生田信一(ファーインク)
「Paper Parade Lab. 02 COLOR」展に行ってきました
前回に引き続き、平和紙業 ペーパーボイス東京で行われた展示会の様子をお伝えします。今回ご紹介する展示は2019年11月7日 ―11月22日に開催された「Paper Parade Lab. 02 COLOR」展です。Paper Parade Printingのお二人、守田篤史さん、和田由里子さんが、「紙の色」をテーマに実験的なプロダクトの製作やグラフィック表現の可能性を追求し、出来上がった作品の数々を展示しました。展示は、実験の結果や制作プロセスを報告する構成になっており、多くの示唆をいただきました。
では会場にご案内しましょう。
Paper Parade Printingの取り組み
まずは、Paper Parade Printingと紙活字について少しご紹介しましょう。Paper Parade Printingは、紙製の活版印刷用紙活字を開発し、さまざまな印刷・グラフィック表現の可能性を追求してきました。「紙活字」は、活字そのものが紙であるため、さまざまな加工や印刷表現が可能になります(写真1、2)。紙活字の印刷方法は本サイトのコラム「紙活字で印刷してみよう」を参照してください。
Paper Parade Printingの展示は今回が2回目です。前回は、2018年10月18日〜 11月5日「Paper Parade Lab. 01 PATTERN」展でした。この展示では、ファンシーペーパーの柄(PATTERN)に注目し、エンボス柄が特徴的な紙である「かぐや」を使って、柄の可能性を拡張していく実験を行いました(写真3、4)。
1回目と2回目の展示がわかる冊子が販売されています。この冊子は、平和紙業 ペーパーボイス東京で購入することができます(写真5)。
紙の色を生かしたグラフィック表現にトライ
今回の「Paper Parade Lab. 02 COLOR」では、ファンシーペーパーの 3要素である色・柄・風合いの中から紙の持つ色(COLOR)に注目しました。展示作品は、紙そのものの色を生かした作品が中心の構成です。Paper Parade Printing独自の視点でさまざまな表現を追求した試作品の数々は、加工やプリントの新しい試みがふんだんに盛り込まれ、いったいどのような方法で作ったのだろうと思わせる作品ばかりでした。
(写真6)は、会場入り口に掲示されたポスターです。メッセージは以下の通りです。
「Paper Parade Lab. 02では紙の持つ色(COOR)に注目し、紙を貼り合わせた積層の表情を観察することから始めました。積層した紙を切削し、表面を研磨してできる紙本来の色彩に着目。紙加工と木工の2つの領域を横断しながら拡張していきます。紙の色とは何かという考察からはじまり、さまざまな実験を経て、グラフィックの表現に拡張されていく過程の展示です。 ──Paper Parade」
ではさっそく会場をのぞいてみましょう。
ギャラリーに入ってすぐ目を奪われたのが「Paper Pebbles」(紙の小石)です(写真7〜10)。この石のようなオブジェクトが紙で作られているというのですから驚きです。
どのようにして作られたのか興味津々で、解説の冊子が販売されていたので早速購入しました。これを読むと、作り方がおぼろげにわかってきました。展示された作品は、紙を積層させた合紙(ごうし)が元になっています。合紙は、紙の色や種類、枚数(束)により多様な表情が生まれます。「Paper Pebbles」(紙の小石)に現れた地層のような縞模様は、紙の断面なのです。
素材となる紙を重ね、合紙加工により一枚一枚を製本用の糊で貼り合わせて厚み(束)を出しています。最初はブロック状の塊(かたまり)なのですが、これを木工用の工具を使って削り、形を整え、研磨して仕上げているというのです。紙って、こんな美しい表情を見せるんだ、と驚きました。
使われた用紙には色上質紙が選ばれています。紙の原料は木材の繊維ですから、合紙で固めることで本来の木の姿に戻ったということもできるかもしれません。小石の断層に現れるカラフルな色は、紙を染める時の染料の色ということになります。
紙の種類の選定と配色、削り方の検討
