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白須美紀
いのち宿る紙の生まれるところ
丸山染工

写真1 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

職人さんが手染めする和紙

工場の奥まで続く長い染め台には和紙が規則正しく並び、大きなスクリーンを抱えた職人さんがその間を行き交う。顔料と糊を混ぜた色糊を、先端にゴムのついたスクリーン幅の木のヘラで大きくひと摺りすると、驚くほど繊細な文様が紙の上に現れた。

染めの作業は全身を使って一息に行うが、色糊の量、力加減、速度などの微妙なバランスが美しさを決める。またゴムの硬さや厚みで表現が変わるため、デザインに合わせてヘラを使い分け、柔らかく染めたりシャープに仕上げたりするという。そのため職人さんたちはそれぞれ自分専用のヘラを持っているのだそうだ。

1日に何百枚もの紙を染めるため、運動量は相当なものだ。そのせいだろうか、工房で黙々と立ち働く職人さんたちは、アスリートのような体つきと動きをしている。染めあげた和紙は、はんなり愛らしい和の花模様。職人さんたちの技術力や格好良さとのギャップがなんともいえず、「プロの仕事とはこういうものなのだな」と感嘆のため息が漏れた。

それにしても、友禅和紙はなぜこんなにも存在感があるのだろう。そもそも素材が和紙であるため風合いがよいし、染め重ねた糊のわずかな厚みのせいか立体感がある。人の手で染めるからこそ現れるゆらぎも関係するのかもしれない。そして何よりの大きな魅力は、輪郭線などに効果的に使われる金色だ。単に豪華になるだけではなく、角度によって光を帯びたり翳ったりするため、染め上げた紙にいのちが宿るのだ。

いつだったか手製本の工房である松田製本所さんで見かけた、丸山染工の和紙に目をみはったことがある。黒い着物地の本の見返しに使われており、表紙を開けるとぱあっと紙が輝いたのだった。

写真2 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真3 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真4 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真1 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真2 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真3 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真4 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

後継を育て、守り継ぐ

丸山染工では、ひとつの文様に6色使うのが定番だという。型染めは1色につき1版使用するので、一枚の紙に合計6回染めを重ねることになる。

少しでも版がずれるとその紙はダメになってしまうので、2色や3色しか使わない紙よりも高い技術力が必要だ。リスキーではあるが、色を重ねた分だけ表現は厚みを増し、刷り上がった紙の魅力は高まる。

「友禅和紙は千代紙とも呼ばれる染め和紙で、貼り箱や茶筒などに使われてきました。染料と顔料の違いはありますが、着物の型友禅と同じやり方で染めるんです。うちも昔は友禅の着物を染める工場だったんですよ」

と教えてくれたのは、丸山染工工場長の秋山和丈さんだ。先代の娘さんと結婚した秋山さんは、20年前にサラリーマンから転職してこの工場の後継ぎとなった。当時職人の世界は今よりも厳しく「見て学べ」が当たり前で、誰も技術を教えてくれなかったという。そのなかで秋山さんは努力を重ね、先輩たちの技を盗んで技術を磨いていった。

だが現代でそれは通用しないと、秋山さんは言う。それゆえ現場では職人さんたちにこまめに声をかけ、アドバイスをする。さらに新人には摺りの練習もさせているという。はじめて女性が職人として入ったときは、女性の手でも扱いやすいようにと秋山さんがヘラの持ち手を削った。

昭和の最盛期から比べると、友禅和紙はずいぶん生産量が減ってしまった。だが、その存在を知らない若者や海外の人に現物を見せれば、必ず感嘆の声があがる。友禅和紙の美しさと魅力は、何ひとつ変わってはいないのだ。秋山さんもそのことをよく理解しており、まだまだ可能性はあると考えているという。

「だからこそしっかり仕事を取ってきて、若い職人を育てていきたいですね」。

人の手で一枚一枚紙を染めることを、前時代的だと思うだろうか。これらの紙は、印刷物というよりは工芸品。機械で刷った用紙とはもはや別物で、並べて勝負するものではないのだ。黙々と働く職人さんの姿と友禅和紙の魅力に触れたなら、誰もがそう確信するに違いない。

写真5 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真6 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真7 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真5 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真6 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真7 | いのち宿る紙の生まれるところ 丸山染工 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

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住 京都府南丹市八木町西田向嶋12−1
電 080−3800−8558
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