生田信一(ファーインク)
軽やかで明るい色合いのファンシーペーパー「フリッター」がリニューアル
今回は、平和紙業が発表したファンシーペーパー「フリッター」のリニューアルについてレポートします。フリッターは種類が豊富な厚紙のファンシーペーパーとして知られていますが、2018年10月、大幅なリニューアルを行い、新色が5色加わり、連量も大幅に増え、全54アイテムに生まれ変わりました。東京都中央区新川の平和紙業に伺い、営業統括本部 全社販売推進部 谷口和隆氏にリニューアルした「フリッター」の魅力や開発の経緯についてお話をお聞きしました。
デザインする人のイメージが広がるカラー体系
「フリッター」の見本帳を紹介しながら、その魅力をお話ししましょう。見本帳は、新色のカラーや連量がわかりやすく配列され、機能的で使いやすそうです。リニューアルにより全体が明るい色体系になり、若い方や女性に好まれそうです。パッケージやブックデザインなどの分野での利用が期待されます。
平和紙業の谷口氏に開発の経緯についてお話を伺いました。フリッターのリニューアルにあたっては、「作る側からの目線から使う側の目線に立つ」ことを意識したと話します。「ファンシーペーパーは色、厚み、柄、手触りが基本ですが、使う側がもっとも使いやすいもの、多くの方が想像を膨らませていただけるような商品を提案したい」と語ります。
見本帳を拝見すると、これまで見たことのない明るい色合いが目に飛び込んできます(写真1、2)。「色の選定は、ブックデザイナーの鈴木久美氏、大武尚貴氏に協力いただきました。本の見返しの用途に使える色味を選定していただきました」と谷口氏。
新色として「ハイホワイト」「ライムイエロー」「サクラピンク」「マリンパープル」「ソフトブルー」の5色が加わり、全11色の構成になりました。明るいパステル調の色が加わりましたが、既存の色とも調和し、鮮やかなグラデーションで色が並んでいます。異なる色を組み合わせたときに、これまでにないイメージが広がるのではないでしょうか。
色を決めるには、製造上で試行錯誤があったと谷口氏は語ります。紙の製造現場では、「人(オペレーター)と機械が一緒になって作られます。表面の地合い、凹凸のムラの幅、柄の表情を決めていくのですが、統一感のある柄にするのに注意を払いました」
工場で色出しを行い、カラーを決定する際に使われた色サンプルを見せていただきました。(写真3)は、「サクラピンク」の色出しを検討する際に使われたものです。サクラの色は、日本人にとってこだわりがある色の1つでしょう。現代において好まれるサクラの色は? と問われると、難しい質問ですね。そのほかの色についても、綿密な色出しを行い、比較検討して新色が決定されたそうです。
色名を決めるにあたっては、「どんな用途に使うのか、イメージが膨らむような色名にしたかった」と谷口氏は語ります。新色の色名には、その言葉を耳にしたときに、使い方のイメージが膨らむような新鮮な響きがあります。「色名は商品を演出する大事なコンセプトです。料理するのはデザイナーです。デザインされる方がイメージを膨らませて、使い方を発展させていけるようにと言葉を選びました」
フリッターの色名を決めるお話は、当サイトのコラム「紙の色名を決める(その1)」に詳しく述べられています。合わせて参照ください。
モコモコした触感、厚物のパッケージやタグに適した連量
フリッターの凹凸のあるテクスチャーは、手触りが楽しく、軽やかな印象があります。「フリッター」の本来の意味は、「フライ」「揚げ物」を指し、「フリット」「洋風天ぷら」のように使われます。モコモコしたイメージですが、触ってみると紙らしい自然肌で、ナチュラルさを感じさせます。
連量(厚み)は、ホワイトは70kg〜440kgの10連量、クリームは70kg〜220kgの8連量、そのほかの色は90kg、135kg、180kg、220kgの4連量のラインナップ。厚物のファンシーペーパーは、パッケージやタグなどに使われることが多いそうです。今回のリニューアルはそうした用途に使いやすいように整備されました。
カラーと豊富な連量の構成は、フリッターの見本帳にわかりやすく整理されています(写真4、5)。触って質感を確かめることもできるので、常備しておきたい見本帳です。
フリッターの印刷適正
フリッターの印刷適性は、見本帳で確認することができます。独特のテキスチャーを持っているので、印刷の再現性も気になるところです。作例を見ると、文字や細線の印刷再現は、しっかりインキが乗っているのがわかります(写真6)。
そのほか、ベタや網点の再現性、箔押しやゴールド、シルバーのインキの再現性が確認できます(写真7)。見本帳の表紙には「フリッター」の文字が空押しで表現されています。さらにホワイトインキの再現性も確認できます(写真8)。
フリッターを使った活版印刷の名刺
活版印刷の名刺では、フリッターの地肌を生かした素敵なデザインを見ることができます。以下の作例は、Cappan Studioのサイトに掲載されたものからの抜粋です。
(写真9、10)の名刺は、フリッターの地肌を生かしたデザインです。シンプルなデザインにフリッターのテクスチャーがアクセントになっています。紙の表面はザラザラした感じですが、インキがしっかり入っているのがわかります。
(写真11、12)の名刺は、フリッター表面の凸凹のある独特のテクスチャーを生かしたデザインになっています。表面が凸凹しているため、印圧をかけてもインキの濃淡が出来、カスレが出るように見えて独特の雰囲気を出してくれます。
ハードプレスで印圧を入れていますが、ベタも綺麗に潰せており、文字部分はインキが絞れてます。ベタ部分はインキを出して、文字部分はインキを絞り、胴貼り用紙を貼りこむなどの工夫を加えて表現しています。
フリッターを使った書籍の装丁
フリッターを装丁に使った書籍を紹介しましょう。『風土記と古代の神々』(瀧音能之 著、平凡社刊)では、カバー、表紙、オビにフリッター(クリーム)が使われています(写真13〜16)。
この本の装丁を手がけたのはブックデザイナーの大森裕二氏。2019年1月に刊行される新刊書籍で、印刷も出来上がったばかり。さっそく大森氏の事務所にお伺いし、お話をお聞きしました。
「本の内容から、カバーや表紙のデザインは“古文書”をテーマにすることを決め、それに合う紙を探していました。リニューアルしたばかりのフリッターを拝見し、これしかないと思って決めました」と大森氏は語ります。「カラーに明るいクリーム色を選んだのは、“古文書”の古びたイメージを今風に明るく表現したかったからです。フリッターの紙質は、手にしたときの肌合いが良く、馴染みがあります」
題字のロゴは、中国の明、清時代の木活字の書体をベースにして文字を創作したとのこと。中国の伝統的な活字の味わいが引き立った、魅力的なタイポグラフィです。大森氏の書籍のロゴの創作については、当サイトのコラム「工芸品のような仕上がり。空押しと小口染めで名刺を演出する」を参照ください。
1991年、発売当初のフリッターは、ホワイト1色、6種類の連量で構成されていました。1999年に6色が追加され、2000年には増連量が行われました。「増改築を繰り返した旅館のようで、少しわかりにくくなってしまいました。わかりやすい体系にし、色揃え、連量を増やし、間口を広げるのが今回のリニューアルの目的です」と谷口氏は語ります。「11色、54アイテムに増えましたから、フリッッターの体系をもう一度お客様にわかりやすく説明することが大事です」
今後は、フリッターが使わるシーンが増えていくでしょう。手にしたときに新鮮で、懐かしさを感じるフリッターの感触をぜひ体験してみてください。
では、次回をお楽しみに!