白須美紀
魅力ある作品と活動がつなげる、越前和紙の未来
滝製紙所
大紙屋として紙を漉く
滝製紙所に並んでいた大きな白い手漉き和紙たちは、驚くほどの存在感をたたえていた。雪の上の轍や水の波紋を想起させるもの、葉脈だけになった葉のように穴の空いたものなど、模様や加工もさまざま。白色も思った以上に表情豊かで、光の具合によって輝き、ときには翳り、あるいは青みを増し、模様の陰影も変化する。思わず見入ってしまう繊細な美しさだった。
「白だけで模様をつくるようにしているんです。使用している紙材は主に楮。ほかにも三椏、雁皮、麻といった材料がありますが、一般の人からみて楮が一番和紙だとわかりやすい仕上がりになるんですよ」
と教えてくれたのは、滝製紙所の後継ぎでもある伝統工芸士の瀧英晃さんだ。滝製紙所は明治8年創業の老舗で、手漉きや機械抄きによって襖紙などの大きな紙をつくってきた「大紙屋(おおがみや)」だ。生活スタイルの変化により襖紙の需要は年々減少しているものの、変わりに空間ディスプレイや内装などに適した紙を開発してニーズを開拓している。白一色にこだわるのもそのためで、シンプルな白は内装に使用してもらいやすいからだ。また色をつけたければ、いつでも着色することが可能だという。
滝製紙所では、襖紙の需要が減るなかでいろいろ試行錯誤を重ねたてきたという。大きな紙を小さくして販売したこともあったが、それには引っかかりがあった。
「越前には小さな紙を得意とする小紙屋さんもいるのに、大紙屋が大きな紙で小物を売るというのは何か違うなと思ったんです。そこで『自分はどうして大きな紙を漉いているんだろう』というところから見つめ直し、和紙に馴染みない人にも使ってもらえる大紙をつくって行くことにしました」
紙のつくり方にはさまざまな手法がある。この日は、「サンスイ」という紙を漉くところを見せてもらった。まずは紙の繊維と水が混ざった紙料液を大きな枠に流し入れ、下から余分な水を落として紙のベースをつくる。そこからオリジナルで開発したシャワーを用いて、水流で模様をつけていくのだ。型を使ったり計算して文様をつけるのではなく、自然な水の動きを重視するつくり方を見ていると、紙の文様が雪の上の轍や水紋に見えたのも、なんだか腑に落ちるのだった。
千年先の未来も産地であるために
滝製紙所のもうひとつの特徴は、数々のアーティストとのコラボレーション実績だ。テオ・ヤンセンの「ストランドビースト(砂浜の生命体)」が越前和紙とコラボしたプロジェクトでも、瀧さんが和紙づくりを担当した。瀧さんが東京の就職先から福井に戻ってきたのは20代後半のことだったが、その翌年からずっとアーティストとのプロジェクトに関わっているという。
「一番始めに三宅一生さんの展示会をお手伝いしたんです。そのときに一生さんが『作為的に無作為なものがつくれるといいですね』とおっしゃったことが強く印象に残っています。こちらは職人ですから、どうしても綺麗に仕上げようと考えてしまいがちだったので、目が開かれた思いがしました」
数々のアーティストから受けた刺激や発想は、瀧さんの紙づくりの源泉となったが、それを実現できるのは越前という産地の技術力があるからこそ。
「越前和紙は1500年の歴史を持つ産地なんです。今は40軒ほどの紙漉き屋がありますがそれぞれ家の得意分野があって『越前で漉けない紙はない』と言われるほど。みんなで助け合っているので、製作で困ったことなども産地の仲間に相談できるんですよ」
だからこそこの産地を次世代につなぎたいと瀧さんは考えている。そのため若い世代に越前和紙を知ってもらいたいと、「福井千年未来工芸祭」「RENEW(リニュー)」といった福井を代表する工芸イベントの運営にも関わっているのだそう。イベントのために制作したというTシャツを漉きこんだ和紙は「越前で漉けない和紙はない」ということを立証するかのような作品だが、ユニークでかっこいい仕上がりになっており、若者たちの和紙への興味を喚起したことは想像に難くない。そして、伝統的な紙づくりを守りながらアートにも挑戦する瀧さんの姿こそが、若者たちに「紙づくりの仕事の魅力」を伝えているに違いないのだ。
株式会社 滝製紙所
住所:福井県越前市大滝27-30
ホームページ:https://www.takiseishi.com
オンラインストア:https://takiseishi.stores.jp