三星インキ株式会社
金インキの酸化 『変褪色現象』
今回は金インキを使用した印刷物でよく起こる現象である、『変褪色現象』について書かせて頂きます。
金インキ自体や金インキを使用した印刷物は、経時と共に変褪色を起こし、輝度感の低下や色の変化などが発生しやすい傾向にあります。
今までは金インキ印刷部に汚れ1つなく綺麗に輝いていたのに、いつの間にか指紋の形が浮いていた。あるいは金インキを印刷したはずなのに茶色や緑色に色が変わっている。酷い時には金インキ自体が消えて見えなくなっているという経験をされた方がいるかと思います。
この現象の要因としては、金インキに使用している色材である金属顔料(真鍮)は耐性が弱い(酸化しやすい)金属であるという事が主な要因であります。
では、酸化とはどういう事なのでしょうか?
学生の頃、よく聞いた言葉だと思いますが、読んで字の如く、酸素と化合して他の物質に変化する事です。
例えば、釘などを外に置いておくと、時間と共に錆びて茶色く変色している事を目にされた事があると思いますが、これは釘(鉄)が錆びて(酸化して)酸化鉄という物質に変化するという現象であります。
そして、この釘が錆びるという現象である酸化現象が金属顔料である真鍮でも発生し、輝度の低下や変色が起こり、金インキ自体や金インキ使用印刷部が変化してしまうのです。
酸化現象は前述の通り、酸素と接触する事で発生・進行する為、空気中に酸素が存在する限り発生しますが、その他に酸性物質と言われる物質と接触する事でも酸化現象は起こります。
この酸性物質も化学の授業でよく聞いた『塩酸』『硫酸』『酢酸』などが挙げられますが、身の回りにも多く存在しており、お酢、柑橘類、アルコール、雨水、人間の皮脂なども該当し、空気中の酸素よりも強力で、より酸化しやすい傾向にあります。
では真鍮が酸化されるとどのようになるのでしょうか?
真鍮は銅と亜鉛の合金ですが、特に銅は酸化されやすい金属であり、酸性物質の種類によって以下の物質に変化します。
Cu + 酸素 → 酸化第二銅/黒色物質
Cu + 硫化水素 → 硫化銅/黒色物質
Cu + 硫酸 → 硫酸銅/緑色物質
Cu + 酢酸 → 酢酸銅/青緑色
Cu + 塩基性炭酸塩 → 塩基性炭酸銅/青緑色
以上のような化学的な変化を起こす事で、今まで輝いていた金インキや金インキ使用印刷部に変化が生じ、色の変化や輝度感の低下が起こります。
5円玉や10円玉も新しい時はキラキラと輝いていますが、古くなるにつれて黒ずんで輝きを失っていきますが、この現象が金インキでも起こるのです。
よく黒ずんだ10円玉に漂白剤を浸けると、新しい硬貨のようなピカピカした輝きに戻るという事をお聞きになると思いますが、空気中の酸素や人間の皮脂等に触れて10円玉の表面に生成した酸化銅が、漂白剤のアルカリ性成分と化学的な反応(還元)を起こして酸化銅が単なる銅に戻る事で元通りのピカピカになるという現象であります。
金インキに使用している色材である真鍮(銅-亜鉛合金)は金に類似した輝きを有する金属であり、延伸性が高くて軟らかい金属である事から加工しやすく、アクセサリーやトロフィー等の装飾品などにも広く使われていますが、これら装飾品も金インキ同様、時間が経つにつれて輝きがなくなります。
これに対して純金は酸素の影響を受けにくく、長期間に渡って色も変わらずに輝き続ける金属である事から、永久に変化しない事を望むような装飾品に多く使用されています。
仮に純金を色材として使用した(純)金インキが存在すれば、変褪色については心配する事もないですが、コスト面ではかなり心配する必要があるのではないでしょうか。
次回は、印刷と変褪色の発生のメカニズムについて説明させて頂きます。