生田信一(ファーインク)
NECKTIE design office 千星健夫さんが作るクリエイティブな年賀状(後編)
年賀状は新年を祝う挨拶状。NECKTIE design office 千星健夫さんの作る年賀状には、あっと驚かせる仕掛けがいっぱい詰まっています。
さらに千星さんは、これらの制作記録をSNSやNoteの記事で記録しています。今回は、2020年、2021年の年賀状を紹介します。解説のテキストは、千星さんの記事から引用して再構成しました。
2020年年賀状─子(ね)
まずは2020年の年賀状の製作プロセスを紹介します。その当時の世相を思い出していただくために、その前年の流行語大賞を調べ、テキストに添えてみました。当時を思い出しながら読んでください。
前年 2019年の流行語大賞を受賞したのは、日本が初の8強入りを遂げ、列島が沸いたラグビーW杯日本大会のチームのスローガン「ONE TEAM(ワンチーム)」が輝きました。「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」の公式キャッチフレーズで始まった2019日本大会は、日本代表チームが開幕戦のロシアに勝利すると、アイルランド、サモアそしてスコットランドを撃破、予選プール4連勝で日本ラグビー史上初の決勝トーナメント進出を決めました。(参考:オリコンニュース)。
2020年は「シール」をメインにデザインを製作いたしました。2020年は東京オリンピック(五輪)の年ということもあり、お送りした方々にたくさんのマル(正解・良い・平和)が訪れるようにという願いをこめて、たくさんのゴールドの丸型シールを使ってデザインしています。完成品がこちら(写真1、2)。
作っているときはTHE内職といった様相で、コツコツとひとつひとつシールを貼っていっています。今回のメインのシールは大・小のゴールド丸シールと目玉シール(写真3〜6)。
続いて「a」の部分に小さい方の金シールを貼って、次に目玉シールを貼ります(写真7〜10)。
いったんOPPの袋に入れて、同梱用のシールも入れます(写真11〜14)。
年賀状はOPPの袋に入っていて、一緒にシールが同梱されています。2020の「0」の部分にシールを貼り付け、目玉シールも貼ると、こんな形で完成します(写真15〜18)。
2021年年賀状─丑(うし)
前年 2020年の流行語大賞を受賞したのは、「3密」が輝きました。厚生労働省などが呼びかけた新型コロナウイルスの感染防止を目的とする新概念、新習慣、「3密」は当初広がりを見せなかった。そんな折、東京都の小池百合子知事が殺到する報道陣に“密です”を連呼したことが報じられると、ネット上で話題となり、ツイッターには発言を題材にした投稿が相次ぎました(参考:オリコンニュース)。
2021年は実際にお会いすることが難しいご時世ということもあり、丑年にちなんでMeet(会う)のかわりにMeat(牛肉)でデザインさせていただきました。牛肉が印刷された紙を2021の文字にレーザーカットし、実際の食品トレイ+食品表示シール+ラップをすることで本物の牛肉のような雰囲気に仕上げています。(写真19)。
今年の年賀状のデザインは丑年なので牛肉がいい!と比較的早い段階でアイデアは固まっていたので、実際にお肉を買った食品トレーに出力した紙をいれてみたら、「あら想像以上にお肉じゃない」という感じだったので、あとは実製作あるのみ!ということで製作を進めていきました。
なにはともあれ、お肉なので、厚めの紙にオンデマンド印刷で肉の写真を出力。印刷サイズはレーザーの機械が通しやすいように余白をおおきめにとってA5サイズに(写真20〜23)。
裏面がぜんぜん切れていませんでした(写真24)。紙厚が結構あるので、普通の紙厚設定ではちゃんとカットできず、強めの設定でちょうどいい数値を探しました。いくつかテストし、最適な数値を発見しました。
光っている部分がレーザー光線。お肉を焼いてるように見えます(写真25〜28)。
何枚も重ねると、もう完全にステーキですね(写真29、30)。
そして切り上がった(できあがった)お肉を食品トレーに盛りつけ(写真31、32)。
これをラップで巻くわけですが、普通のラップだと強度が弱いかと思い、業務用ラップを購入。しかし、実際にラップしてみると郵送にはこれでもまだちょっと弱い。そこで梱包用のストレッチフィルムを使うことにしました(写真33、34)。
ラップを引き出し、ハサミでカット。セットして裏返します。そしてここがポイント。ストレッチフィルムはめちゃめちゃ伸びるので、ぎゅーっとひっぱると表面がきれいに仕上がります。といった今後にまったく使い途がなさそうなノウハウが貯まっていく(写真35〜38)。
裏面に宛名を貼って、DM便のシールを貼ります。しっかりとひっぱってるおかげで表面はスーパーの食品売り場並みのぴっちりした仕上がり。最後に表面に食品シールを貼って完成(写真39、40)。
できたー。もう完全に肉弁当のお店みたいになっています。肉のお値段はもちろん2021円(写真41〜43)。
ということで完成がこちら。(写真44〜47)。
印刷と加工を駆使した千星さんの年賀状のメーキング、3回にわたってお送りしました。いかがでしょうか。
毎年の年賀状のテーマやコンセプト、アイデアの閃きはとても参考になります。コンセプトが決まれば、あとは製作あるのみ。前編・中編でも紹介したように、素材を探し、印刷や加工方法を模索、さらに作ってくれそうな工場や職人さんを探し、製造現場に赴いてしっかり取材、聞き込みの調査を行っているところは見習うべきところだと思います。
来年は「2022年」の「寅(とら)年」です。「2022」の文字のイメージを膨らませたり、寅にまつわるエピソードを集めていくと、おもしろいものができそうですね。
では、次回をお楽しみに!
[プロフィール]
千星健夫(Chiboshi Takeo)
1976年、兵庫県生まれ。GRAPHIC / WEB / PRODUCTとジャンルをはみだしたデザインを手がける。写真撮影や活版印刷も自らおこなう。デザイン事務所勤務を経て、2014年NECKTIE design officeを設立。
Interior Lifestyle Young Designer Award 2018受賞。朗文堂タイポグラフィースクール 新宿私塾 講師。
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