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生田信一(ファーインク)
校正・校閲、エディトリアル技術の現場を知る本

校正・校閲、エディトリアル技術の現場を知る本 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

今回のコラムは、2024年の暮れに刊行された2冊の本を紹介します。一冊は「校正・校閲 11の現場」(牟田 都子 著、KTC中央出版)、もう一冊は「エディトリアル技術教本[改訂新版]」(板谷 成雄 著、オーム社)です。

筆者の普段の仕事は、書籍やWebメディアに掲載される記事やコンテンツをまとめることが主になっているのですが、自分の仕事場は、業務を円滑に進めるための資料や道具に囲まれています。困ったことや調べたいことがあれば、デスクの周囲に置かれた本に手が伸びます。

今回紹介する本は、ややマニアックな内容かもしれませんが、あえて取り上げてみました。というのは、昨今は紙の本以外の、Webや映像などのさまざまメディアに触れるようになり、求められる知識もずいぶん様変わりしてきました。書店を覗いて、最新の情報にアップデートしたいと考えました。

では、ご案内します。

校正・校閲、エディトリアル技術の現場を知る本 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

「校正・校閲 11の現場」──言葉のあるところには、すべて校正がある

1冊目に紹介する本は「校正・校閲 11の現場」(牟田 都子 著、KTC中央出版)。こちらの本は、神田神保町の大型書店を覗いたときに購入したのですが、なんと、12月の売上ランキングの1位でした。出版社が集中する神保町という場所柄かもしれませんが、多くの方が手を伸ばして、中身を確認されていました(写真1)。

(写真1) | 校正・校閲、エディトリアル技術の現場を知る本 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)「校正・校閲 11の現場」(牟田都子 著、KTC中央出版)。

以下、書誌情報をAmazonサイトから引用します。

「言葉のあるところには、すべて校正がある。
世の中には様々な校正・校閲の現場があるはずなのに、現場に関わる人以外にはなかなか中が見えづらい。本書は、校正者の牟田都子さんが11箇所の校正・校閲の現場で働く方々に取材をした対談集です。
マンガ、レシピ、テレビ、辞書、ウェブ、法律書、スクール、地図、新聞、商業印刷物、雑誌、それぞれの現場における特徴や進行の仕方、仕事の醍醐味や難しさを伺い、その現場特有の仕事道具や、どのような経緯で今の仕事に就いたのかなども教えていただきました。
校正・校閲に興味のある方、言葉そのものに関心のある方にぜひ手にしていただきたい内容です。」

リンク→https://amzn.to/3PmjRbZ

ページをパラパラめくってみると、目次の構成が圧巻で、驚きました。目次は帯にも掲載され、本書のテーマである編集・校閲の種類(ジャンル)や取材先を伝えています。著者である校正者の牟田都子(むた・さとこ)さんがインタビューを行い、制作現場の最前線を伝えています。本文を一読すると、気になるキーワードが飛び込んできて、紙面にどんどん吸い込まれていきます。読書の醍醐味を久しぶりに味わった気分です。

目次の構成は以下の通りです。

[目次]

はじめに
1 マンガ 講談社校閲部
2 レシピ レタスクラブ(KADOKAWA LifeDesign)
3 テレビ タイトルアート
4 辞書 境田稔信
5 ウェブ ヴェリタ
6 法律書 有斐閣法律編集局校閲部
7 スクール 日本エディタースクール
8 地図 平凡社地図出版
9 新聞 毎日新聞社校閲センター
10 商業印刷物 タクトシステム
11 雑誌 BRUTUS(マガジンハウス)
参考文献
より校正・校閲を知るためのブックリスト
おわりに

目次からだけでも、本書のテーマの広さと奥深さを感じていただけると思います。また、本書を読んで感心したのは、現場の雰囲気を伝えるビジュアル写真が素晴らしいことです。

写真は人物ショットだけでも多くの情報を与えますが、加えて、制作現場の細かなディテールを捉えることで、日常の業務の風景や雰囲気を伝えることができます。

筆者が気になるのは、実際の校正紙のショットです。一般的には、編集者や校正者が修正の指示書きを赤ペンで書き込み、著者への疑問点や確認事項は鉛筆で書き込みます。こうした指示書のコメントは、著者以外の多くの方の目に触れるので、簡潔に要点を伝え、さらにきれいに読みやすく書き込むことが求められます。

ベテランの方の赤字は本当にきれいで、見ていて惚れ惚れします。校正の赤字に触れることで、プロフェッショナルならではの視点や考え方が垣間見えて、とても参考になります。

