生田信一(ファーインク)
SHIBUYA TSUTAYAと東京デザイン専門学校の産学連携企画──眠らない、眠れない、学生たちのZINEのマーケット『Stay up Market』を開催
東京都 渋谷区にある東京デザイン専門学校のビジュアルデザイン科の学生35名が、SHIBUYA TSUTAYAとの産学連携企画でZINEを制作しました。学生達の作ったZINEは、この夏7月26日〜8月25日までSHIBUYA TSUTAYA 7Fフロアの一角で展示・販売されます。
日頃デザインを学ぶ学生達が手がけたZINEが特設ブースに一堂に並び、実際に手にとって中身を見ることができます。ZINEは個人やグループが刊行する少部数の出版物ですが、ZINEでしかできないこだわりや思いがいっぱい詰まっていて、出来上がりを見るのはとても楽しいです。学生達の斬新な発想や表現手法に驚かされることもしばしば。
今回は学生達の取り組みの様子をレポート、さらにSHIBUYA TSUTAYA 7Fに展示されたZINEのブースにご案内します。
ZINEフェアのアイデアは学生達が企画・デザインして提案
東京デザイン専門学校のビジュアルデザイン科(3年制)、グラフィックデザイン科(2年制)では、以前から授業課題としてZINEを取り上げてきました。卒業制作においても、3カ月の制作期間で本格的な出版物を試作する学生がかなりの数にのぼります。
SHIBUYA TSUTAYAは学校と同じ渋谷区にあり、学生にとっても馴染み深いショップです。産学連携企画でSHIBUYA TSUTAYAで実施されるZINEフェアに企業と一緒に取り組めることは、学生にとっても刺激的な出来事です。5月末に企業を招いてのオリエンテーションが行われ、プロジェクトがスタートしました。
ZINEフェアのタイトルやポスター、POPなどのツールは学生達が企画・デザインします。作業は3〜4名のグループワークで進められ、最後にビジュアルデザイン科の学生全員(35名)によるプレゼンテーションが行われ、その中から選ばれたものが実際のフェアで使われます。発表されたフェアのタイトルやポスターは学生達が抱く渋谷の街のイメージ、さらにZINEのカルチャーに込められた思いが詰まったものになりました(写真1、2)。
選ばれたタイトルの「Stay up」は意味深です。日本語で「夜遅くまで起きている」ことを指す言葉で、普段も夜遅くまで課題のプランニングや制作に没頭する学生達の姿が目に浮かびます。この言葉は夜遅くまで賑わう渋谷の街をも連想させます。調査のため実際にSHIBUYA TSUTAYAを訪問することで、学生達はさまざまなインスピレーションを得たのでしょう。
販売するZINEは35名の学生が個々に制作し、本の仕様や設計、ビジュアルやテキストの構成すべてを手がけました。用紙や印刷方法の選択、さらに印刷の手配や製本まで自分でこなさなければならず、デザインや手作業の総合的な力が求められます。また指導する先生方の役割も重要です。
販売する部数と価格は各自で決め、納品書に書き込みます。授業の最終日に販売するZINEが提出されました(写真3)。
売り場では学生が制作したZINEを手に取って見ることができます
ZINEは制作者の主張や思いが冊子(本)の形でパッケージされています。今の若い人達の心情が色濃く反映されたものが多く、制作する側も読者にどう受け止められるか不安で冷や冷やしたようです。しかしながら出来上がった成果物を拝見すると、ZINEというメディアの特性を生かして読者とコミュニケーションを取るのが実にうまいことに驚かされました。さらに発想の斬新さや、ページ構成、色使いなどもよく練られており、眺めているだけでも興味が尽きません。
店頭ではすべてのZINEに見本が備えられています。実際にページをパラパラめくってみると、通常の出版物では実現できない驚くようなしかけが潜んでいます。たとえば、ページごとに紙を変えたり、フィルムやトレーシングペーパーを差し込んだり、カードなどのおまけがセットされていたり、おもしろい形に切り抜いたりといった具合に…。
内容(メッセージ)も作者のこだわりが詰まっています。二十代前半の若者の心情が素直に吐露されていたり、学生の日常をスケッチしたりと、彼らの正直な思いが垣間見えます。またアニメや映像を志す学生は、自分が作ってみたいと思っている作品の企画段階のスケッチを収めたものもありました。こうしたスケッチは卒業制作においてさらに具体的な形になっていくのでしょう。
展示の様子と作品の中身を少し写真でご紹介します(写真4〜9)。
SHIBUYA TSUTAYAが発信する新しい本のレーベル“NEST PUBLISHING”
同フロアには、SHIBUYA TSUTAYAが発信する新しい本のレーベル“NEST PUBLISHING”の本やグッズが展示・販売されています。“NEST PUBLISHING”は、2020年のオリンピックイヤーに向けて、多くの外国人観光客が訪れ、再開発がすすむ渋谷の街で、新たなカルチャーの発信基地となることを目的とし、世界を目指す若きクリエイターたちが個々の創造をリアルな形にできるプラットフォームとなるために立ち上がりました。今後は出版を中心に様々なクリエイターの創作物を発信していきます。
取材で訪れた時は、同レーベルから刊行された2冊の本がコーナー展開されていました。学生達が手がけたZINEと同じく、おそらくこの場所に来てはじめて手に触れ、見ることがでる本です。
SHIBUYA TSUTAYAのプライベートレーベル“NEST PUBLISHING”の出版物は、様々なクリエイターさんとTSUTAYAのスタッフとが共同して作り上げていったそうです。作家さんの希望に合わせたデザインや印刷のディレクションを行って仕上げられています。本から派生したグッズも一緒にブースに並べられ、魅力的な商品構成になっています。こうした展開は、これからの本の売り方を示唆するもので、とても興味深く感じました。ZINEを手がけた学生達にとっても大いに刺激になるでしょう。
SHIBUYA TSUTAYAは、新しい本や作品集、クリエイターらと出会うことができる魅力に満ちた空間です。渋谷に来たらぜひ訪れて覗いてみてください。
今回の取材は、ZINEは学生にとって親しみやすいテーマであるということを改めて認識することができ、とても有意義でした。本作りはページ数が多いと大掛かりな作業になりますが、ZINEはテーマを自由に選べ、コンパクトにまとめる刊行物なので、学生にとっても取り組みやすいテーマであることが実感できました。実制作では、印刷方法や用紙を選んだり、冊子の構造やページネーションをあれこれ考えたりすることで実践的な力が身に付くことは間違いないようです。眠れなくなるほどおもしろいのです、本作りは。
では、次回をお楽しみに!