ギャラリーの展示では、どのような実験を繰り返して作品が作られていったのかを順を追って丁寧に解説されていました。まずは、紙の種類の選定と、色の組み合わせの過程が紹介されていました(写真11〜14)。
合紙加工されたタイルを木工用の工具で削る実験を行いました。削り方の違いで、さまざまな表現が可能になることが示されています(写真15〜19)。
平面加工の検証で、研磨することで有機的な表情が生じることを発見し、この表情が出現する理由を考察しました。すると、タイルの反りや乾燥による縮みや膨張、プレス圧の不均等によって生じた積層のブレが表面研磨した時の表情に大きく影響することを発見しました。
そこで、積層のブレによる複雑な表情を作為的に出現させるため、合紙を工夫することで作為的にエラーを引き起こし、どのような効果が生じるかを検証しました(写真20)。
会期中に催されたトークショーでは、製造方法や紙を削る時のエピソードなどが披露されました。「紙の目」をどの方向で重ねるかで、削りやすさが変わってくるそうです。また、合紙の際に紙目を交互に重ねることで削る作業が安定したそうです。合紙は糊で貼り合わせますから、水分の乾燥時間にもご苦労があったようです。
グラフィックデザインの視点を取り入れる
では、グラフィックデザインの視点を取り入れた試みを見ていきましょう。
電動工具で削ることで、色に形やテキスチャを与えることができます。削っていくと下の紙色が現れますから、どのように形を表現するのかを考えながら削る作業になります。この作業は分担して行われ、和田さんが配色を考え、守田さんが電動工具で削る役割を受け持たれたそうです。
合紙したものをクランプで締めつけるときの補助材を平滑なものから凹凸のある材料に変化することで、意図した形状を生み出す実験を行いました。この実験により、デザインを版に起こし、型押しプレスをした後、研磨することで、積層のブレによって現れる図形をコントロールできるようになりました(写真21)。
表現面積を大きくする課題に取り組んだものが(写真22)の作品です。「継ぎや接ぎは木と木を接合する技術です。今回の実験で生まれた紙のタイルを組み合わせて複雑な色の組み合わせができたり表面積を増やしたりし、建材への可能性を見つけました」と和田さんは語ります。
最後に、印刷加工を施し、表現への応用を模索した作品を紹介しましょう(写真23〜26)。
グラフィックへと応用するために、タイルに箔を押したり、UVインクジェットプリンターで印刷したりして、新たな表現を試みました。
最後に、今回の展示のために特別に作られたカードを紹介します(写真27、28)。このカードは、実際に色紙を重ねた合紙でできており、角を切削加工して紙色が現れています。合紙の断面がカラフルな配色のアクセントになっています。
届いたカードには「グラフィックとプロダクトと素材の中間にTRYしました」と記されていました。なるほど、カラフルな紙を幾層にも重ね、これを工具で削り、研磨することで美しい紙の断面が現れることが、展示を通じて実感できました。シンプルで大胆なアプローチでありながら、出来上がったものはとても美しいです。
Paper Parade Printingのお二人、守田篤史さん、和田由里子さんの活躍ぶりを拝見すると、ジャンルにとらわれないさまざまな分野にチャレンジされています。出来上がったものには毎回驚くような創意や工夫が満ちています。今回の「Paper Parade Lab. 02 COLOR」の展示を見て、今後の活動の領域がますます広がっていくのではないかと強く感じました。お二人の活躍に今後も注目していきたいと思います。
では、次回をお楽しみに!
Paper Parade Printing
アートディレクターと並行しプリンティングディレクターとしても活動する守田篤史。アーティストとタイプデザイナーとして活動する和田由里子。2017年に印刷や紙加工に新しい価値をつくり出すユニット「Paper Parade」を設立。YouFab 2015審査員特別賞、日本タイポグラフィ年鑑2018ベストワーク賞など受賞多数。
ホームページ:http://paperparade.tokyo
Facebook:https://www.facebook.com/paperparadeprinting/