生田信一(ファーインク)
印刷博物館 企画展示「欧文活字の銀河」に行ってきました
東京都文京区の印刷博物館では、2024年7月20日(土) ~ 9月23日(月・振替休日)の期間、「欧文活字の銀河」と題した企画展が催されています。
印刷博物館は、地下の印刷工房で活版印刷を実際に体験することができます。印刷工房には、各種の印刷機材のほか、数多くの金属活字が保管されており、歴史的にも貴重な資料になっています。
今回の企画展は、普段見ることができない貴重な金属活字を数多く展示し、当時使われていた自動鋳植機も紹介されていました。活版印刷の工程や流れをわかりやすく解説した展示構成になっていますので、これから活版印刷に触れてみたいと考えている方にお勧めしたい企画展です。
会場のP&Pギャラリーには数多くの金属活字が並べられ、展示したテーブルは銀色に輝いています、まるで「欧文活字の銀河」を見るようでした。
では、ギャラリーにご案内します。
欧文活字の世界を探訪
本展の概要は以下の通りです。
タイトル:欧文活字の銀河
The Galaxy of Letterpress
会期:2024年7月20日(土) ~ 9月23日(月・振替休日)
会場:印刷博物館 P&Pギャラリー
所在地:〒112-8531 東京都文京区水道1-3-3 TOPPAN小石川本社ビル
休館日:毎週月曜日(ただし8月12日、9月16日、9月23日は開館)、8月13日、9月17日
開館時間:10:00~18:00
入場料:無料 ※印刷博物館展示室(地下)にご入場の際は入場料が必要です
URL:https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/g20240720.php
会場は、以下の構成になっています。
第一章 活版印刷の世界へ
第二章 欧文活字の銀河
第三章 日本の欧文活字
(写真1)は本展の案内の裏面、展示内容がわかりやすく整理されています。
(写真1)企画展「欧文活字の銀河」の案内。
会場に入るとすぐに、活版印刷で組まれたタイトルラベルの印刷版に出会います(写真2)。 ※以下に、展示写真のスナップ写真と解説キャプションのテキストを抜粋して紹介します。
(写真2)「欧文活字の銀河」
書体名:凸版明朝 ベンボ・イタリック
100年前に繁栄した活版印刷
欧文活字は、活版印刷という印刷技法で使われたローマン・アルファベットの版のこと。活版印刷は、今から約100年前に大いに発展した産業である。タイトルの欧文活字は、ちょうどその時代に英国でデザインされたもので、印刷博物館内にある印刷工房で組み上げている。
栞(しおり)は、印刷博物館の中にある印刷工房で制作されています。(写真3、4)は印刷に使われたアダナ印刷機と印刷された栞です。
(写真3)印刷工房で使われている欧文活字
右の栞(しおり)は、印刷博物館の中にある印刷工房で制作しました。活版印刷という方法で組み上げた版には、「コロンナ」という書体の活字を使用しています。この書体は、いまから100年程前にスタンリー・モリソンという人物がデザインしたものです。エレガントな印象を与え、広告などに使用されていました。
(写真4)欧文活字の栞 書体名:コロンナ
印刷工房で制作した欧文活字作品の例
左の印刷機で実際に印刷した栞とその版。文字の部分に欧文活字が使用されている。
(写真2)「欧文活字の銀河」
書体名:凸版明朝 ベンボ・イタリック
100年前に繁栄した活版印刷
欧文活字は、活版印刷という印刷技法で使われたローマン・アルファベットの版のこと。活版印刷は、今から約100年前に大いに発展した産業である。タイトルの欧文活字は、ちょうどその時代に英国でデザインされたもので、印刷博物館内にある印刷工房で組み上げている。
印刷機材と道具
金属活字は、工場で大量生産されます。活字の原料は金属を溶かし、文字の鋳型に流し込んで製造されます。展示会場では、活版印刷の大きな技術革新として活字の製造が自動で行われるようになった時代に使われていた機材として、欧文モノタイプさん孔機(写真5)と欧文モノタイプ鋳植機(写真6)の2台が並べて展示されていました。この2台はセットで使われていたとのこと。
→「自動鋳植機のしくみ・印刷について」
(写真5)欧文モノタイプさん孔機
さん孔テープに穴を開け、鋳造する活字の情報を入力する機械。できあがったさん孔テープは、欧文モノタイプ鋳植機に付け替えて鋳造・植字に使用する。キーボードの文字の配列は、現代のPCでも一般的に使用されるQWERTY配列が採用されている。
(写真6)欧文モノタイプ鋳植機
付属の窯(かま)にインゴットを溶かし、欧文活字を鋳造・植字する機械。モノタイプさん孔機で作成したさん孔テープの情報によって制御される。アタッチメントを取り付けることで、アルファベット1文字を量産する鋳造機としても使用可能。
欧文活字は金属でできていますが、どれくらいの重さなのでしょうか? その重みを体感できるスポットが(写真7)の展示です。会場でぜひ持ち上げて体感してみてください。
(写真7)欧文活字のフォントの重さ 書体名:コロンナ
欧文活字のフォントの重さはどれくらいあるのでしょうか。台座ごと両手で持ち上げてみてください。 一箱でおよそ1.8キロあります。
金属活字の原料は「インゴット」(「金属の塊」の意味)と呼ばれています(写真8)。また、印刷で使用したり、傷がついたりした欧文活字は、木箱に集めておくそうです(写真9)。
