生田信一(ファーインク)
台湾の特殊印刷が利用できる─EPの新しいプリントサービス
EPは、台湾の印刷・加工会社と協力して印刷プロジェクトをコーディネートするサービスを展開する企業です。とりわけ箔押しやシルクスクリーンなどの特殊印刷の分野を得意としています。これまで魅力的な印刷見本帳を企画・開発し、日本のクリエイターに向けて情報を発信しています。
EPを利用すると、どのような製作物ができるのか、どんなメリットがあるのか、東京・新宿にある同社のショールームを訪ね、お話を伺いました。
クリエイターを刺激する魅力的なショールーム
EPのショールームを案内してくれたのは、同社のプリンティング・ディレクターの北川夏希さん。北川さんは、前職で日本の印刷加工会社で印刷コーディネートの業務を経験されていました。退職後はカナダへ留学、帰国してEPに参加されました。これまで培った印刷加工の知識や経験を生かして、日本のクリエイターと台湾の印刷会社を繋ぐ役割を担う立場になりました。
「EP」の特徴は、特殊加工に特化した印刷サービスにあります。EPのサイトの冒頭にある「EPについて」では、「印刷を最高に面白く。」することが同社のポリシーであることが謳われています。以下、同社のサイトからの引用です。
「EPでは、「どうやって作るのが良いのかな?」「そもそも作れるの?」「予算が……」といったお悩みをEPのスタッフたちが一緒に考えていき、より良いソリューションを模索することができます。場合によっては「EPで作らない方が良い」という答えが導き出されるかもしれません。その時はそういったことも含めてしっかりとお伝えしています。EPはクリエイターの方々の“印刷のパートナー”として伴走し、ご予算、ご要望、技術的要件などを整理し、印刷を最高に面白くしていきます。」
さらに、台湾の印刷会社を利用して「自由な印刷・加工」ができることがEPの大きな特徴です。
「特殊印刷・加工を組み合わせることで、一般的な印刷では表現し得ない独特の風合いや世界観を表現することができ、より印象に残る印刷物を制作することができます。EPは特に箔押し・シルク印刷を得意としていますが、ほかにも特殊加工を施した変形サイズや大判サイズのポスターをはじめ、刺繍やブラックライトといった珍しいものまで、豊富な種類の印刷・加工を選ぶことができます。
※複合的な特殊加工などはオーダーメイドよりご注文・お問い合わせください。」
さっそく北川さんにショールームを案内していただきました。ショールームではEPが手がけたカードやパッケージ、シール、ステッカー、書籍などのさまざまな作例や、EPが企画・製作した各種の印刷見本帳、台湾で入手できる用紙の見本を手にとって見ることができます(写真1、2)。
豊富な種類の紙をその場で確認できる「用紙サンプル引き出し」
EPで利用できる紙について、北川さんは次のように語ります。「用紙の種類はかなり豊富です。日本で入手可能な用紙をはじめ、日本では流通していない欧米紙など、さまざまな用紙をご用意しております。そのためクリエイターの方々は、決められた用紙から選ぶのではなく、そのデザインにもっともふさわしい用紙を自由にお選びいただけます」
「用紙サンプル引き出し」には、EPで扱うことができる紙の見本が格納されています(写真3)。カードは名刺サイズにカットされ、紙の銘柄や色名、斤量が記されています(写真4〜6)。この用紙サンプルは、公式サイトでサンプル請求を行うと、5枚まで無料で発送してくれます。ショールームを訪れた場合は10枚まで即時持ち帰ることができるとのこと(写真7)。
ショールームのオフィスを案内していただくと、本棚には台湾で入手可能な紙の見本帳が並べられていました。見本帳はどれもボリュームがあり、バインダー形式で綴じられ、印刷サンプルを見ることができます(写真8)。
仕上がりの確認ができる印刷見本帳が充実
EPが行う印刷技術やサービスを伝える見本帳があります。第一弾として発売されたのが「EP 箔見本帳」です。その後、「EP STUDY #01|シルクスクリーン標本」「EP STUDY #02|透明箔セット標本」が発売され、今後もシリーズが増えていく予定です。
箔押し─EP 箔見本帳
第一弾として発売された「EP 箔押し見本帳」です(写真9〜11)。日本と台湾のデザイナーが共同開発し、86種類を収録しています。金属箔、ホログラム箔、レーザー箔、透明箔、顔料箔が収められ、中には日本国内で見かけることのない個性的な表情の箔などもあるため、既視感のない印刷・加工物を作ることができます。
→購入はこちら
EPのサイトでは、Web上で「EP 箔押し見本帳」に収録された見本の一覧を見ることができます→EPサイトリンク
(注意)ネット注文(規格サイズ商品)の場合は、EPが指定する48種類( 「●」の記載があるもの)から選べます。また、デザインや紙の相性などから使用が難しい場合もあります。
印刷技法を実験した見本帳──EP STUDY
「EP STUDY」は、箔押しに限らず、さまざまな印刷技法を実験した見本帳のシリーズです。
EP STUDY #01|シルクスクリーン標本
印刷加工実験企画「EP STUDY」第1弾として作ったのが、「シルクスクリーン標本」(写真12、13)。デザインシーンでもよく使われる金銀インキの特徴を解剖。線の細さ、重なり具合、紙によっての仕上がり・風合いの違いなどを検証しています。
紙の検証バリエーションは以下の3パターンがあります。
・モノトーン紙ver →購入はこちら
・カラフル紙ver →購入はこちら
・ユニーク紙ver →購入はこちら