また、普段使っておられる辞書や事典、資料集、カラーペンなどの文房具なども紹介されており、業界によってずいぶん異なるものだと思いました。筆者の場合は、ルーペを活用することが多く、さらに色指定の際の見本帳や用紙のサンプルブックなどが必需品になります。どのようなジャンルの本を作るのか、また仕事においての自分のポジションによっても、求められるツールも変わってくるのでしょう。

牟田さんのインタビューを通じて交わされる会話からは、現場の仕事の進め方や工夫されておられることにも触れています。また、業界に入られたきっかけやエピソード、この仕事を長年続けてこられた秘訣や心構えなどにも触れています。校正・校閲に興味のある方にとっては貴重な一冊になっています。

(写真1) | 校正・校閲、エディトリアル技術の現場を知る本 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)「校正・校閲 11の現場」(牟田都子 著、KTC中央出版)。

「エディトリアル技術教本[改訂新版]」──編集技術の最前線をアップデート

2冊目の本は、「エディトリアル技術教本[改訂新版]」(板谷 成雄 著、オーム社)(写真2)。

(写真2) | 校正・校閲、エディトリアル技術の現場を知る本 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)エディトリアル技術教本[改訂新版]」(板谷 成雄 著、オーム社)。

こちらの概略についてもAmazonサイトから引用します。

「編集、制作、周辺技術など、書籍編集の知識への理解が深まる!
2008年の初版発行から15年が経過した本書。書籍編集のワークフロー、DTPシステム、印刷・製本技術、発行形態等、この間に変化した内容を取り込み、改訂新版として発行する。編集技術についての普遍的な内容は従来のままとし、既存の読者には電子書籍関連等を含めた情報のアップデートを、新規の読者に対しては編集の基礎から最新の考え方を提供し、改めて書籍編集・制作・デザインの正統なテキストとして刷新。
昨今、デザイン中心の書籍が多くなるなかで、従来的な編集技術や知識について歴史的な流れを把握しながら体系的に理解できる内容。」

リンク→https://amzn.to/4a82qVO

本書の中身の一部は、上記のAmazonサイトの「サンプルを読む」をクリックいただくと見ることができます。サンプルのページは充実していますので、本書の内容に触れてみたい方は必見です。

本書は、タイトルにあるように、「エディトリアル技術」を体系的、歴史的に把握できる一冊です。しかしながら、編集に必要な知識は幅広く、この種のテーマをまとめるときに苦労する大きな課題になっています。とりわけ印刷に関する編集技術は、長年にわたって築き上げられたノウハウが詰まっていますから、一人の方の手でまとめることは難しいのです。

本書の著者の板谷 成雄(いたや・しげお)さんは、ベテランの編集者であり、編集というテーマを体系的に語ることができる数少ない著者の一人です。本書は15年ぶりの改訂新版で、デスクに脇に置いておきたい一冊になるのではないかと思います。

本書の目次は、9つの章で構成され、以下のような流れになっています。

予備知識
文字
組版
組版原則
図表類・写真

用紙
書体・記号
資料

本書を使こんでいくと、編集ならではの多くの工夫が盛り込まれていることに気づきます。たとえば見開きページの右側にはインデックスが付き、目次の役割を果たしています。キーワードで検索できる索引ページも充実しています。また、カラー刷りと2色刷りのページで情報がうまく整理されていることにも感心させられます。

書籍を作る大きな流れは、企画→執筆→編集(テキスト・図版の整理)→組版・図版作成(ページデータの作成)→印刷データの入稿→印刷という流れになります。この流れをマスターすると、さまざまな分野のコンテンツを作る際にも役立つのではないかと思います。紙媒体と電子媒体とで、データの扱い方は異なりますが、情報を整理し、レイアウトするという観点で捉えると、多くの共通点があります。

どの媒体でも、見やすく、読みやすくし、情報を正確に届けるということが最終にゴールになるということでしょう。どのメディアであっても、情報の信頼性を確保するには、編集・校閲といった作業は欠かせないと思います。

 

メディアの技術も日々進化し、新しいソフトウェアが開発されています。編集業務に関して言うと、現在もっともホットな話題は、AIの技術を業務に取り入れたワークフローでしょう。生成AIを使うと、自然なテキストや画像までも起こすことが可能になっていますし、さまざまなチェック作業も合理化されていくことが期待されています。目が離せませんね。

では、次回をお楽しみに!

(写真2) | 校正・校閲、エディトリアル技術の現場を知る本 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)エディトリアル技術教本[改訂新版]」(板谷 成雄 著、オーム社)。