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生田信一(ファーインク)
「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」

「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

筆者の手元に、「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」があります。今回のコラムは、この2つのグッズを取り上げながら、欧文書体について考えてみたいと思います。

「フォントかるた(欧文版)」は、遊びながら欧文書体を学ぶことができるユニークな製品です。バイリンガル仕様なので、英語の学習にも役立ちます。

一方、カレンダーの文字は、数字とアルファベットだけで組まれるので、実は、欧文書体と相性が良いのです。これらのグッズを通して、欧文書体について掘り下げてみたいと思います。

では、お楽しみください。

「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

「フォントかるた(欧文版)」で遊びながら学ぶ

今回のコラムは趣向を変えて、欧文書体に触れてみようと思います。筆者自身はそれほど欧文書体に精通しているわけではなく、むしろ苦手な分野です。かねてから欧文書体については、じっくり学んでみたいと思っていました。

そんな折り、2022年10月に「フォントかるた(欧文版)」が発売されました。かるた形式で遊べることが魅力なのはもちろんですが、読み札が和文と欧文があるということで強く興味を持ちました。これなら欧文書体について知識を深めながら、ひょっとして英語の学習もできるのではないかと…。

早速購入し、一通りの読み札、絵札を眺めてみたのですが、実によくできていることに驚かされました。フォントかるた制作チームのお仕事に敬意を表します。

「フォントかるた(欧文版)」の蓋を開けると、読み札と絵札がセットになっています(写真1)。読み札の和文と欧文は表裏に印刷されています。取り札の裏側には書体名が記されているので、札を取った後に正解かどうかを確認できます。

(写真1) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)「フォントかるた(欧文版)」。読み札と取り札がセットになっています。

「フォントかるた(欧文版)」では48種類の書体が選ばれています。MacやWindowsのOSで利用できるものが多く含まれていますので、まずは基本書体として各書体の名前や特徴を覚えていくのがよさそうです。フォントの制作会社の名前も併記されています。

一例を紹介しましょう。たとえば、代表的なフォントの「Helvetica(ヘルベチカ)」。普段見慣れているフォントですが、いざ特徴を説明しようとすると、なかなか難しいですね。Helveticaには、似たフォントに「Arial(エイリアル)」があります。「Arial」の読み札には、「元々はHelveticaの代替として作られたサンセリフ書体」との解説があり、見分けが付きにくいのです。難易度の高い部類のひとつかもしれません。

読み札では、「Arial」の特徴は、『「G」の終わりが飛び出ていないことや、「Q」のテールが曲線になっているのが特徴』と解説されています。ヒントになる「G」や「Q」の文字は絵札で示されていますから、これらを手がかりに見分けることができます(写真2)。

鍵になる文字は、「R・Q・K・M・&・E・J・3・G」の9種類が選ばれています。これらの文字はフォントの特徴を見分けるときのキーになる文字です。読み札の解説文では、この9種類の文字を見ながら書体の特徴がわかるようになっています。遊びながら書体の特徴が学べる教材として、よく考えられていると思います。

(写真2) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)「Helvetica(ヘルベチカ)」と「Arial(エイリアル)」の読み札と取り札。

もちろんパッと見ただけで特徴が掴みやすいインパクトのある書体も多く含まれ、バラエティに富んでいます。自分のお気に入りのフォントであれば見分けがつきやすいでしょう。

また、「フォントかるた(欧文版)」の取り札の下部には「Listen, look, imagine!」(筆者注:「聴いて、見て、想像してみてください!」の意味)の文字が取り札の書体で組まれている点も注目です。文字を組んだ時のイメージを見ることができることも、楽しみ方のひとつです。(写真3)は、「ITC Bauhaus」と「ITC Avant Garde Gothic」の読み札と取り札です。

(写真3) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真3)「ITC Bauhaus」と「ITC Avant Garde Gothic」の読み札と取り札。取り札の下部には「Listen, look, imagine!」の文字が取り札の書体で組まれています。

「フォントかるた(欧文版)」はバイリンガル仕様になっています。読み札の裏面の欧文による解説のテキストは、ネイティブの方でも遊べるよう、細かい配慮が施されています(写真4)。声に出して読んでいただくと、その良さを感じていただけるではないかと思います。英文で〝かるた〟を読むのは新しい体験で新鮮でした。是非トライしてみてください。

なお、「フォントかるた」は和文版が既に発売されています。まずは和文版で試してみるのもお勧めです。 →フォントかるた 基本パック 48書体

(写真4) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真4)「ITC Bauhaus」と「ITC Avant Garde Gothic」の英文の読み札。

(写真1) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)「フォントかるた(欧文版)」。読み札と取り札がセットになっています。

(写真2) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)「Helvetica(ヘルベチカ)」と「Arial(エイリアル)」の読み札と取り札。