(写真8)インゴット
原料として生まれ変わった欧文活字
メツ活字からつくられた延べ棒。活字の原料となる金属で鉛、錫、アンチモンの合金である。本文サイズの活字に換算すると、インゴット1本で約2,800字分に相当する。
(写真9)メツ活字
摩耗し傷のついた欧文活字
印刷で使用したり、傷がついたりした欧文活字は、木箱に集めておく。ある程度たまったら加熱して溶かし、新しい活字の原料とする。
(写真5)欧文モノタイプさん孔機
さん孔テープに穴を開け、鋳造する活字の情報を入力する機械。できあがったさん孔テープは、欧文モノタイプ鋳植機に付け替えて鋳造・植字に使用する。キーボードの文字の配列は、現代のPCでも一般的に使用されるQWERTY配列が採用されている。
印刷版を作るための道具
活版印刷の工程で、金属活字を拾う作業を採字(さいじ)、文選(ぶんせん)と言います。また、割付けの指定に従い活字、罫などを組んで製版する作業を植字(しょくじ)と言います。こうした作業を通して印刷版を作るための道具も展示されていました(写真10〜12)。
(写真10)版を印刷機に組み付ける道具
版の高さをそろえて固定する
印刷機の鉄枠(チェース)内に版を置く。金属棒(しめがね)で周囲を埋め、ジャッキで突っ張ることで版が固定される。この作業は、版の高さを正確にそろえるために定盤の上で行い、仕上げに版面にあてたならし木を木づちで叩いて整える。
(写真11)版を組む道具
欧文活字を隙間なく組み上げる工夫
欧文活字は各文字の幅が異なる。そのため、各行の組幅を正確に揃えるために工夫をこらす。組幅を正確に測る枠(ステッキ)内に活字を並べ、数ミリ単位で準備されたブロックやプレート(込め物)で余白となる部分を埋めていく。
(写真12)
左:欧文活字のひとそろい
書体名:コロンナ
「フォント」のルーツとなったもの。
同一書体、同一サイズの活字を一通りそろえたもの。「フォント」と呼ばれる。これには、大文字・小文字・数字・記号類などが含まれる。
右:欧文活字のケース
書体名:コロンナ
欧文活字のひとそろいを収納して使いやすくする
欧文活字はケースに移して使う。ケースは用途ごとにいろいろな配列がある。展示資料はダブル・ケースといい、一通りの文字を少しずつそろえたものである。他に大文字中心のアッパー・ケースや小文字中心のロウアー・ケースなどがある。
(写真10)版を印刷機に組み付ける道具
版の高さをそろえて固定する
印刷機の鉄枠(チェース)内に版を置く。金属棒(しめがね)で周囲を埋め、ジャッキで突っ張ることで版が固定される。この作業は、版の高さを正確にそろえるために定盤の上で行い、仕上げに版面にあてたならし木を木づちで叩いて整える。
欧文活字のアーカイブ
印刷博物館では、現在では入手が難しい欧文活字を数多くコレクションしています。今回の展示では、普段見ることができないこれらの活字を一同に集めて展示し、「欧文活字の銀河」になぞらえています(写真13、14)。
(写真13)
(写真14)
(写真13、14)欧文活字のフォントの展示。
これらのコレクションをベースにして、金属活字の歴史を体系的にまとめたアーカイブ資料が作られています(写真15、16)。データベースはタブレットを操作して調べることができます。
(写真15)活字書体で見る活版印刷史。欧文活字の変遷を図解したパネル。
(写真16)印刷工房の欧文書体アーカイブ
印刷博物館の印刷工房が所蔵する欧文活字をデータベース化したもの。印刷工房で印刷した見本刷りをデジタルアーカイブしている。さまざまなキーワードで検索できるようになっており、欧文活字書体を体系的に学ぶことができる。
なお、本展示の図録は小冊子にまとめられ、会場内でアンケートに回答するとプレゼントされるしくみになっています(写真17)。
(写真17)来館してアンケートに回答すると図録がプレゼントされます。図録は無くなり次第終了となります。
また、2024年7月27日、8月3日にはギャラリートークのイベントが催されました。イベントでは、インストラクターの方の解説を聞くことができるほか、参加者特典として今回作成された栞を実際に印刷体験できました。印刷して出来上がった栞が(写真18、19)です。
(写真18)ギャラリートークのイベントで印刷体験して出来上がった栞。
(写真19)栞の裏面には、「コロンナ」の書体見本が刷られていました。
この企画展でたくさん展示されている「コロンナ」の書体は、いまから100年程前にスタンリー・モリソンという人物がデザインしたものです。個性的なデザインの書体で、欧文書体のおもしろさ、奥深さを改めて感じました。
では、次回をお楽しみに!
(写真16)印刷工房の欧文書体アーカイブ
印刷博物館の印刷工房が所蔵する欧文活字をデータベース化したもの。印刷工房で印刷した見本刷りをデジタルアーカイブしている。さまざまなキーワードで検索できるようになっており、欧文活字書体を体系的に学ぶことができる。
印刷博物館
所在地:〒112-8531 東京都文京区水道1丁目3番3号 TOPPAN小石川本社ビル
開館時間:10時〜18時(入場は17時30分まで)
休館日:毎週月曜日(ただし祝日・振替休日の場合は翌日) / 年末年始 / 展示替え期間 ※詳細は展示予定スケジュールをご参照ください。
入場料:一般:400円(350円)
学生:200円(150円)
高校生:100円(50円)
中学生以下および70歳以上の方無料
( )内は20名以上の団体料金