生田信一(ファーインク)
嘉瑞工房×美篶堂が手がける『ABC BOOK』 ─ 金属活字書体見本 豆本
筆者は、2021年10月28日、東京都現代美術館で催された「TOKYO ART BOOK FAIR(TABF)」に行ってきました。昨年は、バーチャルでのオンライン開催であったので、久しぶりに訪れたリアルなイベントでした。
今回のコラムは、TABF会場で「本づくり協会」のブースに立ち寄った際に購入した豆本『ABC BOOK』を取り上げます。さらに美篶堂オンラインショップから魅力的な活版印刷のグッズや本をご紹介します。
豆本『ABC BOOK』の魅力
東京都現代美術館で催された「TOKYO ART BOOK FAIR(TABF)」は、昨年はバーチャルでのオンライン開催だったので、久しぶりのリアルなイベントになりました。チケットは、発売してすぐに売り切れになる人気です。かろうじて初日午後のチケットを入手することができました。入場制限でいくらか混雑は緩和されたと思いますが、それでも会場内は多くの人で賑わっていました(写真1、2)。
では、「本づくり協会」のブースで見つけて購入した豆本『ABC BOOK』を紹介します。
「本づくり協会」は、本づくりの「文化の継承」「技術の継承と記録」「人材の育成」を目的に2014年12月に発足した団体です。本づくり学校の運営サポートをはじめ、イベント・ワークショップの実施、会報誌の発行など幅広く活動を行っています。
豆本は、小さくてかわいい本ですが、小さい文字は読むのが難しくなります。むしろビジュアルブックとして捉えると、いろいろおもしろそうなアイテムに広がっていくのではないかとかねがね感じていました。
『ABC BOOK』 を見て、触って感じるのは、書体見本帳としての機能を持ち、文字の大きさがちょうど良いサイズであることです。文字は各ページに1つだけ印刷され、文字がはっきり鮮明に見えます。さらに裏面には書体名が印刷されています。
購入した豆本は、活版印刷の嘉瑞工房と手製本の美篶堂のコラボレーションで生まれた本です。商品には以下のクレジットが記されています(写真3)。
嘉瑞工房×美篶堂
『ABC BOOK』 金属活字書体見本 豆本
欧文活字の小さな書体見本帳です。A-Zまでの各アルファベットが一文字づつ全て違う書体で刷られています。
組版・活版印刷、紙と表紙の箔押しも嘉瑞工房の高岡昌生氏の手によるものです。限定900部。
蛇腹製本された豆本を箱から取り出して広げてみました(写真4〜8)。バランス良く文字が配置され、素敵なレイアウトに仕上がっています。蛇腹を広げると、アルファベットの美しい金属活字の文字が一望できます。AからZまでの書体が異なっており、装飾的なものからオーソドックスなものまさざまざなデザインを楽しむことができます。
印刷は細かな装飾や細線まできれいに再現されています。表紙や箱にプレスされたゴールドの箔押しも鮮やかです。とても贅沢な書体見本帳です。活版印刷で刷った文字は不思議と愛着を感じるのですが、おそらく人の手を介して刷られている点が大きな要素になっているように思えます。
※『ABC BOOK』はこちらからお求めいただけます。
豆本の作り方
とても魅力的な豆本ですが、いざ自分で作るとなると、ハードルが高そうです。後日、美篶堂のオンラインショップを見ていたら、豆本の作り方を解説した教材「材料つきですぐできる『はじめての豆本』」をみつけ、さっそく購入しました。このキットは、製本するのに必要な用紙が印刷された状態で同梱されているので、とても助かります(写真9〜11)。
冊子には、蛇腹折り製本の「ABC BOOK」のほか、「フランス装ノート」、絵本「うさぎがきいたおと」、「豆本カードスタンド」の作り方が掲載されています。入門的なキットですが、これらを応用することで、いろいろなアイデアに広がっていきそうです。
また、美篶堂オンラインショップには、製本の教科書として役立つ書籍も多数あります。新刊の書籍では『美篶堂とつくる美しい手製本』(美篶堂 編、本づくり協会 監修、河出書房新社刊)があります(写真12)。
製本のワークショップは楽しいイベントですが、コロナ禍でイベントの開催が難しい日々が続いています。良い教材が手元にあると、家にいながら製本を体験できることがなによりありがたいです。
