平和紙業株式会社
紙の色名を決める(その1)
前回、紙の色を決める際のお話をさせていただきました。
その紙の持つイメージやコンセプトに沿った色を作り出すには、様々な方法があります。
時には実際に紙を使う職業の方、例えばブックデザイナーに色の監修をお願いするケースもあります。
先日リニューアルした『フリッター』という商品を例にしてお話ししましょう。
リニューアルに当たり、既存の6色に加え、新たに新色5色を投入することとしました。
既存の色を活かしながら、尚且つ実際に紙を使う現場で使いたい色を選定するために、ブックデザイナーにご協力いただきました。
既存の色がどちらかと言うとシックな感じの色でしたので、華やかな印象をプラスすることで、全体の色バランスを整えると同時に、リニューアル感も出したいという、少し欲張った色の選定作業でした。
最初に提案された色から、試作サンプルを制作し、その都度色の方向性を検討するといった作業を何度も繰り返し、全体の色のバランス、個々の色の個性を十分に発揮できる色を選定していきました。
この作業だけで約半年を使い、色の選定作業が終了しました。
次に実際に紙を抄く機械で、その色が本当に再現できるかのテストを、微調整をしながら行い、満足のいく紙ができることを確認しました。
ここからが本日のテーマでもある、紙の色名を決める作業に入ります。
新しく追加した色の個性を尊重しながら、既存の色の色名との整合性をはからなければなりません。とは言え、新色を追加したことが明確に分かるようにしたい。等々。
色名辞典で選べば早いのですが、それでは色の個性が失われてしまいます。
今回の新色の中でキーカラーとなるのが、淡いピンク色。
分かり易さを優先すれば、ソフトピンク、ライトピンク、桜色、チェリー等の色名が無難ですが、リニューアル感、新色感があまりありません。
そこでこの色を見続け、思い悩んだ末に出した答えは「サクラピンク」。
シンプルでありながら、日本人の誰もが思い描けるイメージと、実際の紙の色がリンクすることが狙いです。
そして次に目を引くのが淡いスミレ色。
とは言え、どちらかと言えば青味がかっているので、バイオレットとも雰囲気が違うし、パープルほど鮮やかではない。
紙の表情と色から受けるイメージは、穏やかな海のイメージ。
しかし紺碧の海ではなく、空の光で様々に変化する海の色。
そんな雰囲気を色名で表すために、「マリンパープル」と言う色名を敢えて付けることにしました。「マリン=ブルー」が定番のところですが、紙の色を見れば、「ああ、そんな雰囲気だよね」と納得していただけると考えたからです。
そして少し緑がかった黄色。
イエローでは寂しいし、レモンではイメージと違う。
でも何かに似ている色…。
そう、ライムを切った時の少し、緑がかった果肉の色。ジンライムのグラスに添えられている、あの果肉の色です。そこで「ライムイエロー」と言う色名を選びましたが、ライムと言えば表皮の緑色を思い浮かべる方も多いようで、これには決断が必要でした。
しかし、「ライムイエロー」という色名は実際に使われている事が確認できたので、安心してこの色名に決定しました。
次が青味の強い色。
この色の色名は既に試作の時点で決めていました。
既存の色と繋がる色ですので、敢えてシンプルに、「ソフトブルー」としました。
柔らかな青味が空の色や海の色と重なり、同時に既存色とのつなぎ役になる色名です。
最後が高白色。
これもシンプルに「ハイホワイト」としました。
既存色に「ホワイト」が既に存在していたため、この「ホワイト」より白い色であることを強調するための色名です。
色と色名がしっくりくると、その商品そのものが生き生きとしてきます。
一昔前のように、赤、青、黄色といった色名も捨てがたいのですが、昨今では、色名から受けるイメージも大切な要素となってきています。
商品のコンセプトに合わせ、イメージ戦略のもと、色名を考える。
何気ない色名ですが色名を決めることは、結構骨の折れる作業でもあるんですよ。
是非、紙だけではなく、色名にも注目してみてください。