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白須美紀
楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る
紙TO和

(写真1) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

紙好きの心をくすぐる和紙専門店

小さな町家ショップを覗くと、カラフルな色彩が目に飛び込んできた。その正体は、商品棚にずらりと並べられた友禅和紙の御朱印帳や和綴じノートだ。古典的な和柄もあれば北欧風の幾何学文様もあり、金銀が豪華なデザインもある。どれも職人によって手染めされた昔ながらの友禅和紙で、プリントにはない風合いが印象的だ。他にも和紙でつくった文香や淀川のヨシを漉いたヨシ紙の一筆箋といった通好みの製品も並んでおり、お宝の山に来てしまったことに気づいた紙好きの心がそわそわしだす。利用客の滞在時間が長いというのも納得がいく。どの商品も魅力的で、棚から目を離すのが難しいのだ。

「御朱印帳は友禅和紙以外に襖紙を使ったものもあって、皆さんどれを買うかすごく悩まれますね。祇園祭のときには目の前に八幡山が建つので、うちで御朱印帳を調達してそのまま祇園祭の御朱印を集めてまわるお客様もいらっしゃいますよ」
とにこやかに教えてくれたのは、紙TO和オーナーの林美和子さんだ。店内の製品はすべて林さんがセレクトしたものだという。

この店が、紙好きを惹きつけるのにはもう一つ理由がある。好きな和紙を選んで御朱印帳を手づくりしたり、店内に設えられた小さなステンレス桶で紙漉きをしたりと、気軽に和紙のクラフト体験ができるのだ。

「ステンレスの水桶もハンディタイプの枠も体験のために別注で誂えたものです。今はコロナのせいで減っていますが、近隣の方はもちろん修学旅行の学生さんや海外からの旅行客など幅広いお客様が来られていますよ。2017年に体験をスタートさせてから2000人以上がお越しになりました」

(写真2) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真3) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真1) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真2) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真3) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

すべての始まりは紙漉き体験から

林さんは大阪にある老舗紙問屋の娘として生まれた。曽祖父が和紙の商いをしていた縁もあり、1932(昭和7)年に祖父母が紙問屋を設立したという。だが林さんが生まれた頃は、すでに商売の中心は印刷などに使う洋紙になっていた。若かりし頃の林さんは家業には全く興味が無く、キャビンアテンダントや時計の輸入の仕事などで世界中を飛び回っていた。

そんな林さんが和紙に目覚めたのは、仕事を引退して家庭に入り子育てもひと段落した2017年のこと。実家の家族や社員で出かけた福井県への研修旅行がきっかけだった。皆で越前和紙の工房を見学し、紙漉き体験をしたことが林さんの運命を変える。
「初めて紙を漉いたのですが、なんて楽しいのだろうと感動したんです。それと同時に、和紙ってこんな風につくるのかと興味を持ちました。実家の倉庫にはフォークリフトで運ぶほどたくさん紙があったのに、そのときまで紙がどうやってつくられているのかなんて考えたこともなかったんですよ」

何より林さんが惹きつけられたのは、手漉き和紙の存在そのものだった。温かみある風合いや手触りは、機械でつくられる洋紙とは全く違う魅力があった。だが手漉き和紙は価格が高くなるため、機械でつくられる和紙や洋紙に押されて生産が落ちており、日本中にあった産地もずいぶん減ってしまっている。そんな現状を知り、林さんは和紙の文化を守り、次世代につなぎたいと思うようになった。そのために選んだのが「体験」だった。自分と同じように紙を漉くことで、和紙の魅力を知ってもらえると考えたのだ。

林さんはまず、会社の倉庫で紙漉き体験をスタートさせた。それがとても好評で、個人客はもちろん学校の遠足や企業の研修などでたくさんの人たちがやってきたという。紙漉きを楽しむ老若男女を見ているうちに、林さんの思いは確信に変わった。やはり紙漉き体験は喜ばれるし、和紙に興味を持ってもらえる。そして、より多くの人たちに和紙の魅力を伝えたいと考え、京都に紙TO和を開店。得意の英語を活かして、海外からの体験客の受け入れも積極的に行っていった。

(写真4) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真5) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真4) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真5) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

気軽だけど本格派の紙漉き体験

紙TO和の紙漉き体験は、店内にある水桶に沈められた楮をハンディタイプの木枠で漉くものだ。紙漉きは一瞬で仕上がりが決まるため緊張するが、うまくいかなかった場合は楮をもう一度水に戻してやり直しができる。桶の横には乾燥用のステンレスの板も用意されていた。産地でも漉きあがった紙は板にはりつけて乾燥させるのだ。どの道具もコンパクトサイズだけれど、体験のために特注したというだけあってとても機能的で、本物の紙漉き工房と同じクオリティが保たれている。簡単に、けれど大事なエッセンスはちゃんと受け取れるよう、細やかな配慮がこらされているのだ。

漉いた紙に押し花を飾りつけ、上から刷毛で薄紙を密着させたら完成だ。使用する押し花は森のなかにある障がい者施設でつくられており、桜の蕾、あじさい、ビオラから、野の花やハーブにいたるまで、さまざまに揃っていてとても愛らしい。夢中で花を選び作業していると、なんだか野原で遊んでいる心地になった。

「そういえば、『楽しい』だけでなく『癒される』という感想もよく頂戴しますね。ものづくりに集中している時間もそうですが、自然でできたものばかりなのが良いのかもしれません。和紙も押し花も材料は植物ですから」

体験で漉いた和紙を使って御朱印帳をつくった人もいるという。紙TO和の体験のフルコースになるが、自分で素材からつくった御朱印帳は愛着もひとしおだろう。

「ハガキを漉くコースもあるのですが、完成したハガキに手紙を書いて帰られた方もいらっしゃいます。皆さん自由に楽しんでおられますよ」
そう話す林さんもまた、とても楽しそうだった。

紙TO和には、美しい紙を見る喜びやつくる楽しさが幾重にもつまっているが、お客さんたちがこの店で癒されたり長居してしまうのは、それだけが理由ではないのだろう。林さんの温かなもてなしがあるからこそ、ここでの時間が素晴らしいものになるのだ。この店で過ごす幸せな時間とその余韻こそが紙TO和の何よりもの看板商品であり、和紙のファンを増やす原動力となっている。

(写真6) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真7) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真8) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真6) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真7) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真8) | 楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

紙TO和

楽しい体験と魅力ある和紙が心に残る 紙TO和 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

住所 京都市中京区新町通六角上る三条町345
電話 075(756)4723
ウェブサイト https://www.kurauchi.co.jp/kamitowa/
体験実施日 金、土、日、月曜(10:30-17:00予約優先制)
リクエストも可
紙すき体験(所要時間約1時間) 3,080円(税込)〜
御朱印帳づくり体験(所要時間約45分) 2,750円(税込)〜

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