生田信一(ファーインク)
大和板紙 東京営業所 ショールームが開設されました
「板紙」ってご存知ですか? 板紙は、紙箱や紙容器、本の表紙などに使われる厚くて丈夫な紙です。生活に身近な紙であり、食品パッケージであれば、食品をしっかり保護してくれます。書籍であれば、表紙に利用することで、並製本の柔らかい本体部分を包んで本の強度を高めてくれます。目立たないけれど、なくてはならない紙なのです。
今回のコラムは、大阪に本社、工場を持つ大和板紙さんが、4月に東京、神田鍛冶町に営業所をオープン、ショールームが設置されたとのニュースを聞き、早速伺って見学させていただきました。板紙の使用例や用紙サンプルをじっくり見て、強度や質感などを触って確かめることができるようになったことは、デザイナーにとってもうれしいニュースです。JR山手線神田駅から近く、とても便利な立地です。紙選びに迷った時は訪れてみることをお勧めします。
では、さっそくショールームを覗いてみましょう。
見応えのある充実したショールーム
ショールームを案内いただいたのは、大和板紙株式会社 営業部の寺村卓さん、福山恵美子さん。いただいた名刺を拝見すると、用紙には自社の板紙が使われています(写真1)。それぞれ白板紙とチップボール(新聞古紙・雑誌古紙を主体としたネズミ色した積層紙)で、商品の特徴をよく表しています。印刷も鮮明に再現され申し分ありません。
ショールームには、パッケージや書籍、カレンダーなどの紙製品が分野別に展示されていました(写真2、3)。
板紙は種類が豊富で、白板紙、色ボール、チップボールなどがあります。ショールーム近くの通路には、壁面に板紙のサンプルが見やすく並べられ壮観でした(写真4)。(写真5)は紙選びに欠かせない見本帳の数々。手元に一冊持っておきたいです。
デザイナーの方がショールームを訪れたい場合は、事前にお電話をいただければ、いつでも対応可能とのことです。
また、新しい取り組みの一環で、「工場見学in東京」の企画がスタートするそうです。この取り組みは、本来大阪の工場を直接見て頂いての工場見学を東京営業所で行うというものです。大阪の工場とライブ中継で繋ぎ、リアルタイムで工場の様子を見て頂けます。紙作りの様子や普段見えないところまで入り込んで、紙作りのリアル感を体験して頂く取り組みです。紙にご興味のある方はぜひともご参加下さい。
「工場見学in東京」
日時:2019年6月12日(水) 10:00〜12:00 、 14:00〜16:00
2019年6月26日(水) 10:00〜12:00 、 14:00〜16:00
場所:大和板紙株式会社 東京営業所
東京都千代田区神田鍛冶町3-7 神田カドウチ4階
TEL・03-6811-6950 FAX・03-6811-6951
パッケージ分野の板紙の使用例
では、ショールームに展示された印刷サンプルの中から、さまざまな形に展開されたパッケージの使用例を見ていきましょう。
最初に紹介するのは、パンドサンジュ様からご依頼いただいた「とびばこパン」という食パンのパッケージです(写真6)。パンドサンジュのサイトを拝見すると、食パンの形が跳び箱そのもの。パンを横にスライスすると、形も個々に変わるので、食卓が楽しくなります。「とびばこパン」にふさわしいパッケージの素材として大和板紙が採用されたとのことです。
神戸 三宮のケーキ屋さんChatrois (シャトロワ)の「ショコラ・ド・ティラミス」のパッーケージは、猫のシルエットが特徴で人目を引きます(写真7)。おみやげに最適で、インスタ映えしそうなかわいいパッケージです。
(写真8)は「無印良品のカレー。」のパッケージです。板紙は銘柄「エースボール」が使用されています。ナチュラルな風合いの板紙ですが、シンプルにデザインされた「のし紙」を巻くことで特別感を演出しています。
