生田信一(ファーインク)
お家でワークショップ─金属活字を文具チックに使ってみたよ
今回は私(生田)とコピーライターの酒井さよりさんの2名で横浜の築地活字さんにお伺いし、活版印刷のお話を伺ってきました。取材の詳細は、書籍「暮らしの図鑑 文房具」(翔泳社)で掲載させていただきました。ぜひご覧になってください。
本コラムでは、酒井さよりさんが取材の際に築地活字さんの花形装飾活字を購入し、文房具愛好家ならではの視点からいろいろ試された成果をご報告します。お家で楽しむワークショップ風の内容になっています。お楽しみください。
書籍「暮らしの図鑑 文房具」で築地活字さんを紹介しました
はじめまして、こんにちは! コピーライターの酒井と申します。文具大好き女子です。今回はファーインクの生田さんとのご縁から、本サイトのTOPページのTOPICSでご紹介している「暮らしの図鑑 文房具」の制作スタッフに加えていただきました(写真1)。
本書の工場見学で取り上げた活版印刷、金属活字の鋳造の取材をきっかけに、購入した金属活字。この金属活字で、ステイホームの楽しみに文具的なハンドメイド、ひとりワークショップを行ってみました。その内容をご紹介したいと思います。印刷の専門知識などは勉強不足の一文具ユーザーで、紙や印刷への愛と好奇心は人一倍強いのが取り柄です。広い心でご一読いただければ幸いです。
2021年1月の取材では横浜の築地活字様に伺い、代表の平工希一(ひらく きいち)さんにお話を伺っています。(写真2)は、右より平工さん、酒井、生田さん、活版・活字プロジェクトの「字心」のメンバー、アーリークロスの落合さん。築地活字は本サイトの「築地活字で活字鋳造の現場を見学しました」の記事で生田さんも取材されています。
欧文活字&花形活字を購入してみた
独得の存在感と普通の印刷にはない風合いが目を惹く、活版印刷のペーパーアイテムは文具女子の大好物(写真3、4)。そして今回、金属活字の製造現場を見学させていただけることに! 金属活字鋳造の渾身レポートは、「暮らしの図鑑 文房具」をご覧ください。
築地活字の工房にはできたての輝く活字がズラリ。専用の印刷機を使わなくても、金属活字をスタンプとして使える、クラシックな活字ホルダーもあります(写真5)。名前の活字をWクリップで留めて、ネームスタンプとして使うのも楽しそう(写真6)。スタンプインクだけでハンドプリント、手で活字を印刷できると知って、活字がぐっと身近に感じられました。
活版活字は和文、欧文、色々な書体がありますが、文字とは違う、なんだかとてもおしゃれなデザインが並ぶ棚があります。これも活字? 築地活字の平工さんに伺ったところ「花形装飾活字」とのこと。これはかわいさMAXです! しかも、築地活字では活字1本から購入OK、4号の花形装飾活字が1本130円(税別、2021年3月現在)。出会いの感動を抑えきれず、この活字をいくつかと自分の名前のスペルの欧文活字を購入しました(写真7〜9)。
花形装飾活字って?
