生田信一(ファーインク)
レトロでかわいい「紙ナプキンメモ」 が発売
「紙ナプキンメモ」は、紙ナプキンの形をしたメモ用紙とスタンドが一緒になったキットです。デスクトップの脇に置いたときの佇まいがレトロで、とてもかわいく、しかも機能的。この商品の開発、デザイン、設計を手がけたのは、かようびデザイン室 青木佳代さんです。発売されて間もない9月に、私は青木さんの仕事場を訪れ、どのようにこの商品が生まれたのか、お話を伺いました。
独立して初めて手がけたグッズ「紙ナプキンメモ」
紙やノートなどの文具は、近年大きなブームになっています。文具大好きな人を対象に行われる展示即売会のイベントが全国各地で催され、大きな盛り上がりをみせています。しかしながら、今年はそうしたイベントが自粛され、寂しい日々を過ごしていたのですが、9月に入るといくつかのイベントが催されるようになりました。
「カミメマーケットin池袋ロフト」開催のニュースを聞いたのは8月でした。さっそく会場を訪れ、そこで「紙ナプキンメモ」を見つけ、気に入って購入しました。帰って袋から出すと、佇まいがしっかりしていて驚きました。使い勝手も良さそうで、形状にも細かい配慮がなされています(写真1、2)。箱の設計や意匠にはおそらくプロの方が関わっているのではないかと…。
調べていくと、この商品を手がけたのは、かようびデザイン室の青木佳代さん、であることがわかりました。お仕事場は東京の下町、墨田区亀沢。この界隈は印刷や紙加工の会社が集まっているため、私も仕事柄よく訪れる場所です。
さっそくアポイントを取り、仕事場を訪問してお話を伺いました。青木さんは紙のケースやディスプレイを製造する株式会社三協でデザインのお仕事をされておられたとのこと。株式会社三協で手がけた代表的な商品に「Hako de Kit」があります(後ほど紹介します)。
「紙ナプキンメモ」は、「独立してから最初に手がけた商品です。以前から紙ナプキンメモのプロダクトは手がけてみたかったんです」と青木さんは話します。
紙ナプキンメモを収納するスタンドは、とても機能的に設計されています。ナプキンを取り出しやすすいように、箱を置いたときの傾斜角度や取り出し口の形状にも細かい配慮が加えられていることがわかります。また、立てたときの安定性や強度もしっかりしています(写真3、4)。このスタンドが、たった1枚の紙からできているのですから驚きです。
メモ用紙も青木さんが設計しました。メモ用紙の形に型抜きを行ったのはご近所の東北紙業社さん。折加工を行ったのは篠原紙工さん。青木さんにお願いし、設計図面を特別に公開していただきました(写真5)。
ナプキンの用紙には上質紙が選ばれています。「質感や筆記特性を考慮して選択した」と青木さんは話します。おウチや仕事場にいても、喫茶店にいる感覚でメモ用紙を取り出せるのが新しい感覚です。メモ書きやスケッチが楽しくなりますね。
よく言われるアイデアが浮かぶ場所に、「4B」というキーワードがあります。「4B」は、Bath(入浴中)、Bus(バスにかぎらず移動中)、Bed(就寝中や寝入りばな)、そしてBar(食事中や飲んでる最中)。突然アイデアが浮かぶことは、みなさんもよく経験すると思いますが、こうした事態に備えておくことはモノづくりに関わるクリエイターにとって大切ですね。
箱の底を閉じる形状は、調べてみるといろいろな方法があるようです。「紙ナプキンメモ」に採用されているのは地獄底(またはアメリカン・ロック)と呼ばれています。組み立て方の解説図を(写真6)で示します。
実際に組み立ててみると、底の部分がしっかりした形で閉じられます。さらに4本の足が突起として表れる工夫が施されいるのが驚きです。
「紙ナプキンメモ」が発売された頃、ネットを賑わせた文具商品に、篠原紙工さんが手がけたサンドイッチノートがあります。この2つを並べたショットが(写真7)で、衝撃的でした。発売当時、Twitterでこの写真が公開され、ネットを賑わせました。
かんたんに箱が作れる「Hako de Kit」
青木さんが株式会社三協で手がけた商品に「Hako de Kit」があります。こちらも先の「カミメマーケットin池袋ロフト」で販売されていました。