STARBUCKS(スターバックス)コーヒーのパッケージでは、大和板紙の「ピュアーボード」や「エースボール」が使われています(写真9)。「ピュアーボード」は、薄茶色をベースに樹皮の微細な繊維と植物性のアクセント材で風合いを表現しています。
(写真10)は、宇治抹茶にとことんこだわる祇園辻利の抹茶スイーツ、和のゴーフレット『つじりの月』のパッケージです。夜空をイメージした京紫色のパッケージで、銀色にきらめく薄雲がかかった京紫の夜空に、だんだんと満ちていく月の様子が描かれています。板紙は「レモンボール」を使用。「レモンボール」は、裏は白色、表はレモン風の薄い黄色に仕上げられています。パッケージは月の丸い形で型抜き加工が施され、穴を通して「レモンボール」の黄色が表れる仕組みです。
(写真11)の日本酒の瓶とお菓子のパッケージでは「Uボードホワイト」、「カッパーレッド」の板紙が使われています。「Uボードホワイト」は淡い濃淡のあるベージュ系ホワイト。「カッパーレッド」は表層を深みのある濃い赤色に染色、裏面は古紙の風合いを残しうす茶色に仕上げられています。
出版分野の板紙の使用例
続いて、出版分野の板紙の使用例を見ていきましょう。出版物では本の表紙に板紙を利用した使用例を多くみることができます。
大和板紙が提供している見本帳に、「美しい本の為の装丁用。」があります(写真12)。この見本帳には、表紙に最適な板紙が厳選して収められています。CMYKのプロセスインキに加え、ホワイトで刷った印刷再現を確認することもできます。
並製本の書籍はソフトカバーとも呼ばれ、カバーをはずすと表紙が表れます。表紙の紙は、板紙などの丈夫な紙を使用するのが一般的ですが、表紙はカバーに隠れてしまうため1色刷りで処理されることが多いようです。そのため表紙の紙質がそのまま本の顔になり、重要な役割を果たします。
大和板紙のショールームでは、最近刊行された本の実物をたくさん見ることができて、とても参考になります(写真13〜17参照)。
さまざまな分野で利用される板紙
書店で販売される書籍以外の刊行物でも、板紙を利用した刊行物を見ることができました(写真18)。
また、卓上カレンダーなどの紙製品に板紙を使用したものも多数展示されていました。販促物や記念品などのグッズを企画する際には板紙を利用することを考えてみると、アイデアが広がるかもしれませんね(写真19〜21)。
ショールームで驚いたのは、板紙を利用して作られたカタログスタンドの什器です(写真22)。この什器を開発したのは丸一興行株式会社 ボルダ事業部、硬質紙ボードでディスプレイ全般を作る事業部です。板紙は軽くて丈夫であるため持ち運びに便利で、展示会の会場に搬入後、現地で組み立てて使用できるそうです。
板紙と活版印刷
板紙と活版印刷の表現について確かめたい場合は、以下の見本帳が役に立ちます。
活版印刷研究所では、大和板紙の用紙、30銘柄を使用した「活版印刷見本帳」を販売しています。この見本帳には板紙を使って活版印刷した印刷見本が収録されています。(写真23〜26)
また、活版印刷研究所では、2019年1月に「大和板紙見本帳」を発売しました(写真27、28)。大和板紙の殆どの銘柄を紹介する5冊組の見本帳で、数量限定、特別箱入の仕様になっています。
今回のコラムは、板紙の魅力を掘り下げてみました。板紙は古紙を原料にした再生紙であることから、エコロジーの観点からも注目されています。ショールームを拝見して、多くの新製品が開発され、色合いやテクスチャーのバリエーションが増えていることを実感し、頼もしく思いました。今後も注目していきたい用紙の1つです。
また大和板紙は、2019年7月12日(金)- 7月15日(月祝)に東京都現代美術館で催される「TOKYO ART BOOK FAIR 」への出展が決まったとのことです。「TOKYO ART BOOK FAIR」会場にお出かけの際は、ぜひ大和板紙さんのブースに立ち寄ってみてください。
では、次回をお楽しみに!