生田信一(ファーインク)
付加価値を生み出す印刷・後加工
─ポッティング加工
今回のコラムは「ポッティング加工」について解説します。お話をうかがったのは株式会社プロモの代表取締役 中沢直哉さん。ポッティング加工の製造工程を見学させていただきました。
さらに同社のグループ会社であるサンエーカガク株式会社が管理・運営するショールームを案内していただき、「付加価値印刷サンプルブック 2020」を紹介いただきました。このサンプルブックは、ふだん触れることが難しいさまざまな印刷加工を直接手に取ってみることができる優れたキットです。
印刷に付加価値を与えるさまざまな特殊印刷や加工を知ることで、印刷物やノベルティ、販促ツールに活用できる新しいグッズのアイデアが広がります。とても刺激的な取材になりました。では、ご案内しましょう。
ポッティング加工との出会い
筆者が「ポッティング加工」に関心を持ったきっかけになったのが、「デザインのひきだし43」に掲載された「祖父江慎の実験だもの」の記事でした。この記事では、祖父江さんがデザインを手掛けられたポッティング加工シールの見本が付いていました。
記事によると、ポッティングの作り方は「透明フィルムのシール(タックフィルム)にCMYKプリントし、カッティングプロッタでカット。その上からウレタン樹脂を盛ったプロモのポッティング加工」を施していると解説されていました。シールはプニュプニュした柔らかな質感で、触るとても心地よいのです。五感を刺激するグッズとして、とても優れたものでした。
製造工程を知りたくてサイトで検索すると、プロモが制作したYoutubeムービーを見ることができました(ムービー1参照)。
ムービーを見る限り、作り方はとてもシンプルに思えますが、印刷や樹脂の固め方などの製造方法に強く興味を持ちました。
ムービーや取材を通してわかったのですが、ポッティングでは、印刷物の上に樹脂を垂らして、これを広げて固めます。カッティング加工を施したシールの上にウレタン樹脂を垂らすと、樹脂は自然に広がり、シールの縁で表面張力により樹脂が漏れずに止まります。12時間、自然乾燥させると、透明なツヤと高級感のある美しい仕上がりのドーム状のポッティングが完成します。
垂らす樹脂の量はプログラムで自動計算されていることを知りました。さらに大量生産が可能で、そのシンプルな仕組みに改めて驚きました。ポッティングの仕組みを知ると、展覧会やグッズ売り場で買い物をすると、ポッティング加工を施したシールやキーホルダーなどが目につくようになりました。
一般的な印刷物では、樹脂を使って表面を盛り上げる技法があります。たとえば書籍のカバーにUV厚盛ニスをシルクスクリーンで印刷する方法があります。ところがポッティング加工を使うと、印刷面が樹脂で厚く盛られ、樹脂は触ると柔らかい不思議な触感になります。単なるステッカーではない、付加価値を持った魅力的なシールになります。多くの人に是非知ってほしい印刷・加工方法だと感じました。
ポッティング加工の仕組み、用途
プロモの中沢さんに話を伺いました。「ポッティング」はプロモが推奨する呼び名だと話します。
「元々は「ドーミング」「樹脂盛」「エポ盛」など、さまざまな呼び名がありました。エポ盛はエポキシ樹脂を指すのですが、弊社ではウレタン樹脂を使う方法を広めていきたいと考えているので、「ポッティング」という呼び名を推奨しています」
さらに、樹脂には3つのタイプがあると、中沢さんは説明します。「エポキシ樹脂は硬いのが特徴、ウレタン樹脂は柔らかくソフトな感じに仕上がります。シリコンは柔らかいのですが高価です。弊社ではウレタン樹脂以外は扱っていません。一般の接着剤も、エポキシ系、シリコン系、ウレタン系などに分類されます。ただし、透明度を高めた接着剤を開発するのは難しい」のだそうです。
