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生田信一(ファーインク)
「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました

「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

今回のコラムは、すみだ北斎美術館で2025年12月11日(木)~2026年2月23日(月・祝)に開催されている「北斎でひもとく!浮世絵版画大百科」展を紹介しながら、葛飾北斎の浮世絵を中心に、江戸期の版画作品の数々を覗いてみようと思います。

江戸期の版画作品の特筆すべき特徴は、多色摺りの印刷技術が発明され、カラフルな印刷物が多数作り出されたことでしょう。色鮮やかな版画作品は歌舞伎の役者絵や美人画、風景画などとして売り出され、江戸を訪れる旅行者にも人気の商品になりました。こうした印刷物は情報を伝えるメディアとしても機能し、暦(こよみ)や、広告宣伝物、子どものおもちゃ絵など、生活を彩るグッズとしても広まっていきました。

では、江戸の人々の生活を思い浮かべながら当時の印刷物の数々を覗いてみましょう。

「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

展示構成および本展の見どころ

すみだ北斎美術館の今回の企画展はボリュームがあり、北斎の浮世絵作品の魅力を改めて伝えるものでした。展示ではさまざまなジャンルの版画作品が取り上げられ、充実した構成になっていました。

展示は順を追って眺めていくと、理解が深まるように構成されています。リーフレットから目次を抜粋して紹介します(写真1)。

【目次】
プロローグ
1章 日本の木版画 その始まり
1-1 人々の祈りを伝えます
1-2 見当の発明 モノクロからフルカラーへ

2章 浮世絵版画をひもとく
2-1 色を分けて摺る 浮世絵版画の作り方
2-2 判型のバリエーション
2-3 浮世絵版画の表現技法 細部に宿る職人技

3章 生活の中に息づく浮世絵版画
3-1 なんでも描く! テーマいろいろ江戸の日常
3-2 こんなものも浮世絵版画です 身近すぎる日常使いの印刷物

4章 時代によって変わる浮世絵版画
4-1 浮世絵版画にみる情報 日本の「今」を伝えます
4-2 浮世絵版画の新たな展開 マスメディアからアートへ。

写真1 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」のリーフレット。定価=350円(税込)

本コラムでは、この目次に沿って展示内容を紹介します。また、展示作品は前期[2025年12月11日(木)〜2026年1月18日(日)]と後期[2026年1月21日(水)〜2026年2月23日(月・祝)]で入れ替えがあります。

写真1 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」のリーフレット。定価=350円(税込)

1章 日本の木版画 その始まり

最初のコーナーは、日本の木版画の歴史をふりかえるところからスタートします。

1-1 人々の祈りを伝えます

日本における木版印刷は、仏教と結び付いて平安時代後期に仏典の製作に多用されました(写真2)。

写真2 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)作者未詳「阿弥陀如来坐像印仏」長治2年(1105) すみだ北斎美術館蔵 楢崎宗重コレクション

写真2 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)作者未詳「阿弥陀如来坐像印仏」長治2年(1105) すみだ北斎美術館蔵 楢崎宗重コレクション

2章 浮世絵版画をひもとく

明和2年(1765)、絵暦(えごよみ)のデザインを競う交換会が流行し、多色摺木版画の技術は飛躍的に向上します。多くの色を重ねた浮世絵版画は、錦の布のように豪華ということから「錦絵(にしきえ)」と呼ばれるようになります。浮世絵版画は、版元・絵師・彫師・摺師の四者が共同で制作したものです。本章では、版を重ねる工程や版の大きさ、彫り・摺りの技法に注目し、その魅力を紹介します。

2-1 色を分けて摺る 浮世絵版画の作り方

今回の企画展の大きな見どころのひとつが、多色摺りの浮世絵版画に使われた版木とそれぞれの色で摺ったものを並べて展示されたことでした(写真3、4)。

写真3 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真3) 摺りのプロセス

写真4 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真4) 歌川国芳「達男気性競 つりかね弥左衛門(だておとこきしょうくらべ つりがねやざえもん)」、嘉永元年(1848)頃  株式会社原書房蔵(通期)