EP STUDY #02|透明箔セット標本
印刷加工実験企画「EP STUDY」第2弾として作ったのが、「透明箔見本セット標本」(写真14、15)。白紙にカラフルなカラーバーを印刷した上に11種類の透明箔を押して、箔の透け具合や、それぞれの印刷色に重なった時の色味の変化、レイヤー感がどうなるかを検証しています。EPで利用可能な透明箔11種をすべて網羅しています。
ケースのロゴの箔色違いで3種あります。中身はすべて同じです。
<ケースの箔色>
・COR01(透明オレンジ) →購入はこちら
・CYL01(透明イエロー) →購入はこちら
・T02(透明特殊模様) →購入はこちら
筆者がショールームに伺った折には、大きなテーブルに「EP STUDY #02|透明箔セット標本」が展示されていました。印刷スペックが図解で解説され、使用されたトムソン型や箔押しの金型も展示されていました(写真16〜19)。
EP STUDY #03|紙象嵌
「EP STUDY」の次のテーマは「紙象嵌(かみぞうがん)」です。ショールームでは、制作中の一部が展示されていました(写真20〜22)。
「紙象嵌」は、現在では見かけることが少なくなった印刷技法です。象嵌は、一つの素材に異質の素材を嵌め込む工芸技法で、“紙”素材を使って“象”を“嵌”め込む技法です。現在では日本国内でこの技法を行う加工所が少なくなっているそうで、「紙象嵌」の加工技術がEPで利用できるというのはうれしいニュースです。
「紙象嵌」の展示の解説では、以下のように解説していました。
紙象嵌
・土台の紙に、異なる素材をかたどり(=“象”)、はめこむ(=“嵌”)加工。
・素材をはめこむのと同時に、素材全体または一部を空押しすることができます。
・古くから存在していたものの現在は継承する加工所が少なく、貴重な技法となっています。
・紙に限らず、布や葉など、裏面に糊付け可能かつ刃でかたどれる素材であれば対応可能です。
ショールームに展示された印刷サンプル
ショールームの壁面には、台湾で作られた印刷サンプルが多数展示されています。主なものをご紹介しましょう。
パッケージ、ラベル、ステッカーの印刷サンプル
パッケージの印刷サンプルが見ることができます(写真23〜25)。箱の形状のものについて北川さんは、「場合によっては印刷や箔押しは台湾で行い。組立加工のみ日本国内で行うこともある」とのこと。組み立てた箱は嵩張るため、輸送費が高くなってしまうからだそうです。
はがきや小型の印刷物の印刷サンプル
はがきやぽち袋などの小型の印刷物では、箔押しのさまざまなバリエーションを見ることができました(写真26〜28)。
架空の紙幣の印刷サンプル
こちらは学生が作った作品。架空の紙幣を想定して作られた印刷サンプル(写真29)。ホログラム箔が使われ綺麗に仕上がっています。
蛇腹製本の印刷サンプル
手作業を含む印刷・加工技術が伝わる見本として、蛇腹製本の書籍『都市を看る―共生の都市学/江戸東京の文脈』が展示されていました(写真30、31)。漢日文併記の仕様で、経本のように広げて読むことができます。
台湾で印刷・加工を行うメリットと注意点
最後に、EPを利用するメリットと注意点について、お話を伺いました。
メリットとしては、まず、用紙や箔を台湾で調達するため、日本で入手できない素材を利用できることが挙げられます。選択肢が増えることはクリエイターにとって大きなメリットだと思います。
また「価格面でのメリットも生まれる」と北川さんは話します。「印刷版の作成にかかる費用は、日本より安くなる場合があります。たとえば、シルクスクリーンや箔押しの印刷版を作る費用は、日本では版の面積に応じて高くなりますが、台湾では版の面積に対しての増額具合が日本に比べると少ないです。ジャバラ式の製本や、大量の版が必要なシルクスクリーン印刷など、日本では膨大な手作業が必要とされる加工も、台湾の印刷工場なら引き受けられる場合もあります。できるかどうかわからない加工も、まずは挑戦できるのが台湾の印刷工場の強みです。実験的なデザインをしたい方にとって、EPはとても相性がいいと思います」と北川さんは話します。
一方で、注意しなければいけない点もあります。ひとつは、海外での印刷であるため、印刷現場に出向いて印刷立会いができないことです。こうしたことからEPでは、加工中の品物の写真や動画を工場からチャットで送ってもらい、お客さんが気にしている点を中心に確認して、改善点があればその場でフィードバックしているそうです。
また、「納期」についても注意が必要です。海外からの発送になるため、納品のスケジュールは余裕をみて発注するようにしたほうがよいでしょう。「急ぎの対応が必要なときには、コストが多少上がっても、日本の提携工場で制作するなど、優先順位に応じてほかの案を提案することもあります」と北川さん。
取材を終えて、EPのサービスは日台のクリエイター、印刷会社の共同作業でプロジェクトを進めていける新しいサービスである、という印象を強く持ちました。海外の印刷・加工技術を利用してプロジェクトを進めていくときの頼もしいパートナーになると思います。興味、関心のある方はショールームを訪問してみることをお勧めします。また、ネット注文やオーダーメイドについての問い合わせは、EPサイトからアクセスが可能です。
では、次回をお楽しみに!
EP
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EPのショールームを訪れる際は以下のリンク先より事前予約を行ってください。
https://airrsv.net/epshowroom/calendar