さらに「樹脂には「1液タイプ」と「2液タイプ」があります。プロモのポッティングは「2液タイプ」で、主剤となる「ポリオール」と硬化剤の「イソシアネート」という2つの液体を化学反応させた透明なポリウレタン樹脂を、シールラベルに塗布し硬化させる加工」であると説明してくれました。
また、「ポッティングの技術は、基板へのコーティングや接合部への接着剤としても使われますが、プロモではこうした工業製品への加工は行っておらず、印刷物への後加工の分野に絞って開発している」とのことです。
印刷物への加工の事例としては、考え方次第で色々使用できますが、プロモでは、キーホルダー、クリップ、カードケース、リールキー、タブレットケース、バッグハンガー、メーカー製品エンブレム、ロッカーナンバー、カート、販売機、店頭POPパーツ、滑り止め、衝撃吸収クッションゴム、保護フィルム等に使用されている事例があるとのこと(写真1)。
プロモのポッティング加工の製造工程
では、プロモが開発したマシンについて見ていきましょう。
プロモのポッティングマシン
プロモでは、同社で使用しているウレタン樹脂にあわせて専用の機械を作り上げました(写真2、3)。他の樹脂は使えないため、取り扱うウレタン樹脂は現在1種類のみ、それ以外の樹脂は保障外になるとのこと。「樹脂と機械はデリケートな面があるため簡単には樹脂を変えることができません」と語ります。
プロモのポッティングのメリット
プロモのポッティングの一番のメリットは、高級感の演出です。また、ポッティング加工を施したドームシール製品は、表面が軟らかく弾力性を持ち、傷つきにくく印刷面の保護になり、耐久性が高まります。また、耐候性、耐水性の向上にも役立ちます。
さらにプロモのウレタン樹脂は紫外線による劣化をしない難黄変(黄ばまない)タイプです。これらによって、長期に渡って製品を使用することが可能です。また、樹脂用の型や版が不要になることもメリットです。
データ入稿方法
ポッティングを使ったグッズの入稿データの作り方は以下の通り。まず、Adobe Illustratorでプロセス4色の絵柄を作成します。シールの角は、鋭角だと表面張力が効かないため、角をRの形状にする必要があります。極端に細いデザインでなければ、基本的には対応させて頂けるとのこと。
印刷〜カッティング〜ポッティング加工
入稿したデータは大判のインクジェットプリンターで出力し、さらにシール用にカッティング加工を施します。プロモでは基本的に塩ビ・PETなどのフィルム系メディアでシールラベルを作成します。素材は製品や使用する環境に合わせて使い分けます。紙はポッティング樹脂が染み込むため対応していません(紙やマット紙を使用したい場合はPETラミネート加工を施します)。また金属、アクリルの素材にも塗布することはできます。
印刷・カッティング加工を終えると、シートをポッティングのマシンにセットし、絵柄により塗布する樹脂量の面積計算を行い、樹脂を垂らす時間を入力します。樹脂が落ちてシール表面に広がっていく様子は先のムービーで見ることができます。プロモのウレタン樹脂の厚みは、1.5〜2.0mm程度になります。
プロモのウレタン樹脂は、塗布後、完全乾燥させます。温度25℃の環境で12時間かかります。湿度は乾燥するまで40%以下に設定します。基本、温度・湿度は乾燥するまで一定にします。樹脂によっては早く乾燥するものもあれば時間のかかる樹脂もあるとのこと。40〜60℃程度の温度の設定で乾燥機にいれることで2〜4時間程度で乾燥させることもできます。
注文の流れ
株式会社プロモにポッティング加工を依する際の流れは、同社サイトの「ご注文の流れ」を参照してください。フローチャート形式で紹介されています。
また「お見積もり」のフォームを使っての問い合わせも可能です。
さらにプロモでは、ポッティングマシンの販売も行っています。詳細はプロモサイトの「ポッティングマシン販売」ページを参照ください。
サンエーカガクのショールーム