2-2 判型のバリエーション

判型とは、作品の出来上がりのサイズを指します。展示室には大小さまざまな、縦長・横長の作品が並びます。これは、大きな紙を半分、さらに半分と切って使うためです。浮世絵版画は版元が企画・販売した商品であり、紙を無駄にしない工夫が重ねられました。その判型を活かした構図は、絵師の腕の見せどころです。

(写真5)は二丁掛(にちょうがけ)で摺られた作例です。小奉書(サイズ:33cm×47cm)と呼ばれる用紙を半分にして2面付けして摺った2つの作品が繋がったまま残っています。

写真5 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真5)葛飾北斎「あづま与五郎の残雪」「伊達与作せきの小万夕照」 すみだ北斎美術館蔵(後期)

2-3 浮世絵版画の表現技法 細部に宿る職人技

浮世絵版画には、木版画だからこそ可能になった彫りや摺りの技術がみられます。職人たちが腕を競った技の数々が、浮世絵版画の魅力になっています。

(写真6)は、色が徐々に変化するグラデーションをぼかしで表現した作品です。ぼかしの技法にはいくつか種類があり、ここで用いられているのは《拭きぼかし》と呼ばれる技法です。

写真6 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真6)葛飾北斎「雪月花 隅田」 すみだ北斎美術館蔵(前期)

(写真7)の葛飾北斎「新版浮絵浦島龍宮入之図」は、西洋の透視図法(幾何学遠近法)を取り入れ、奥行きと浮遊感を強調した、当時流行した「浮絵(うきえ)=遠近感を強調して描かれた浮世絵」の作品。浦島太郎が龍宮城で乙姫様や魚を擬人化した人々(龍宮城の住人)に出会う場面を描いています。

写真7 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真7)葛飾北斎「新版浮絵浦島竜宮入之図」すみだ北斎美術館蔵(後期)

写真3 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真3) 摺りのプロセス

写真4 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真4) 歌川国芳「達男気性競 つりかね弥左衛門(だておとこきしょうくらべ つりがねやざえもん)」、嘉永元年(1848)頃  株式会社原書房蔵(通期)

写真5 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真5)葛飾北斎「あづま与五郎の残雪」「伊達与作せきの小万夕照」 すみだ北斎美術館蔵(後期)

写真6 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真6)葛飾北斎「雪月花 隅田」 すみだ北斎美術館蔵(前期)

写真7 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真7)葛飾北斎「新版浮絵浦島竜宮入之図」すみだ北斎美術館蔵(後期)

3章 生活の中に息づく浮世絵版画

浮世絵版画は情報を発信するメディアでもありました。江戸の人々の身近に存在していた浮世絵版画は、観賞用以外に、日用品などのさまざまな用途で使われていました。

3-1 なんでも描く! テーマいろいろ江戸の日常

浮世絵は「浮世」=現世を描いた絵です。庶民の身の回りにある、ありとあらゆるものが画題となっています。江戸っ子たちの娯楽であった歌舞伎、推しの役者の顔を大きく描いた大首絵や、地方から来た旅人たちが土産に持ち帰る名所絵など画題は尽きません。

(写真8)は葛飾北斎による「覗機関(のぞきからくり)」を描いたものです。「覗機関」は、江戸時代から明治にかけて流行した見世物の一種で、大きな箱のレンズを通して中の絵が次々に変わる仕掛けで物語等を見せるしかけになっています。

写真8 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真8)葛飾北斎「覗機関」 すみだ北斎美術館蔵(通期) ※半期で同タイトルの作品に展示変えをします

3-2 こんなものも浮世絵版画です 身近すぎる日常使いの印刷物

木版画は印刷技術のひとつであり、庶民が使う日用品も浮世絵師が絵を描き、木版画で作られました。団扇や商品の宣伝チラシ、お菓子の袋なども浮世絵版画で作られています。玩具や、著名人の訃報を知らせる作品などもあります。

(写真9)の「東叡山御用 御膳海苔所」は、葛飾北斎と柳亭種彦が共同して制作した宣伝用チラシ(=引札(ひきふだ)です。

写真9 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真9)葛飾北斎「東叡山御用 御膳海苔所」 すみだ北斎美術館蔵(前期)

