web-magazine
web-magazine

あみりょうこ
スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話

Diciembre(12月)

(写真1) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真1)

こんにちは。あみりょうこです。12月に入り、オアハカの町はクリスマスの飾り付けが一気に増えました。そんなオアハカでクリスマスの飲み物「ポンチェ」を無事に飲んで、しばしオアハカを後にして、今回はアメリカからお届けしたいと思います。

先日、アメリカのデンバーという町を訪れました。ダウンタウンを抜けたところを車で走っていると遠くに雪の積もった山が見えてとても広い空だなぁという印象です。

(写真2) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真2)
(出典:https://i.pinimg.com/originals/34/86/19/348619b5e85ef59541b2d7807e7fbd62.jpg

コロラドのナンバープレートは山をモチーフにしたものなのですが、このデザインのまんまの光景が目の前に広がっていて面白かったです(写真2)。オアハカまでとはいきませんが、晴れたときの空の青さもとても気持ちのいい町でした。

そんなデンバーでシルクスクリーンの工房を訪れてきました。(活版印刷の工房もあったのですが時間がなくて今回は訪問できず残念!)

スクリーンプリンティングスタジオ、Ink Loungeに行ってきました。

(写真3) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真3)

Ink Lounge(インクラウンジ)というその工房はStuとNickyという夫婦で運営されています(写真3)。青と白で統一された外観を見つけてすでにわくわくなのですが、中に入ると図工室のような大きなテーブルが何台かおかれていて、奥には枠が並んだ棚が見えているのが見えました。まぎれもなく、シルクスクリーンの工房です。

以前紹介したCDMXのシルクスクリーンの工房と大きく違うのは使っているインクの種類です。CDMXの工房75gradosではオイルベースのインクを使っているのに対し、Ink Loungeでは全部水性インクを使っているということでした。どうりで工房に入ったときにインクや溶剤のにおいがしないはずです。

訪問したときは運よくちょうど仕事の落ち着いた時だったらしく、Stuが工房を案内してくれました。私はスクリーンを作るのに、太陽で感光したり家で刷ったりしているので、こういう工房にくるとどのような設備で印刷をしているのかものすごく興味があります。

一番うらやましいと感じるのはやはり、スクリーンを洗う設備です(写真4)。シルクスクリーンはスクリーン(紗)を洗うのが結構大変で、きれいに洗っておかないと別のデザインを刷るときに影響してくるので気が抜けない工程です。

(写真4) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真4)
(出典:https://sc01.alicdn.com/kf/HTB1cykLa9_I8KJjy0Foq6yFnVXaA/Washout-Booth-for-Screen-Printing-Frame-with.jpg

Ink LoungeではYouTubeなどで見たことあるような憧れのスクリーン洗い場が完備されていて、思わずうっとりしてしまいました。シルクスクリーンをしない人はなんのこっちゃかもしれませんが、この機械には高圧のホースが完備されていて(車の高圧洗浄機みたいな感じのものをイメージしてください。)、ものすごい水圧でスクリーンについた感光材を洗い流せるのです。

Ink Loungeってどんなところ?

Ink Loungeをマネージする二人は、グラフィックデザイナーでもあります。自宅でシルクスクリーンをはじめて、それをどんどん追求していくうちに現在のような工房を持つにいたったらしいのですが、工房をオープンさせて10年以上経つ今でも進化を繰り返しているという印象を受けました。

自分たちがしたいことは何なのか、どうすればそれが実現できるのか、そしてよりすばらしく印刷するには、などなど、日々学びだと話す様子から、「ああ、この人めちゃくちゃ印刷が好きなんだろうな」というのが伝わってきて、いい人と工房に出会ったなぁ、とうれしくなりました。

(写真5) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真5)

プリントのコミュニティの人と出会う時に「シェア」する精神がとても高いとよく感じます。知識であったり、アイディアであったりを惜しみなく共有してくれたり教えてくれたりします。すべてのプリントの技術に言えることだと思うのですが、セッティングが一番時間がかかる難しいところでもあります。

きれいに、そして速く刷るために開発された機械や技術だと思うので、印刷する工程は確かに早いです。そこにたどり着くまでの工程に、その印刷する人の技術や知識が総動員されると思うのです。

