平和紙業株式会社
紙に歴史あり 「新利休」
商品名に「新」が付く中でも、異色の紙が「新利休」です。
そもそも「新」が付く以上、そのもとになるものがあったはずですが、「利休」という紙があった訳でもありません。
更に「利休」と言えば、一般的に千利休を指しますから、千利休が新しくなったとは、とても思えません。
強いて言うなら、利休好みのもののことを指すのでしょうか。
例えば、利休色と言えば、侘び寂びの雰囲気を持つ色の事で、利休鼠という色も存在します。
しかし、「新利休」とは一体…。
「新利休」は、1986年に誕生します。色の着いた紙に、古紙を細かく粉砕した紙片を散りばめ、レイド模様を施した紙です。
発売当初の見本帳のキャッチコピーには、「眺めているとアバンギャルド」と、分かるような、分からないような、文字が並んでいます(写真1、写真2)。
発売当初は6色の色展開で、厚みは80㎏と、120㎏の2連量。合計12アイテムの商品でした。
この「新利休」の開発当時、もともとは茶室の壁をイメージしていたため、レイド柄の無い紙を想定していましたが、当時の開発担当者が、レイドを入れて、新しい雰囲気に仕上げたいと思いついたそうです。
日本家屋などでは、壁を塗った後、櫛目を入れる“櫛引き仕上げ”とか“櫛目引き”という技法があります(写真3)。
ひょっとしたら、この雰囲気を紙に持たせたかったのかもしれません。
しかし、紙を作る機械には柄を入れるような装置は無く、製造メーカーの担当者が苦慮していた時、開発担当者は、紙の地合いを整える装置に、針金を巻き付け、この柄を作り出したと、嘘か本当か分からないエピソードが残されています。
もし本当だとすると、当時は相当無茶なことが許された時代だったのでしょう。今なら間違いなく止められます。
さて、「新利休」は、和風でありながら、これまでに無かった独特の風情があり、書籍の表紙や見返し、貼箱などをはじめ、多くの方々にご利用いただくことになります。
その後、新色3色を追加します。新色3色と既存色2色の計5色に60㎏の厚みを増やし。
合計23アイテムの商品となり、より使い勝手の良い銘柄構成になりました(写真4)。
1998年には、古紙100%の商品に規格を変え、エコマーク認証紙として、商品名も「新利休100」となります。
環境配慮型商品としての側面も持ち、時代を反映させた紙として、新たな需要を求めることになったのです。
ところが、毎度登場する古紙乖離問題が2008年に起こります。この紙も御多分に漏れず、100%古紙を利用しているはずが、実際には配合されておらず、止む無く、商品名をもとの「新利休」に戻します。その後、古紙配合率は20%として再出発することになりました。
和風の紙は、レトロな雰囲気の紙として、次第に時代の波に飲み込まれていきます。
今にも忘れ去られようとしている中、起死回生を目指して、2019年に、60㎏、80㎏、120㎏のそれぞれ3色を廃色とし、生き残りをはかります。
現在の「新利休」は、60㎏2色、80㎏、120㎏が6色の合計14アイテムとなりました。
時代の流れの中で生き残ったこの規格で、再度大海原に船出しようとしているのです。
思い返せば。発売当初「眺めているとアバンギャルド」のコピーが示すように、何か前衛的な雰囲気を感じさせたこの紙に、いつの間にか時代が追い付き、前衛的ではなく、保守的な紙になってしまったのかもしれません。
とは言え、何故か懐かしいと思わせる、不思議な魅力を持った紙であることに変わりはありません。「アバンギャルド」と言いながらも、見本帳には、「懐かしい、新しい紙です。お洒落でしょう」とも書かれています(写真5)。
前衛的だけども懐かしい、懐かしいけど新しい。「新利休」の魅力はここにあるのかもしれません。
千利休が好むような渋い雰囲気の色と風合いが、侘び寂びの向こうにある、時の流れを遡り、来し方、行く末を思い、心に触れる何かを感じさせる。
千利休の思いを新しく解釈した紙こそ、「新利休」なのではないでしょうか。
「新利休」まだまだ現役です。
新利休の詳細はこちら
http://www.heiwapaper.co.jp/products/details/0700260.html