コラム 作ってみた 江戸のペーパークラフト

3章展示の最後のコーナーでは、江戸のペーパークラフトとも言える組上絵(くみあげえ)と、実際に組み立てた模型が展示されました。この組上絵を組み立てると、公衆浴場の「湯屋」になります(写真10)。

写真10 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真10)葛飾北斎「しん板くミあけとうろふ ゆやしんミせのづ」完成模型

写真8 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真8)葛飾北斎「覗機関」 すみだ北斎美術館蔵(通期) ※半期で同タイトルの作品に展示変えをします

写真9 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真9)葛飾北斎「東叡山御用 御膳海苔所」 すみだ北斎美術館蔵(前期)

写真10 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真10)葛飾北斎「しん板くミあけとうろふ ゆやしんミせのづ」完成模型

4章 時代によって変わる浮世絵版画

庶民に向けて様々な情報を発信してきた浮世絵版画は、明治時代に入り近代化とともに、その役割を新しいメディアである写真や新聞へと徐々に譲り渡します。一方で、失われていく江戸の面影や廃れていく木版画技術を惜しむ声もあり、江戸回顧の気運が高まりました。

4-1 浮世絵版画にみる情報 日本の「今」を伝えます

明治時代に入り、新しい文物や価値観が流れ込んできます。浮世絵版画にも変わりゆく町並みや時代を捉えた作品が登場します。

報道の役割も果たしていた浮世絵版画は、事実をありのままに写すことや速報性という面で、写真や新聞にとって代わられます。一方で、写真では表現できないような味わいを活かした木版画の表現技法が登場し、浮世絵版画の新時代が幕を開けます(写真11)。

写真11 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真11)豊原国周「開花人情鏡 写真」明治11年(1878)すみだ北斎美術館蔵(前期)

4-2 浮世絵版画の新たな展開 マスメディアからアートへ

報道の役割も果たしていた浮世絵版画は、事実をありのままに写すことや速報性という面で、写真や新聞にとって代わられます。一方で、写真では表現できないような味わいを活かした木版画の表現技法が登場し、浮世絵版画の新時代が幕を開けます。

2025年はNHK大河ドラマの影響もあり、江戸期の浮世絵や出版文化をテーマにした展覧会が数多く催されました。ドラマの中でも書籍や浮世絵の製作シーンがふんだんに盛り込まれ、江戸期に出版文化を担った版元や絵師、彫師、摺師などの活躍をリアルに感じることができました。

時代が進み、印刷工程の多くが機械化されていますが、印刷物を作る根本のところの仕組みや原理は変わっていないということを改めて感じました。

では、次回をお楽しみに!

(構成・テキスト:ファーインク 生田信一 参考:すみだ北斎美術館「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展リリース)

写真11 | 「北斎でひもとく! 浮世絵版画大百科」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真11)豊原国周「開花人情鏡 写真」明治11年(1878)すみだ北斎美術館蔵(前期)

【展覧会概要】

展覧会名 「北斎でひもとく!浮世絵版画大百科」
会期 2025年12月11日(木)~2026年2月23日(月・祝)
   ※前後期で一部展示替えを実施
   前期:12月11日(木)~2026年1月18日(日)
   後期:2026年1月21日(水)~2月23日(月・祝)休館日 毎週月曜日
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日 毎週月曜日
    (月曜が祝日または振替休日の場合はその翌平日)
    開館:2026年1月3日(土)、1月12日(月・祝)、2月23日(月・祝)
    休館:2025年12月29日(月)~ 2026年1月2日(金)、1月13日(火)
    ※ただし2026年1月20日(火)は展示替えのため当企画展は休室。
観覧料 一般 1000円、高校生・大学生 700円、65歳以上 700円、
    中学生 300円、障がい者 300円、小学生以下無料
会場 すみだ北斎美術館 3 階企画展示室
   〒130-0014 東京都墨田区亀沢 2-7-2
ホームページ https://hokusai-museum.jp/encyclopedia/