「Hako de Kit」の魅力は、のりもハサミも使わずにおしゃれな箱が作れることです。用意するのはセロテープだけです。箱の組み立て方を知りたい方は、(ムービー1)の動画をご覧いただくのがよいでしょう。2分程度の動画です。
「Hako de Kit」の種類は、名刺サイズ、筆箱サイズ、はがきサイズの3種類(写真8〜12)があります。柄の種類もいくつかあり、クリエイターさんとコラボした限定品もあります(在庫を確認してオーダーしてください)。
組み立ての工程は(写真13〜15)を参照ください。内箱も外箱も工程は同じです。
紙と印刷とラジオ──オンラインで配信中の番組
青木さんの、もうひとつのユニークな取り組みがあります。2020年7月より、「紙と印刷とラジオ」というネットで聞けるラジオ番組が始まりました。こちらの番組を運営し、パーソナリティを務めているのが平和紙業株式会社の西谷浩太郎さん、株式会社サンコーの有薗悦克さん。毎回、紙や印刷をテーマにしたお喋りやゲストを招いて普段聞けない貴重なお話が聞けます(写真16)。
青木さんは、この番組のデザインを担当しておられます。たまに番組の中でお喋りに加わって、デザイナーの立場から印刷や紙に関する質問をゲストやお二人のパーソナリティに投げかけて会話を盛り上げてくれます。「デザイナーだったらこんなことが聞きたいだろうな」という質問を投げかけてくれるので、聞いていてとても助かります。
これまで放送された番組は「紙と印刷とラジオ」のライブ履歴で聞くことができます。ぜひアクセスしてみてください。
このラジオ番組は、青木さんが事務所として利用されているシェアオフィス、co-labo隅田亀沢の一角のミーティングルームで毎週火曜日よる8:00〜8:30に生配信されています。青木さんにお願いして番組収録中の写真を撮っていただいたショットが(写真17)です。
co-labo墨田亀沢は、もの作りの「職人」と「クリエイター」が出会い、化学反応が生まれる場をコンセプトとした、印刷工場直結のクリエイター専用のシェアオフィスです。各種の印刷物やプロダクトを手がけるクリエイターにとって、とても使いやすい環境のオフィスです。
ケースやディスプレイのデザインは、紙の意匠を決め、図面設計を行います。1枚の紙を図面通りに型抜きし、これを組み立てて立体的なプロダクトにしていきます。箱の強度を保ちながら、意匠をほどこしていくわけですから、ベテランデザイナーでないと務まらない職種ではないかと思います。
私が勤務する東京デザイン専門学校では、パッケージを専攻するクラスの授業を受け持っています。私の授業はパソコンを使った「DTPスキル」という授業なのですが、休み時間中に印刷した紙をカットし、箱を組み立てていく光景をよく見かけます。パッケージが出来上がると、互いに批評し合っている様子は、学生達が生き生きして見えます。パソコンでは完成した作品は画面でしか見れませんが、実際に紙にプリントして、手を動かしてあれこれ試行錯誤するのは楽しいプロセスですね。
では、次回をお楽しみに!
かようびデザイン室
青木佳代(あおき・かよ)
2018年創業。「あなたの商品まわりのあれこれ」のお手伝いをデザインでできればと思っています。パッケージやディスプレイなどの販促物のデザイン・製造、ロゴ・パンフレットなどのグラフィックデザインを主にうけたまわっています。
かようびデザイン室の由来は、名前の「かよ」を入れたかったのと、調べてみたら火曜日生まれだったから。父ヒロシが「ヒロシ理容室」を営んでいることも少し。
[連絡先]
住所:〒130-0014 東京都墨田区亀沢4-21-3-3F co-lab墨田亀沢
メール:kayobi.design@gmail.com
Instagram(紙ナプキンメモ):instagram.com/kaminapkinmemo
Instagram(Hako de Kit):instagram.com/hakodekit
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