web-magazine
web-magazine

あみりょうこ
コチニールカイガラムシ、の巻き。

Mayo(5月)

こんにちは。あみりょうこです。私が住んでいた町オアハカの郊外には民芸品や工芸品で有名な村がたくあんあります。映画「リメンバーミー」に出てきたようなカラフルにペイントされた木彫りの人形(アレブリヘ)や、陶器、刺繍など例を挙げればきりがありません。その中にテオティトランデルバジェという村があるのですが、この村は織物で有名です。

(写真1) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真1)

もともと織物の技術があり原始機と言われる簡易な作りのものが使われて綿などを織られていたそうなのですが、スペイン人がメヒコを侵略のためにやってきたときに羊と大きな織り機が持ち込まれました。その大きな機械を使っておられる羊毛のラグは今やテオティトランデルバジェの主要産業です。

しかし、驚くべきなのは村の中に織物工場があるわけではないという点です。では一体どこで作られているの?というわけなのですが、なんとそれぞれの家庭が工房なのです。羊毛を染めて機を織って製品をつくるまでのこの過程を家族のメンバーで分担しているのだそうです。織る技術などは、お父さんやお母さん、あるいはおじいちゃんやおばあちゃん、おじさんおばさんなど家族や親せきから小さい時から学ぶのだそうです。

(写真2) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真2)

写真の、椅子の裏に糸がやたらかけてあるものは、小さい子ども用織りを練習するためのミニ折り機なのだそう(写真2)。大人からすると小さなものなのですが、子どもにはちょうどなサイズなんだとか。こんな小さいころから織のことを体で覚えていくのであれば、十代なのにすでに織り歴10数年という若者に出会うのも納得です。

(写真3) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真3)

羊毛は大きな鍋の中でぐつぐつ煮られながら染色されるのですが、ケミカルな染料を使った染めと、自然染料を使った染めがあります。(写真3)

自然染料で染められたものは何とも言えない優しい風合いなのですが、その中で特別目を引く赤。これはスペイン語で「cochinilla(コチニージャ)」、日本名はコチニールカイガラムシという虫から抽出された色です。

(写真4) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真4)

ウチワサボテンに寄生して育つ虫です。養殖して乾燥させたものを石臼などで砕き、その粉を使って染色するのです(写真4)。この染料はアステカの時代から利用されていたという長い長い歴史を持つ天然染料です。

(写真5) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真5)

タペテ(ラグ)の工房に行くとそのプロセスを教えてもらえるので、コチニールに関してもこれくらいの知識はありました。しかしある日、友人が行けなくなってしまったコチニージャのワークショップに代理で出席させてもらったことがあります(写真5)。その時に先生が「征服するためにやってきたスペイン人たちは、このコチニージャの赤に魅了されて、ヨーロッパに持ち帰った。その価値は金にも値するくらい貴重なものだったんだよ」と教えてくれました。

(写真6) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真6)

そして、コチニージャを砕いた粉におもむろにライムの汁をかけました。すると紫のような濃い赤ががたちまちにしてオレンジに変わったのです。

他にもアルコールを入れたり、水を入れたり、ターメリックを入れたりして、色が自在に変わることを教えてくれました(写真6)。出来上がった液体を使って紙に絵を描いてみるのですが、紙に乗ってしばらくするとじわじわと色が変化するものもありました。

(写真7) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真7)

洋紙の表面には何らかのケミカルな膜があるので、それにコチニージャが反応しているのだといいます。(写真7)

「科学の実験でもしているみたいだなぁ~。」

と不思議がっていろいろな紙の上に試し書きをしていると、「そうやって色が無限にできるから、気に入った色味は調合した割合をメモしておくのよ。」と先生が教えてくれました。

ワークショップに参加していたのは全部で4人でしたが、一緒に参加したのは日本画の画家さんで、彼はコチニージャを使って制作をしている方でした。私はコチニージャを自分で扱ったのが初めてだったので、純粋な面白さと興味深さが湧き上がって来ていました。久しぶりのワークショップへの参加にテンションも上がっていたのかもしれません。

帰り道に、「コチニージャをシルクスクリーンで刷ったりしても面白いかもね」という話になり、そんなおもしろそうなことのしっぽを見せられたら飛びつかないわけにはいかないというもの。ワークショップで見せてもらったのは粉を水やアルコールにといた「水分100%」の顔料です。シルクスクリーンでは通常「インク」を使うので、印刷するには粘り気がいるけど、その粘り気をどうやってだそうか……?と議論はつづきます。

インクのようなとろみをつけたい、とろみ、トロミ……。

こうして、日本へ帰国する日が近づいているにもかかわらず、引っ越しそっちのけで壮大な実験が始まったのです。

本当はこの実験の部分をメインに書くつもりにしていたのですが、コチニージャという虫からの染料のことも日本ではなじみがないので紹介しておきたかったのです。……そしてついつい長くなる、というパターンです。

それでは、「コチニージャからインクをつくりたい」というインクの知識がないまま始まった実験の続きは来月に続きます。

それでは、すっかり外を歩けばマスク姿の人ばっかりの光景が浸透してきた今日この頃。自粛解除の日も近い?!とまたお店に行ったり友だちに会ったりできる日が来るという期待感に胸を膨らませつつ!

引き続き、健康で安全にお過ごしくださいね。

(写真1) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真1)

(写真2) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真2)

(写真3) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真3)

(写真4) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真4)

(写真5) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真5)

(写真6) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真6)

(写真7) | コチニールカイガラムシ、の巻き。 - あみりょうこ | 活版印刷研究所

(写真7)