(写真3) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真3)「ITC Bauhaus」と「ITC Avant Garde Gothic」の読み札と取り札。取り札の下部には「Listen, look, imagine!」の文字が取り札の書体で組まれています。

(写真4) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真4)「ITC Bauhaus」と「ITC Avant Garde Gothic」の英文の読み札。

「活版印刷カレンダー」で日々、欧文書体に親しむ

2022年の暮れに、「2023年度活版印刷カレンダー」が発売されました。このカレンダーの魅力は、厳選された欧文書体でデザインされた紙面と、活版印刷の独特な風合いを味わえることです。2023年度版では用紙に「マーメイド」が使われ、月ごとに色が変わります。配色は光と植物と水をテーマに、黄と緑と青のグラデーションで構成されています。美しい仕上がりで、見飽きません(写真5)。

(写真5) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真5)「活版印刷カレンダー」。12色のカラーを広げた様子。

スタンドを組み立てると(写真6)のようになります。スタンドの厚紙は、合紙加工、Vカットによる加工が施され、組み立てやすくなっています。デスクトップに似合いますね。

(写真6) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真6)スタンドを組み立てたところ。

このカレンダーの魅力は、毎日眺めるカレンダーの文字を、毎月異なる書体で眺めることができることでしょう。紙の色はグラデーションで展開され、各月の季節感を演出しています。仕様(スペック)の例を挙げると、1月の用紙はマーメイド 黄色 178gsm、Printing Pressure Cappan Printing With Hravy Impression(印刷はヘビープレス)、書体はBaskerville Originated by John Baskervilleのクレジットがあります(写真7)。

(写真7) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真7)1月のカレンダー紙面。

紙色と書体の違いでずいぶん印象が変わります。色の変化は春から夏へ、秋から冬への季節の変化を表しています。書体はセリフ体が7種、サンセリフ体が5種が選ばれ、月毎に変化します。

12ヶ月の選ばれた書体は以下の通り。

Jan. Baskerville
Feb. Caslon
Mar. Didot
Apr. Futura
May Garamond.
Jun. Gill Sans
Jul. Helvetica
Aug. Jenson
Sep. Optima
Oct. Rotis Semi Serif
Nov. Times New Roman
Dec. Univers

(写真5) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真5)「活版印刷カレンダー」。12色のカラーを広げた様子。

(写真6) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真6)スタンドを組み立てたところ。

(写真7) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真7)1月のカレンダー紙面。

欧文書体を知りたい人にお勧めの書籍

「フォントかるた」や「活版印刷カレンダー」でさまざまな欧文書体に触れるうちに、それらの書体が生まれた時代背景を知りたくなりました。しかしながら、欧文書体は膨大な数がありますから、それらを整理・分類するのは大変です。

欧文書体の歴史を俯瞰して眺めたい時に重宝するのが、小林章さんの著書『欧文書体』(美術出版社、2005年)です(写真8)。この本では、さまざまな軸で書体を分類し、書体の見本も豊富に紹介されています。

この本の使い方はさまざまです。たとえば、第3章「欧文書体の選び方」、3-1「時代を軸に選ぶ書体」では、時代にふさわしい書体を選ぶ際の事例や考え方がわかるようになっています。たとえば映画のシーンの中で文字が現れる場合は、文字がその時代に合っているかどうかを考証する必要があります。映画やドラマの演出においても文字は欠かせない小道具のひとつであるということです。

同書の3-2「お国柄を軸に書体を選ぶ」の項目では、「イギリスらしさを感じる書体は」「ドイツらしさを感じる書体は」といった具合に、お国柄別に整理されています。イタリアンレストランであれば、どんな書体がふさわしいかを検討することができます。ただし、選ぶ書体はその国で作られたという意味ではなく、その国らしさを表現するのにしっくりくる書体は何か、という視点を持つことも重要であると述べられています。ドイツで生まれた書体でフランス語を組むといった事例も実際には多いとのこと。

同書の3-3「雰囲気を軸に選ぶ書体」では、雰囲気が異なるホテルを例に書体を選んでいます。たとえば、「贅沢、優雅」がキーワードの高級感のあるホテル、「小粋」がキーワードのプチホテル、「落ち着き、心地よさ」がキーワードのチェーン系ホテル、「デザイン」がキーワードの近代的なデザイナーホテル、といった具合にコンセプトを分けて、それらに似合う書体を選んでいます。

(写真8) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真8)書籍「欧文書体」小林章 著、美術出版社、2005年。

異色な参考書としては、欧文書体が漫画のキャラクターになって、書体の歴史や特徴を教えてくれるコミックがあります。『となりのヘルベチカ』(芦谷國一 著・イラスト)は、漫画形式で欧文書体の世界を細かく解説しています(写真9)。筆者はこの本を刊行時に購入したのですが、改めて読み直してみたところ、各書体の特徴やエポックがわかり、楽しく学ぶことができました。監修にあたった山本政幸さんのテキストが簡潔で読みやすく、要点が整理されている点も役立ちました。

