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白須美紀
趣を印刷し、人の技を伝える
廣運舘活版所 -honmachi-

(写真1) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

明治期にあった活版所がよみがえる

兵庫県丹波市柏原町に、100余年の時を経て再始動した活版所がある。工房内には当時の雰囲気を今に伝える活字が並び、黒光りした風格あるハイデルプラテンや愛らしいテキンなどの活版印刷機が鎮座する。活字が組まれたまま残されている時刻表の組版などもあり、まるで活版印刷の博物館のようだ。工房は不定期オープンなので訪問するのにはメール等で予約をする必要があるが、活版印刷好きにとっては最高に心躍る場所に違いない。その印刷所の名前は、「廣運舘活版所 -honmachi-」という。

「柏原は織田柏原藩の城下町だった歴史があり、江戸期の陣屋敷や太鼓櫓が今も残されています。明治になると行政機関や、新聞社、銀行などの支社が集結し、丹波地方の中核都市として発展しました。廣運舘活版所は、その頃この地にあった印刷所なんです。造り酒屋さんが手掛けた印刷所だったようですね」

と教えてくれたのは、この店の主でもあり自ら活版印刷機を扱って印刷を担当している菊本裕三さんだ。菊本さんは祖父の代から続く印刷所の社長を務めているが、本業のかたわらこの「廣運舘活版所」開いた。そのきっかけとなったのは、亡父の遺品から出てきた『花の栞』という古書だった。

(写真2) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真3) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真4) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真5) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真1) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真2) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真3) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真4) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真5) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

人の技術が生きる印刷物

『花の栞』は明治26(1893)年から不定期で発行された印刷物の見本集だ。全国各地の印刷業者がそれぞれの技術を凝らした印刷作品を提出し、東京築地活版印刷所が取り纏め製本したものだという。活版印刷をはじめ、木版や石版、写真版までさまざまな印刷作品が収録され、社名だけでなく製版者や印刷者の個人名も掲載されている。

菊本さんは父の遺品整理をしているうちにこの本を見つけ、活版印刷の作品を載せているなかに地元柏原の「廣運舘活版所」があること、その印刷所が明治16年に創業していることを知った。また菊本さんの会社は昭和8年に菊本さんの祖父が創業したと思っていたが、実は曽祖父も印刷の経験があった様で、時期的に見てもこの本が自宅に残っていた事を考えて見ても、掲載されている廣運舘活版所で働いていた事は間違いないだろうと思われた。

そして何より菊本さんの心を掴んだのは、『花の栞』にあふれる当時の印刷物の魅力だった。

「家業を継いで永く印刷の仕事に関わっていますが、技術の革新は進むばかりで、印刷はどんどん簡単で綺麗になっています。パソコンでつくったデータがそのまま印刷物になるのは、確かに便利で早い。けれど『何だか面白くないなあ……』と感じるようになったんですね。きっと印刷物に人の技が見えないからなのでしょう」

『花の栞』の作品たちには、今の印刷にはないものがたくさん宿っていた。手をかけて刷るからこそ生まれる風合いや、作り手の存在を感じさせる味わいだ。菊本さんは『花の栞』を眺めながら「自分もこんな印刷をやりたい」と思うようになる。それが、「廣運舘活版所」復活のきっかけとなったのだ。

(写真6) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真7) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真8) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真6) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真7) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真8) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

充実のオリジナルアイテム

廣運舘活版所では、お客様からの要望にあわせて主に金属凸版を作製し、活版印刷機で名刺やカードを印刷している。またそれとは別に手元に残されている活字や飾罫線を活かしてノートパッドやメモ帳、一筆箋やカードなどのステーショナリーも製作する。それらのオリジナル製品は、ネットショップや工房奥の物販コーナーで購入が可能だ。

廣運舘活版所の紙文具を見るたびにいつも驚くのは、古い活字や飾罫線を使っているのにも関わらず、どのアイテムも古びた印象を受けないところだ。活版ならではの味わいはあるのだが、むしろスタイリッシュな印象が残る。このあたりは、印刷業のプロならではの技術とセンスが製品づくりに自然に滲み出ているのかもしれない。

また、印刷のベテランだけに菊本さんの紙への知識は、かなりのものがある。見た目はもちろん活版印刷との相性、手触り、万年筆での書き味など、相当に考え尽くしてプロダクトの紙を選び抜いているのだ。

菊本さんが最近力を入れているのは、お客様に活版印刷を体験してもらえるワークショップだという。廣運舘活版所の工房で体験できるのはもちろん、廣運舘活版所が出展する紙のイベントに小さな手刷り活版機のテキンを持参することもあるという。

多彩なプロダクトの製作と新しい挑戦を、従来の業務と並行して実践しているのだから菊本さんのパワフルさには圧倒されるほかない。

「体力的には確かに大変です」

と菊本さんは笑いながら頷き、そしてこう続けた。

「廣運舘活版所では一般のお客様とお話もできますし、商品を喜んでくださる声に直接触れることができるので元気をもらえます。ワークショップも同じです。まずは活版印刷を楽しんでもらえると嬉しい。そして、活字のことや、ご自身が刷ることで生まれる味わいを知ってもらえると、さらに嬉しいですね」

綺麗より風合いを、均一よりも味わいを目指し、「趣を印刷する」ことを目指す廣運舘活版所。菊本さんの印刷への情熱が宿ったプロダクトや精力的な活動は、『花の栞』に掲載された作品たちに負けないくらいに「人の技」を伝えている。

(写真9) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真10) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真11) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真12) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真13) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真9) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真10) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真11) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真12) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

(写真13) | 趣を印刷し、人の技を伝える 廣運舘活版所 -honmachi- - 白須美紀 | 活版印刷研究所

廣運舘活版所
-honmachi-

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兵庫県丹波市柏原町柏原
TEL 050-3595-2277
ウェブサイト https://kohunkankappan.jp/
※工房への訪問は要予約。予約フォームもしくはメールにてお問い合わせください。
スケジュール調整のうえ、できるかぎり対応していただけます。
予約フォーム https://kohunkankappan.jp/honmachi
メール  info@kohunkankappan.jp

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