白須美紀
愛媛の手仕事が結んだご祝儀袋
Like a letter
手工芸品のご祝儀袋
「Like a letter」のご祝儀袋を目にした瞬間、その存在感に思わず惹き込まれてしまった。一見すると和紙の封筒に結び切りの水引がかかった従来通りのシンプルな姿をしているのだけど、普段目にするご祝儀袋とは何かが違うのだ。
つぶさに見てみると、封筒の紙質がよく、寿の印字は活版印刷で刷られている。漆墨流しで染められた和紙が全体をシックに彩り、落ち着いた色合いの水引がそれらすべてをきゅっとまとめ、華やぎを添えている。じっくり眺めているうちに思い出したのは、昔「結納専門店」で見かけたご祝儀袋だった。
昭和の頃、街にはまだ俗にいう「結納屋さん」と呼ばれる専門店があり、結婚式や結納の儀式で使用する様々な道具を販売していた。そういう店のショーケースには水引でつくられた大きな鶴や亀の飾り細工と一緒に、上質なご祝儀袋が堂々と飾られていたものだった。そう、かつてのご祝儀袋は、特別な儀式のための手工芸品だったのだ。そして「Like a letter」のご祝儀袋は、派手さは抑えめながら、それと同じ佇まいを持っているのだ。
和紙と漆と活版印刷と
「本体の封書の和紙は、愛媛の野村町に伝わる『泉貨紙』という和紙を使っています。目の粗さの違う紙を2枚同時に漉いて重ねたもので、とても強い手漉き和紙なんです」
そう教えてくれたのは、「Like a letter」のご祝儀袋を企画した酒井真弓さんだ。大洲和紙の産地である愛媛県の内子町で和紙の店「neki」を営み、自身も紙すきをしているという。酒井さんと共に企画を担当した活版印刷komorebiの田中望さんは、さらなる特徴を教えてくれる。
「和紙ではありませんが、名札に使用した紙にもこだわっています。飾りに使う漆墨流しの紙が透けてみえるよう極力薄い紙で、かつ名前が書きやすいものを厳選しました」
田中さんは名札にある「寿」の文字をデザインし、真鍮の版を起こして、テキンと呼ばれる小さな活版印刷機で手刷りした。ここまで薄い紙だと印刷も繊細な作業になったことは想像がつく。
紙と印刷のプロならではの仕事ぶりに感心していると、さらに酒井さんが「漆墨流しの紙は大洲和紙を使っていますが、漆墨流しの良さが引き立つように、従来のやり方と乾燥方法を変えて軽く仕上げてある紙を選んでいます」と教えてくれた。帯に使用されている漆墨流しの紙は、なんともいえない魅力があった。動きのある模様がドラマティックで見飽きることがない。
「内子町で愛媛在住の漆造形作家・猿渡穂高さんをお招きして、大洲和紙を染めるワークショップをしたんです。できあがった紙がとても素敵で、田中さんと『オール愛媛の手仕事で何かつくりたいね』という話になったんですよ」
水に浮かべた墨を写し取る墨流しは平安時代からある技法だが、漆の墨流しは墨の代わりに漆を使い、紙や器物などに写し取るのだそうだ。
「どうしても漆というとお箸やお椀のイメージが強いのですが、実は紙に写すこともできるんです。色もいろいろ出すことができるんですよ」
そう話す猿渡さんは、普段から漆を伝えることに力を入れていて、「ムゾラシカ」というブランドでモダンな漆のアクセサリーをつくるほか、金継ぎ教室や漆墨流しのワークショップを積極的に行っている。
「これもあまり知られていませんが、漆は紫外線に当たると彩度が上がるんです。この和紙も漆を写し取った瞬間から数カ月かけて色がどんどん変わりますので、渡す人も受け取った人も楽しんでほしいですね」。
仕上げを担当するのは、「水引ガールズ」
そして酒井さんと田中さんが仕上げの水引を頼んだのが、四国中央市で水引アクセサリーを制作している「水引ガールズ」だ。水引ガールズは、中学3年生の村上真風羽さん、小学校5年生の山形かんなさん、小学校4年生の近藤悠実さんの3人によるユニットで、お母さんたちの協力を得ながら、水引アクセサリーを制作販売したり、ワークショップを行っている。今回のコラボでは、水引ガールズがまずいろんな色の組み合わせを考えて提案し、酒井さんや田中さんたちと相談して配色を決めた。
「難しかったけれど、そのぶん出来たときは嬉しかったです」「渋い色を使ったけれど思ったより華やかに仕上がってよかったです」とガールズたちは頷きあい「和紙とコラボしたら、今まで知らなかった水引の良さに出会えました」と、感想を教えてくれた。
実際、あわじ結びを華やかにアレンジした水引はとても端正に結ばれていて、早熟な才能に驚くばかり。話ぶりからも自分たちの意思でしっかり考えながら活動していることが伝わってきて、ものづくりのプロであるお姉さんたちがガールズに仕事を依頼したのも、深く納得がいく。
そしてなにより、この幅広い年代の6人が
「みんなの個性を合わせたら、豪華な製品になりましたね」
と満足そうににこにこしているのが、なんだかとてもほっこりするのだった。
日本の文化を軽やかに受け継ぐ
いつのまにか結納屋さんは町から消え、ご祝儀袋は文房具屋さんや文具コーナーで探すものになった。最近では100円ショップでもそこそこ体裁のよいものが販売されている。けれど実は、日本には独自の素敵な「包む文化」があり、自然の素材から道具を手づくりする技がある。そのことを愛媛在住の女性たちが、それぞれの技術と感性を生かして、新しい形にして見せてくれたのだ。しかも、彼女たちはみんな「伝統を残したい」というお題目ではなく、今の「素敵なもの」としてものづくりしており、それが軽やかで爽やかで、とても魅力的だ。
「Like a letter」のインスタグラムでは、ご祝儀袋の役目を果たした後の紙や水引の活用法を紹介している。上質な手仕事の素材だからこそ、再利用して長く愛用してほしいと願うからだ。お祝いを受け取った人は、生活のなかで再び愛媛の手仕事と触れ合うことができるだろう。「Like a letter」では、今後ご祝儀袋以外のプロダクトも増やしていくという。次はどんな製品に出会えるのか、今からとても楽しみだ。
Like a letter
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