あみりょうこ
Imageny Palabra(形と言葉) / “James and Alexandra Brown”に行ってきた、の巻き。
Abril(4月)
こんにちは。あみりょうこです。コロナウイルスの騒ぎが収まるどころか日に日に状況が変わり落ち着かない日々です。
私は、ちょうど1か月前くらいにメヒコから日本へ帰ってきました。その頃は、メヒコではまだ数件の症例しかなく、逆に日本がピリピリしているので大丈夫かな、というような感じでした。この1か月の間にメヒコでも感染が拡大しているようですし、日本もついには緊急事態宣言がされる都道府県も出てきました。1か月後にこんな風になるなんて本当に想像すらしていませんでした。
とりあえずは、事態の悪化を防ぐためにむやみやたらに外出せずに安全に過ごしたいところです。
CARPE DIEM PRESS
オアハカに”Carpe Diem Press”という出版社があります。ジェームスブラウンさんというアメリカ人のアーティストと、その奥さんのアレハンドラさんによるエディトリアルプロジェクトです。
“Carpe Diem Press”という名前の出版社で、wikipediaによると”Carpe Diem”には、
“紀元前1世紀の古代ローマの詩人ホラティウスの詩に登場する語句。「一日の花を摘め」、「一日を摘め」などとも訳される。また英語では「seize the day」(その日をつかめ/この日をつかめ)とも訳される。ホラティウスは「今日という日の花を摘め」というこの部分で、「今この瞬間を楽しめ」「今という時を大切に使え」と言おうとしている。”
という意味があるそうです。
Carpe Diem Pressは、ローカルの印刷工やアーティストたちと少部数の本や印刷物を出版するのを目的に2000年にメヒコのオアハカで設立されました。
“James Brown”という名前の入ったポスターを目にしたり、”ジェームス”という名前はマエストロキンタスの口からたびたび聞いていました。マエストロによると、ブラウン夫妻はカリフォルニア出身らしいのですが、1995年にメヒコに移住しオアハカやメリダという町で制作活動したり、ヨーロッパにも制作拠点にしている家があると言っていました。
【展覧会】“Imageny Palabra(イメージと言葉) / James and Alexandra Brown”に行ってきた。
そんなブラウン夫妻のCarpe Diem Pressの20周年を記念した展示がオアハカのIAGOというグラフィックアートインスティテュートであったので足を運んできました。
それまでにもマエストロが手掛けたジェームスさんの展示のためのポスターを多く見せてもらってきましたが、壁にまとめて展示されたのを見るとまた違った印象を受けます。(写真4)
ポスターをつくるときは毎回、
「大体こんな感じで作りたいと思ってるんだけど」
と、ジェームスさんが展示の名前や日時と、ざっくりしたレイアウトを手書きした紙をもってマエストロのところに来るのだそうです。そして、「こういう印象の文字がいいかな」とイメージを伝え、それをもとにマエストロがフォントを選びます。
フォントや文字の大きさや配置などの微調整は文字を組む人にゆだねられているので、どんな文字が効果的に人目を惹くかは長年の知識はもちろん印刷する人のセンスも大いに影響する仕事だと思います。頼む方も頼まれる方も、双方の信頼関係が不可欠ですね。
展示には、ポスターや表紙だけではなく今まで制作された本の展示もありました。製本は、マエストロの奥さんであるフディスさんが手掛けたものが多くありました。
この表紙は見覚えがありました(写真5)。というのも、私がマエストロのところに通い始めたころに印刷していたからです。
白い紙に赤をベターっと印刷して、乾かすのに数日かかり、白でLIFEを印刷したのです。しかし、白の印刷は難しくマエストロが苦戦していたのを思い出します。
何層にもインクを重ねて印刷されたこの表紙からは作り手の息遣いが聞こえてくるような、とても強い印象を持った作品です。
この作品はかなり驚きました(写真6、7)。レイアウトはアーティストによるものですが、普段見せてもらっていた活版印刷とはまるで違うランダムで不規則な文字の配置とフォントの太さが、見ていてドキドキさせられました。
これも活版印刷による写真作品です(写真8〜10)。鉛版に写真製版されたものです。CMYK別に版があります。つまり4色刷りというわけです。
写真によってはずれが生じているのですが、それが逆に生々しくて写真だけど写真印刷とはまた違う、プレスされた印刷の独特の印象を受けました。
あとで刷り方をマエストロの奥さんに確認すると、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの順番でチャンドラーを使って印刷されたそうです。
マエストロの作品を発見!!
Carpe Diem Pressの本にまぎれてマエストロの作品も展示されてありました。(写真12)
これは、セマナサンタ(イースター、復活祭)のプログラムのポスターで、キリスト教の国では復活祭に向けてミサなど様々なイベントがあります。そのため、ジェームスさんのポスターと比べても文字が多く情報量が多いのがわかります。
これはすべての活版印刷工に当てはまるのではなく、もしかするとマエストロのこだわりなのかもしれませんが、マエストロは1枚のポスターの中に同じフォントを繰り返し使うのが好きではないそうです。答えは単純、「おもしろくないから」だそうで、様々なフォントを組み合わせてポスターをつくるのが好きなのだそうです。
なんでもかんでもフォントを使いまくっていたらいいというわけではなく、フォントがけんかしないようにというか、見栄えが不細工にならないようにしないといけないので、ひそかになかなか難しくセンスが問われるところです。
明日はだれにもわからない。
見ごたえのある素晴らしい展示でした。見たことを早くマエストロに伝えようと思っていながら、なかなか時間を見つけられず足を運ぶことができないでいたある日、目を疑うようなニュースが飛び込んできました。
ジェームスさん、アレハンドラさんの訃報です。
まだIAGOで展示中だった中での突然の知らせでした。Facebookのニュースフィードでそれを知りました。「安らかに眠ってください」というメッセージだけで最初はよくわからなかったのですが、調べてみると交通事故に会って2人ともお亡くなりになったということだったのです。
私は彼らを直接は存じ上げませんが、マエストロからいつも話を聞いていたことや、進行中のプロジェクトもたくさん見せてもらってきて、今回の展示を見たことにより、今までの点の情報たちが線でつながったような気持ちになりました。20年という節目を迎えこれからもたくさんの作品が生み出されるのだろうという予感を感じたすぐあとの出来事で、まさかという信じられない気持ちしかありません。
毎日は過ぎて行きますし、それが普通で平凡であるほど何も感じずに過ごしてしまいがちです。今回のこのブラウン夫妻のことや、現在のコロナウイルスの日々状況が変わりこの先がわからない状態のことを思うと、少し先のことなんて誰にも分らないのだという事実を突き出されたようではっとさせられます。一方で、今年も桜は美しく咲き誇っていて、季節や時はそれでも止まらずにめぐっているのを目にします。
いろいろな思いが交錯する落ち着かない春ですが、じたばたしても仕方がないのでこんな時こそ毎日の暮らしをていねいに、そして早く平穏な日々が訪れるように願いつつ、健康と安全に、そしてそれを取り返せるようにように毎日尽力してくださっている医療従事者をはじめとするみなさんには感謝の一言に尽きます。みなさんもどうぞ安全・健康にお過ごしくださいませ。
“Carpe Diem”
[出典]
Carpe Dem Press : http://www.carpediempress.org/home