図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㉝
古い地図の修理 困っています!
昭和初めの頃出版された滋賀県の地図数枚を、四六判サイズの本型ケースに折り畳んで納めてある本『滋賀懸図』が修理に回ってきました。この「本」、外見は背に茶色の革が貼ってありますが、革も劣化し、ケースとしても天の部分が欠落しています。これら外側部分の修理もさることながら、収められている数枚の地図の内、ある一枚が異常に傷んでいます。
ほぼ全紙大で内容は滋賀県全図です。この地図はとても頻繁に使われたらしく、折り畳まれているので、折り目のところから破れています。さらに周囲も激しく裂けたりしています。
割と最近、この破れにメンディングテープを貼って修理を行ったようです。それも縦横無尽に張貼りめぐらされています。テープを貼った時期は10年以上は経っていないと思われます。というのは、テープのフィルムと接着材が剥離していないのです。つまり、メンディングテープは地図にしっかりと貼りついています。
さて、地図が収められている半革装丁「本」の修理は後回しにして、戦前の滋賀県の情報満載の地図の方から修理することにしました。というのは、本を修理する目的は、本に書かれたり、記されていること、つまり情報を保存する。今後も読めるようにすることだと考えるからです。
まず、折り目の裂けているところを裏から和紙を貼って繕おうとしました。折れ目ですので、平らにしないと貼りにくいのです。しかも、紙は劣化し、乾燥しています。うっかりするとパリッと折れて、破れ落ちてしまいます。そこで、海綿を使って、少し地図を湿らせ、和紙に糊をはいて貼ってみました。しかし表側をみますと、破れ目に和紙が貼りついていず、繕った状態になっていません。
このような破れはこの地図上に無数にあります。縦横の折り目が交わるところはすべて破れていると言っても良い位です。それなのに貼りついてくれない。どうしたらよいのでしょか?
次なる手は地図の表から、ごく薄い和紙を貼る方法です。活版印刷研究所さんに探していただいた土佐和紙の極薄としょうふ糊を使いました。思い切って地図の方に糊をはき、和紙をのせて、慎重にヘラでなじませます。
今度はなんとか貼りついてくれたようです。しかし、この作業を幾ヵ所行えばよいのでしょう?しかも、全紙大の地図を広げて作業し、糊を乾かす場所もありません。
もう一つの問題。メンディングテープを剥がさないと、将来のテープ劣化が恐ろしいです。エタノールをテープの隙間から綿棒で塗って、そォ~と剥がしてみました。テープはどうやら剥がれますが、テープの糊は地図上に残ります。縦横に貼りめぐらされたメンディングテープをどうしたらよいのでしょう?
図書館で所蔵している貴重書といわれる古典籍などは専門の修復家に依頼して修理・修復を行います。しかし、この地図のような普通の所蔵資料は、よく読まれて傷んだものでも、お金をかけて専門家に修理を依頼するようなことはしません。というか、できません。しかし、この地図のようにある程度の歴史を経た本は、「よく読まれた」という証拠の痛みも、その本の来歴として図書館にとっては大切な情報、データです。
私たちワークショップが作りたいと願っているのは、こんなに良く使われて、ボロボロになりかけている本、しかも普通に貸し出されているような本をこれからも読めるようにしておくために「どうしたらよいのでしょうか?修理をするとしたら、どのようにしたら良いでしょう?」と相談したり、修理を行ったりする図書館のなかにある「修復室」です。修理中の資料も図書館内部の部屋で作業にかかっていれば、緊急の時はいつでも見ることもできます。各一館ごとに無くても、地域に一室とか、数館で共同して運営するとかでも良いと思います。
この地図に出会って今度こそ、せめて本の修理専用の部屋が図書館の中に欲しいと切実に思っています。
図書館資料保存ワークショップ
M.T.