(写真9) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真9)「となりのヘルベチカ」芦谷國一 著・イラスト、山本政幸 監修、フィルムアート社、2019年。

さらに踏み込んで欧文書体を学んでみたいと考えている方へは、『図解で知る欧文フォント100』(スティーブン・コールズ著、BNN)があります。この本は、100種類の書体を取り上げ、フォントの細部を拡大して示し、その特徴を図解でわかりやすく解説している点が特徴です。書体の分類を細かく15種類に分けて解説していたり、欧文文字の構造や名称も整理して解説しているので、初学者にとってもわかりやすい構成になっています。

(写真8) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真8)書籍「欧文書体」小林章 著、美術出版社、2005年。

(写真9) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真9)「となりのヘルベチカ」芦谷國一 著・イラスト、山本政幸 監修、フィルムアート社、2019年。

欧文書体を分類すると…

欧文書体は大別すると、セリフ(和文の明朝体のウロコに相当するパーツ)を持つ「セリフ体」と、セリフを持たない「サンセリフ体」に分かれます。これは、和文書体の「明朝体」と「ゴシック体」の違いとも言えます。

書体の形状や特徴で分類する分け方をいくつか探ってみたのですが、著者によって分類方法が異なるようです。以下では、Wikipedeaに記載された分類方法で整理を試みてみます。

セリフ体

セリフの形状は(写真10)のように分類できます。

(写真10) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真10)セリフの形状で分類。 図版:Wikipedeaより引用

代表的なセリフ体は以下の分類方法があります。

● オールド・フェイス
セリフ部分の造形が三角形(ブラケット)になっている、伝統的なセリフ体。縦線と横線の太さの違いがない、あるいは僅かな差しかない。
(例)Garamond (ギャラモン、ガラモンド)、Palatino (パラティーノ)、Caslon (キャスロン、カスロン)、Century Oldstyle (センチュリー・オールドスタイル) など

● モダン・フェイス
セリフ部分の造形が細い直線(ヘアライン)になっており、縦線は横線より明らかに太い。近代的なセリフ体。
(例)Bodoni (ボドニ)、Didot(ディドー) など

● トランジショナル
オールド・フェイスとモダン・フェイスの中間的な造形の書体。
(例)Baskerville (バスカヴィル)、Times New Roman (タイムズ・ニュー・ローマン)、Century (センチュリー) など

● スラブセリフ
縦線と横線の太さは同じかほぼ同じであり、セリフが直線でありなおかつストロークと同じ太さである書体。エジプシャンとも。
(例)Egyptienne (エジプシャン)、Clarendon (クラレンドン)、Rockwell (ロックウェル) など

サンセリフ体

代表的なサンセリフ体は以下の分類方法があります。

● グロテスク・サンセリフ
最初期(19世紀~20世紀初頭)のグロテスク体のデザイン。
(例)Akzidenz-Grotesk(英語版)(アクチデンツ・グロテスク)、Franklin Gothic(フランクリン・ゴシック)、Din(ディン) など

● リアリスト・サンセリフ
20世紀半ばに国際タイポグラフィー様式が創始された際にグロテスク体をもとに製作された。ネオ・グロテスク体(Neo-grotesque Sans-Serif)あるいはトランジショナル体(Transitional Sans-Serif)ともいう。
(例)Helvetica(ヘルベチカ)、Univers(ユニバース)、Arial(エイリアル、アリアル) など

● ヒューマニスト・サンセリフ
旧来のローマン体の骨格を残した、人間味のあるサンセリフ体を指す。20世紀に入り製作された。ヒューマニスティック・サンセリフ(Humanistic Sans-Serif)ともいう。
(例)Gill Sans(ギル・サン)、Optima(オプティマ)、Frutiger(フルティガー)、Myriad(ミリアド) など

● ジオメトリック・サンセリフ
1920年代のドイツで創始された、直線や円弧など、幾何学的な図形により骨格が形成されているサンセリフ体を指す。例えば以下のような書体がある。
(例)Futura(フーツラ)、Avenir(アベニール)、Kabel(カーベル) など

ここまで分類を進めた段階で、書体見本を作成してみました。セリフ体とサンセリフ体でそれぞれ4種類、計8種類の分類です(写真11)。

(写真11) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真11)セリフ体、サンセリフ体の分類を一覧にしてみました。

 

今回のコラムは、欧文書体を理解するための手がかりとして「フォントかるた」と「活版印刷カレンダー」を取り上げました。欧文書体においても、その書体が生まれた背景や歴史を知っておくことは大切ですね。いかがでしたでしょうか。

では、次回をお楽しみに!

(写真10) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真10)セリフの形状で分類。 図版:Wikipedeaより引用

(写真11) | 「フォントかるた(欧文版)」と「活版印刷カレンダー」 - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真11)セリフ体、サンセリフ体の分類を一覧にしてみました。