花形装飾活字(以降、花形活字と表記します)とは、なんでしょうか。「花形装飾の博物誌」(誠文堂新光社刊)によると『西洋の活字版印刷で使われてきた花や模様の形をした活字』とのこと。別名をフルーロン=Fleuronともいい、活字ですが文字ではなくて、もともとは記号として句読点のかわりに使われたり、組み合わせて模様や装飾などに使われたりしていたとか。日本には明治の頃に活版印刷とともに伝えられ、書籍の装飾や扉ページなどに用いられてきたようです(写真10、11)。
花形活字の棚にはトランプのマーク、☆などをはじめ、花や草などをモチーフにしたもの、蝶やスカラベなどクラシックなデザインも揃っています。これは手帳やスケジュールのデコに、カードや手紙のアクセントなどにスタンプとして使えるはず・・・・・・、ということで色々試してみました。
お家で活字を楽しむ(その1)花形活字で手帳やノートをデコる
まずはダイアリーのマンスリーページ、ハビットトラッカーの記録に活字スタンプを使ってみます。自分でできる健康づくり、語学や楽器の練習、SNS投稿など、日々の習慣にしたいことを書き出し、できたかどうかを毎日チェックして、1ヵ月間を振り返るハビットトラッカー。空欄が多くても気にしません。ゆるーく行っています(写真12)。
1週間のスケジュールで、ポイントになる予定にスタンプとして、今週のタスク終了のマークにも押しています(写真13)。
お家で活字を楽しむ(その3)どれにする?インクパッド色いろ
金属活字でスタンプするとき、どんなインクパッドを選ぶのが正解? 油性、水性? 染料、顔料? そもそも、どう違うの? と悩む方も多いでしょう(これらの違いについては「暮らしの図鑑 文房具」で詳しく解説しました)。
どんなインクと相性が良いのか、活版活字を手持ちのスタンプインクを使って、4種類の紙にスタンプして検証してみました(写真16〜23)。左側が油性・顔料タイプ、右側が水性・顔料タイプのインクパッドでスタンプし、紙裏も撮影し裏写りを確認。あくまで個人的な感想ですが、フールスとツバメフールスの相性が良いように思えました。
平工さんにインクについて伺ったところ、印刷用インキは油性なので、本来なら油性が適しているとのこと。手帳やスケジュールなどの裏抜け※を避けたいなら水性・顔料系インクを。厚手のカードなどに押したいなら、油性インクが良いかもしれません。(写真24)は文具店等で購入したインクパッドです。
※「裏抜け」とは、紙の上にインクで文字・図形などを記すとき、紙の裏側までインクが浸透してしまう状態を指します。ただし紙との相性、押したときの圧などもあるので、絶対に裏抜けがないとはいい切れません。色いろとお試しいただけたらと思います。
インクの色を変えるときやスタンプをし終わったら、金属活字の印面をアルコールを含ませた布かウエットティッシュで拭きましょう。紙の繊維が活字の印面に入らないよう布がおすすめとのことです。
百花繚乱 装飾花形活字
花形活字のデザインのバリエーションを、築地活字のサイトでも見ることができます。まだまだ、欲しいものが出てきそう。
活版印刷に引き入れられる魅力のひとつとしてまず挙げられ、そして知れば知る程にその奥深い世界へと誘われる装飾花形活版活字。所蔵数、品質共に自信を持ってお薦めしております。見本は以下のリンクを参照してください。
外出をはじめ色々と制限があるこの期間、活版印刷の長い歴史に思いをはせながら、金属活字&市販のスタンプインク、シーリングワックスなどを使って、ひとりワークショップを楽しみました。革のスタンプなど、まだまだ活字で遊べそうとホクホクわくわくしています。
活版印刷に興味のある方、手軽に体験してみたい方は、リアルなワークショップへの参加もおすすめです。今回伺った築地活字、アーリークロス、なまためプリントの3社による活字・活版プロジェクト、「字心」では楽しい企画も進行中とか。興味のある方は「字心」のサイトをチェックしてみてくださいね。
では、次回をお楽しみに!
(TEXT:酒井さより)
株式会社 築地活字 平工希一
2019年、創業100年を迎える築地活字の5代目。父平工栄之助から事業を受け継ぎ、活版活字の製造販売や活版印刷の受注は勿論のこと、鋳造見学体験会やワークショップなども開催。また、「活版TOKYO」など各種イベントにも積極的に参加し、新しい活版のニーズ拡大に努めている。地元横浜では、2013年、2014年と「活版 横濱」を開催している。
一般の人たちが手軽に活版を楽しめる活字ホルダーの販売など、販路を広げている。
ちなみに岩田母型製造所の創立者である岩田百蔵は、母方の祖父にあたる。
HP:http://tsukiji-katsuji.com
Twitter:https://twitter.com/6BSVh7bhSktC79j
活版活字プロジェクト 字心 HP:https://jigocoro.net/
[ライター・プロフィール]
酒井さより
コピーライター。企業・商品・サービスの広告全般の企画・制作、ライティング、社内報の取材編集記事なども手がけています。「暮らしの図鑑 文房具」(翔泳社 2021年3月刊行)では文具の基礎知識のインク・筆記具等の記事と、工場見学のページを担当しました。文具好き。