私自身のシルクスクリーンに関していえば、ワークショップなど一番最初のところは教えてもらいましたが後はセルフトートなので本当に毎回失敗の連続です。失敗して工夫してやり直すというのを繰り返してだんだん仕組みが分かってきて、そこに新たなワークショップを受けたりすることにより、経験からつかみかけていたことに腑が落ちて、そこからは納得がいきながら作業をすることができるという感じです。

工程のマニュアルはあるけれどもそれでも気候のコンディションやあるいは、使う素材、印刷するもののデザインの違いなどによってその都度要求される知識や技術は変わるので、結局毎回「ううむ」、と頭を抱えることになり、それを減らすためには結局印刷しまくるというか、数をこなすしかないのかな、という気がします。そんな途方もない作業に伴う苦心を乗り越える楽しみというか、不思議な魅力が印刷するという行為にはあると私は思っているのですが、プリントをする人たちはそういう人が多いと感じます。

(写真6) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真6)

その楽しさや面白さを知っているから惜しみなく自分の知っていることはほかの人にも共有してくれるのかもしれません。Stuからも存分にそれを感じました。特にスペースを効率活用しているところとか、自分が手にした一番最初のポスターや一番最初に子供のときに刷ったTシャツなどが工房の中に飾られてあってそれをうれしそうに話してくれました。

(写真6)は、印刷台にもなっているし、その下では感光できることにもなっているという手作りの台。下が感光剤を塗ったスクリーンを乾かす箱になっている台もありました。すばらしい。

(写真5) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真5)

(写真6) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真6)

Ink Loungeでできること

プリントサービス

(写真7) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真7)

(写真8) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真8)

(写真9) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真9)

Ink Loungeではいろいろなイベントやバンドのコンサートのポスターなどを刷ってくれます。実際に刷られたポスターを見せてもらいましたが難色にも重ねて印刷されたポスターの持つ独特の雰囲気はめちゃくちゃかっこよかったです。(写真7〜9)

自分で印刷する人のために版を現像してくれるサービスもあるそうです。大きな版や、自分で現像する機械を持っていなかったりするとこれはめちゃくちゃありがたいサービスです。

シルクスクリーン

(写真10) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真10)

(写真11) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真11)

ワークショップを開催したり、オープンスタジオとして使うこともできるそうです。(写真10、11)

シルクスクリーンをするときは大きなスペースがやはり作業しやすいので、そういう場所を提供してもらえるのはありがたいサービスだと思います。

地域の子どもたちのグループを無償でワークショップのために受け入れたりしているそうです。教育の一環としてのアクティビティだそうですが、子どもたちにとって「同じものが印刷ができる」というのは魔法のようらしく、子どもたちとのワークショップはいつも楽しいと話していました。

クリエイティブサービス

(写真12) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真12)

グラフィックデザイナーの2人なので、デザイン業も行っているそう。(写真12)

やはり、デザインもできるというのは強いですね。

(写真7) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真7)

(写真8) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真8)

(写真9) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真9)

(写真10) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真10)

(写真11) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真11)

(写真12) | スクリーンプリンティングスタジオ ”Ink Lounge” を訪れた話 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真12)

印刷は楽しい!

今回、Ink Loungeにお邪魔して印刷の技術を見せてもらうのも楽しかったのですが何より一番うれしかったのは、印刷が好きな人に出会えたということです。

Ink Loungeもオープンからずっと同じスタイルをとっているわけではなく、自分たちのしたいことにより近づくために昨年には大きなリニューアルもしたりと試行錯誤しながら歩みを進めているという感じがしました。彼らのその原動力は単純に、もっと印刷が上手になりたい、とか、印刷をもっと楽しめる空間を、という純粋な「好き」という気持ちだというのが伝わってきて、そこには遊び心もたくさん詰め込まれていてそれがとても心地よく感じました。

工房で見せてもらったポスターなどから機械には出せないバイブスを感じることができるのは、人の手を伝って刷られることで生命のようなものが吹き込まれているからなのかな、となんともうきうきした気持ちで工房を後にしたのでした。

2019年のコラムは今回がラストです。本年もコラムを読んでいただいてありがとうございました!来年は、どんな印刷のあれこれに出会えるのかと今から楽しみにしている次第です。それでは、みなさま暖かくお過ごしくださいね。よいお年をお迎えください。

[参考]

INK LOUNGE : http://inklounge.com/

スタジオ紹介動画:https://drive.google.com/file/d/113aTOZrqNQgWaV2_zhv-BsseY9_8vDcq/preview