プロモのポッティングの設備を見せていただいた後、ショールーム「神田サンプル☆ステーション」のフロアを見学させていただきました。「神田サンプル☆ステーション」は、日本創発グループ各社が共有するショールームです。日本創発グループは、印刷事業を中核としながらも専門領域としてデジタルコンテンツ開発、プロダクト開発、セールスプロモーション開発という事業領域と、これらを支えるクリエイティブ部門を持つ、「創るチカラ」が集まったプロフェッショナル・グループです。
ショールーム「神田サンプル☆ステーション」はプロモが入っているビルの最上階にあります(写真4)。対応いただいたのは、ショールームの管理を行っている、サンエーカガク株式会社 代表取締役社長 横山浩史さん。
「神田サンプル☆ステーション」では、ポッティングをはじめ、数々の特殊印刷や加工のサンプルや資料を手にとって見ることができます。ノベルティや販促物の企画に活用できる印刷のアイデアに触れることができる、とても刺激的な空間です(写真5、6)。
さまざまな印刷サンプルの中で筆者が驚いたのは、香料印刷の見本でした。このコーナーでは100種類以上の現物サンプルを手に取って見ることができます(写真7、8)。また、ラメ印刷、 蛍光印刷の実物サンプル(写真9)など、サービスサイトを見るだけではイメージが難しい五感を刺激するアイテムなどを実際に触って確かめることができます。
「付加価値印刷 サンプルBOX 2020」
サンエーカガク印刷が提案する「付加価値印刷 サンプルBOX 2020」は、さまざまな付加価値印刷をB6サイズに綴じ込んだ見本帳です。この見本帳は日本創発グループの各社共有のサンプル集です。約60種類の印刷加工サンプルが入っており、裏面には詳しい解説が付いています。ひと通り見るだけで特殊印刷加工に詳しくなれる、すごい見本帳です。
付加価値印刷のそれぞれの特長を「表面装飾」「五感刺激」「機能追求」「オリジナル製品」のカテゴリーに分けて編纂されています。目的によってねらい通りの付加価値印刷サンプルを見つけることができるでしょう(写真10〜12)。
このコラムでは、毎回、紙ものの印刷物のさまざまなトピックを紹介していますが、その中でも、近年とりわけ要望が高まっているのが特殊印刷や加工の分野ではないかと筆者は考えています。活版印刷や箔押しが人気なのは、電子メディアでは表現できない五感に訴える魅力をもっているからでしょう。
特殊印刷や加工の技法は、オフセット印刷、デジタル印刷と組み合わせて、さらなる価値を高めたものが次々と生まれています。まだまだ知られていない活用法が潜んででいるのではないかと常々思っています。今回紹介したポッティング加工は、印刷面を保護するだけでなく、見た目にも、触れても楽しい、五感に訴える楽しさがあります。
これからも、クリエイターをワクワクさせる分野や印刷技法を紹介していきたいと考えています。次回もご期待ください。
ではでは。
株式会社プロモ
ポッティングというシールの上に透明の樹脂をのせ高級感を出す特殊加工を行っています。その他オリジナルノベルティグッズ制作、スポーツ応援グッズの販売などを手掛けています。
住所:〒105-0014 東京都千代田区内神田2-14-6 神田アネックスビル4F
電話:03-6853-6261
URL:https://promobiz.co.jp/
Twitter:https://mobile.twitter.com/promopotthing
サンエーカガク印刷株式会社
「こすると香る印刷物」や「温めると色の変わる印刷物」などの特殊印刷、「ノベルティ用ステッカー」や「商品ラベル」などのさまざまなラベル・シール。長年培った専門的な技術とノウハウを強みとした提案の幅広さで、ワンランク上のサービスを提供しております。
住所:〒101-0047 東京都千代田区内神田2-14-6 神田アネックスビル5F
電話:03-3256-6117
FAX:03-3256-6116
URL:https://www.saneikagaku.co.jp/