さらに、美篶堂オンラインショップでは、製本道具・材料も各種取り揃えていて、オンラインで購入できます。興味のある方はサイトを覗いてみてください→製本道具・材料
活版印刷グッズの数々
美篶堂オンラインシップでは、美篶堂さんと嘉瑞工房さんがコラボした活版印刷のカードやグッズなどを見ることができます。魅力的なものが多く、筆者もこれまで何点かを買わせていただきました。以下、主なものを紹介します。
(写真13)は「本づくり協会 活版クリスマスカード*あい」。(写真14)は「本づくり協会 活版クリスマスカード*雪」。青と銀のインクの活版で印刷された二つ折りのクリスマスカードです。封筒、カード、メッセージ用紙のセットになります。活字の約物で表現されたツリーと優しい手触りの用紙との組み合わせが素敵なカードです。
(写真15)は「聖句活版ポストカードセット-Bible Verse Postcards」です。私は英語は不得手なので、欧文で組版する際の良いお手本になります。なによりその美しさにほれぼれします。
そのほか(写真16、17)の「嘉瑞工房活版印刷 コースター(アルファベット)」(写真16)の「嘉瑞工房活版印刷 コースター(数字)」があります。コースターの大きな文字は木活字で刷られています。
(写真18〜22)の「嘉瑞工房 活版 缶バッジ」は、A〜Zまでのアルファベットの他、さまざまな種類の缶バッジがあります。
ここで紹介した活版印刷のグッズは美篶堂オンラインショップのカテゴリー「コラボレーション-嘉瑞工房」よりご覧いただけます。
活版印刷の歴史、欧文組版に役立つ本
最後に、活版印刷の歴史や欧文組版をテーマにした書籍を紹介します。まず、烏有書林という出版社から、嘉瑞工房の前社長・高岡重蔵氏が著した2冊を紹介します。
(写真23)の『欧文活字』は、優れた欧文組版で海外での評価も高い嘉瑞工房の高岡重蔵氏が1948年に著した名著『欧文活字』です。新たに巻頭・巻末付録つきの新装版として復活されたもので、活版印刷の欧文活字の知識を体系的に学ぶことができます。A6の文庫本サイズで、手にした時の紙の質感が心地よく、私のお気に入りの一冊になっています。上製なので、製本の細部を細かくチェックするのにも役立っています。
(写真24)の『高岡重蔵 活版習作集 My Study of Letterpress Typography』は、嘉瑞工房・高岡重蔵氏の活版印刷作品集。本書に収められた習作は、活版印刷が主流であった時代に作られたものです。当時の印刷環境を思うと、欧文の金属活字でここまできれいに組めるのかと驚かされます。なお、本文中の印刷は活版印刷ではなくオフセット印刷で再現されていますが、印刷はとても鮮明で、当時の活版印刷の迫力を現代にいきいきと伝える習作集になっています。
欧文組版には和文組版とは違ったルールがあり、現役のデザイナーの方も組版に悩まれることが多のではないかと思います。欧文組版のガイドブックでは、嘉瑞工房 高岡昌生さんが著した『欧文組版』の書籍があります。こちらは欧文組版を手がけておられるデザイナーやオペレーターの方にお勧めしたい一冊です(写真25)。
豆本の歴史を調べると、西洋では16世紀頃に流行し、聖書や物語の豆本が盛んに作成されたそうです。日本では江戸時代後期に馬上本、袖珍本(しゅうちんぼん)と呼ばれ、袖の中に入れて携えられるくらいの小型の本が携帯用に使用されていたことを知りました。
さらに歴史を遡ると、日本には世界最古の小さな印刷物「百万塔陀羅尼」があります。「百万塔陀羅尼」は奈良時代に作られた小さな経本で、木で彫った塔の中に収められています。陀羅尼はWikipediaの解説によると、「幅5.5cm、長さ25cm~57cmの料紙を繋げ、経巻にし、紙に包んでから、塔に納められた」と記述があります。実物は印刷博物館で見ることができます→参考「印刷博物館 百万塔陀羅尼」
小さな豆本は、日本古来から受け継がれてきた印刷技術であることを思うと、この小さな本に愛着がわく気持ちがわかる気がします。豆本でなくとも小型の印刷物に愛着がわく気持ちは、みなさんと同じではないかと思います。
では、次回をお楽しみに!
美篶堂
[製本所]
所在地:394-0111 長野県伊那市美篶6768-2
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