三星インキ株式会社
皮膜特性を変える補助剤
今回は皮膜特性を変える補助剤について書かせて頂きます。
まずは皮膜強度を上げる補助剤について
印刷物を評価する項目として『耐摩擦性』というものがあります。これは皮膜の強度を表す事で、擦れてキズが入る、あるいは色が取れてしまうという現象と大きな関連があります。
一般に印刷インキには『耐摩擦強化剤』と呼ばれる添加剤があらかじめ配合されている事が多く、ポリエチレン等の粉体や半固形状のワックス(ろう)、液状のシリコン等が使用されている事が多いです。これら『耐摩擦強化剤』は、皮膜表面に配向する事で皮膜に直接外力がかからないようにしてキズ入り等を抑制します。
但し、『耐摩擦強化剤』を添加すると、皮膜表面のレベリング性(平滑性)が悪くなる為に光沢低下が起こる、版やブランケットに耐摩擦強化剤が残って堆積する(平版印刷の場合)、皮膜表面が滑り過ぎて印刷物を高く積めないあるいは巻き取れない(特にシリコン系の補助剤使用時)といった事が発生します。
この事から、インキメーカーはこれらのバランスを考慮して最適な添加量をあらかじめ添加していますが、使用用途によっては耐摩擦性には限界があります。
従って、絶対に皮膜にキズが入ってほしくない、色落ちが起こって欲しくない場合等はインキ皮膜を他の耐摩擦性が強い物質(例えばフィルムやニス)で覆う工程が挙げられます。
ただ、皮膜の上にもう一層存在させるという事は、目標とする風合いが出ない、あるいはコストアップに繋がるといった点が挙げられ、その方法が難しい場合などに補助剤として『耐摩擦強化剤』を添加する事があります。
上記のように、補助剤として『耐摩擦強化剤』を使用する時は皮膜強度を上げる必要がある場合(ユーザーが非常に厳しい、以前にクレームが発生した経験がある など)が多いと思いますが、その他に(1)インキ盛りが大きな印刷物(高濃度)が必要な場合 (2)ノンコート紙等に印刷する場合 (3)紙の材質が劣る場合 等の印刷を行う場合はキズ入り等の発生が懸念されますので、あらかじめ添加しておくという方法について参考にしてもらえればと思います。
補助剤としての『耐摩擦強化剤』は、メーカーによって内容物や添加量が異なり、後添加でも使いやすいような形状や濃度に加工されて販売されている事が多いです。
しかし、強固な皮膜が欲しい為に『耐摩擦強化剤』の添加量をどんどん増やしても、ある程度量を超えると効果の改善幅は徐々に小さくなっていき、逆に悪影響が段々大きくなっていきます(光沢低下・版残り(平版印刷)・滑り過ぎるなど)ので、メーカー推奨の添加量を守って頂きたいと思います。
『耐摩擦強化剤』という補助剤の他にも、スリップ剤やノンスリップ剤、ブロッキング防止剤、裏移り防止剤と言った表面状態を変える補助剤があります。
スリップ剤は表面を滑りやすく、逆にノンスリップ剤は滑りにくくする補助剤であり、目的に応じた表面のスベリ性とする際に使用する補助剤であります。
また、ブロッキング防止剤とは、印刷物同士が熱や湿度、圧によって圧着する現象(ブロッキング)を軽減させる補助剤であり、皮膜表面にブロッキング防止剤が存在する事でインキ同士や原反とがブロッキングを起こさなくするような補助剤であり、絵柄の多い印刷やインキ盛りが大きい印刷の時に使用されると高い光が得られます。
裏移り防止剤とは、字の如く、裏移り性を抑制する為に使用する添加剤であり、絵柄が多い印刷を行う場合等に添加されると高い効果が得られますが、粒径の粗い原料を使用している事が多く、少量でも光沢の低下となりますので、添加量には注意が必要であります。
これら補助剤は『耐摩擦強化剤』として扱っているメーカーもありますので、必要な場合はメーカーにご確認頂ければと存じます。