刷で刷ったものも見ることができます(写真18〜21)。「こうした印刷を手掛けたことが「LETTERPRESS BOOK COVER」の商品コンセプトにつながっていった」と山本さんは語ります。
そもそもマーブリングの技法は、手製本の分野では古くから利用されていたようです。私も最近知ったのですが、大正〜昭和の時代、コクヨが開発した様式帳簿には「マーブル付け」という小口装飾が施されていました(参考:「コクヨ・オリジナル余話 洋式帳簿」。小口に施した色鮮やかなマーブルの模様は、帳簿の品格を高めるのに一役買っていたそうです。
マーブリングの模様は、手作業による味わいがありますし、懐かしさを感じさせる素材です。今回紹介した「LETTERPRESS BOOK COVER」はマーブリングの模様を活版印刷用に版を起こし、多色で刷ったものです。しかし、それでも活版印刷で刷ることで手作業の味わいが出ますし、さらに印刷表現としても力強いものになっています。私が共感するのはそうした部分だろうと思いますし、購入した多くの方もこうしたアナログ感覚に共感されているのではないかと思います。
書籍の付き物は、ブックデザインにおいては、カバーや表紙、オビ、見返し、扉などの要素を指しますが、これらが一体になって本の顔になります。ブックデザイナーは、本全体の構成、バランスを見ながら慎重に用紙を選び、デザインを決定し、印刷技法を選択します。デザインバリエーションは無限といってもよいでしょう。実に奥深い世界なのです。
今回はブックデザインの奥深さを改めて知る取材になりました。最後まで読んでいただきありがとうございます。
では、次回をお楽しみに!