三星インキ株式会社
印刷物の褪色(退色)について
前回まで長々と光(紫外線)について書かせて頂きました。
光(紫外線)は印刷に対してメリット(皮膜形成)・デメリットを有していますが、今回はデメリットの1つである印刷物の褪色(退色)について書かせて頂きます。
以前、金インキの褪色について書かせて頂きました(2019.3)が、今回は色インキに光が原因で起こる現象についてとなります(金インキとは機構的に異なります)。
印刷物を光の当たるところに放置しておくと、色が変わったり、無くなったりしています。
よく見るのが選挙ポスターであります。
最初は元気良さそうであったであろう候補者の顔を含めて、ポスター全体が青黒くなっている(顔色が悪くなっている)のを見たことがあると思います。
これはご存じだと思いますが、太陽光中の紫外線が顔料の構造を破壊し、顔料として発色しなくなったために起こる現象であります。
以前ご説明させて頂きましたが、化学物質には特定の波長の光を反射する(吸収しない)発色団と呼ばれる特定の化学物質構造が存在しており、発色団が反射した光が目に届くことで人間は色を認識することができます(2017.10:色について)。
印刷インキに使用される顔料に含まれる発色団の1つにアゾ基(-N=N-)というものがあり、安価で製造しやすい構造であることから、多くの顔料の発色団として使われています。このアゾ基を持つ顔料をアゾ顔料と呼び、発色団(構造式赤丸部)に助色団という特定の化学物質構造を組み合わせることで、いろいろな色を再現することができます。
ただし、このアゾ基は構造的に不安定なため、光(紫外線)を受けることで構造が破壊され、特定の光を反射することができなくなり、その結果、色が認識できなくなるということです。
では、このアゾ基を使用した顔料はどのような色があるのでしょうか?
お聞きになった方もいらっしゃると思いますが、黄・紅・金赤などの顔料に広く使用されています。
つまりこれら化学構造を含む黄・紅・金赤顔料、そしてこれら顔料を使用したインキは光に対してあまり強くない傾向にあります。(写真1〜3)
なお、藍・墨の顔料は構造的に非常に強固であり、褪色の発生は非常に小さいです。(写真4)
ですので、前述の選挙ポスターなどの基本『黄・紅・藍・墨』の4色で印刷された印刷物についは、黄・紅顔料が光で褪色したために藍・墨だけが残り、青黒く見えるようになるのです。
では、黄や紅を使用した印刷物は外に掲示すると必ず色がかわってしまうのでしょうか?
いいえ、それは防ぐ(軽減する)ことができます。
その方法として、強固な化学構造を持つ発色団を有する顔料を使用するのです。
これら顔料は一般的に『耐光性顔料』と呼ばれ、この『耐光性顔料』を使用したインキを『耐光性インキ』と呼び、どうしても色の変化を抑えたい用途に使用しなければならない場合(前述の選挙ポスターなど)に使用することをお薦めしています。(写真5)
ただし、濃度感が出ない、色調的に鮮明な色を再現できない、顔料が高価となるためにインキ価格も高くなる 等の留意しなければならない点があります。
また、一般黄・紅・金赤インキよりも更に光に対して弱いインキがあります。
それは蛍光インキとよばれるものです。
蛍光インキは非常に鮮明な色調を有しており、印刷物にとって大切な高い視認性を得ることができるインキであります。
ではなぜ蛍光インキは耐光性が弱いのか?
蛍光インキに使用している色材は高い視認性を得るため、光を浴びることで通常の顔料よりも強く発光(励起)する構造を有しており、光に対して何も防御していない(逆に防御すると励起しなくなり特長である高い視認性が得られないため)ことが要因の1つとして挙げられます。
蛍光インキは光に対して構造的に弱いということは周知しておいて下さい。
このように顔料によって耐光性や色調が大きく異なります。
もし、耐光性が必要な環境下に置かれることが前提の印刷物を印刷される際は、必ずインキメーカーに耐光性が必要である(耐光性インキの使用が必須である)ことをお伝え下さい。
そうしないと、店舗で陳列中に光の当たっているところと当たっていないところで色の違いが発生するなどのトラブルとなります(特に鮮明な色調の場合は注意して下さい)。
発生すると印刷物は元には戻りませんので(信頼も戻りません・・・)。
今回は視認性を有するために使用している色材(顔料)が光によって退色する要因を書かせてもらいましたが、次回は顔料を使用していないインキでも発生する退色(変色?)について書かせて頂きます。