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白須美紀
伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す
五十嵐製紙

写真1 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

紙づくりの里、越前

福井県の越前は1500年の歴史を誇る高級和紙の産地。日本に紙が伝わった4〜5世紀にはすでに紙作りが行われていたといい、正倉院に収蔵されている古文書にも和紙の産地としてその名が記されている。はじめは写経用紙として生産されていたが、室町時代より公家や武士が公に使う奉書紙の最高級品として知られるようになり、江戸時代に幕府の保護を受けて発展。明治時代には紙幣も漉かれて印刷局紙幣寮が設置された。現在も手漉き和紙では日本一のシェアを誇っており、1500年の歴史を通してずっと紙づくりで名高い土地であり続けている。

越前には多くの和紙業者が軒をつらねる和紙の里ともいえるエリアがあり、それらの集落を総称して五箇地区と呼んでいる。大正8年創業の五十嵐製紙も、そんな五箇地区にある製紙所の一軒だ。五十嵐製紙の四代目であり伝統工芸士でもある五十嵐匡美さんの案内で工房を伺うと、ちょうど人の背丈ほどある大きな和紙を漉いているところだった。二人がかりで大きな漉き簀を操るのだが、大きさが大きさなだけに、均質な厚みに仕上げるのには技術が要りそうだ。

「作業する二人の息が合わないとうまく漉くことはできないんです。うちの工房では仕事のためにも、喧嘩ができないんですよ」
と、匡美さんが楽しげに教えてくれた。

小さな紙ももちろん漉くけれど、五十嵐製紙が得意とするのはやはりこうした大きなサイズの創作和紙だ。それらは一点物も多く、美術館やホテルなどのディスプレイにも採用されている。また、最近では海外のアーティストからのオーダーも増えているのだそう。越前和紙の技術力は1500年にわたり日本中の信頼を集めてきたが、最近では海外の人々からも高い評価を得ているのだ。

写真2 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真3 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真4 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

五十嵐製紙では、手漉きだけではなく機械でも和紙を製作している。工房の中に大きな機械が据えられており、水槽に溶かされた楮や三椏などの紙材がベルトコンベアーの上を移動しながら濾過されて紙となり、ドラム型のアイロンで乾燥されロールに巻き取られていく。

「よく『ジブリみたいですね』っていわれるんですよ」と匡美さんが言うとおり、大きな蒸気を吹き出しつつゆっくりと動く機械はレトロな趣きがあり、動きにどこかほのぼのとしたものが感じられる。ラインの途中では機械にもぐりこんで余計な素材屑を取り除く人もいて、人間と機械が仲良く協働して紙作りしているようにも見えるのだった。

また、カラフルな色柄や模様をつけることもできるのも越前和紙の特徴だ。「流し込み」という技術ならば、色付けした材料を金型に流して模様をつくる。この日も、2022年の干支である虎の模様の和紙がつくられていた。他にも金型で材料を写し取り凹凸で模様をつける「ひっかけ」などの技法もあり、手漉き、機械抄きの両方に使われるという。サイズも模様も自由自在、越前の和紙は質量ともに豊かだ。

写真5 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真6 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真7 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真1 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真2 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真3 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真4 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真5 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真6 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真7 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

これからの紙、Food Paper

そんな越前和紙のプロダクトに新しい仲間が加わった。匡美さんが開発した機械抄きの「Food Paper」だ。その名の通り廃棄される野菜や果物を原料に抄き込んだ新ジャンルの紙で、ノートやカードなどの文具はもちろんサコッシュや小物入れなどの雑貨にも製品化されている。

そもそものアイデアは、匡美さんの次男の優翔くんが小学校4年生から5年間取り組んだ「紙漉き実験」が元になっているそう。優翔くんは、バナナの皮や枝豆の皮など身近な食べ物を使って紙を作る実験をしていたのだ。もともと小豆を漉き込んだ襖紙をつくっていたこともあり、既存の原料と同じような植物繊維であれば紙の原料になりえるのではないかと思い開発に着手したという。

「実は背景には、和紙の材料不足があるのです。特に国産の楮は年々貴重になっていて、最盛期の1.2%まで生産量が落ちています。頼りにしている海外産の材料も、地球温暖化の影響で不作になったり、新型コロナによるロックダウンで急に入手できなくなったりと不安定です。自分たちで楮を育てたりなど産地全体で努力は続けてはいるのですが、それでもなかなか難しくて。野菜や果物なら入手しやすいので、材料確保の一助になればと考えています」

また、廃棄食材を生かすアイデアは社会が抱えるフードロス問題にも貢献するため、各方面から脚光を浴びてもいるという。この和紙でも洋紙でもない新しい自然紙は、越前和紙の新しい可能性をひらいたのだ。

五十嵐製紙の販売所には、自社製の和紙を生かした封筒やうちわなどの紙製品が並んでおり、買物も楽しむことができる。こうした製品はもちろん工房内で出会ったどの紙もすべて温かな風合いが印象的で、匡美さんの柔らかな福井弁とともに心にぬくもりが残った。技術の高さはもちろんだけど、この越前和紙の紙と人の温かさこそが、1500年愛されるもう一つの理由なのかもしれない。

写真8 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真8 | 伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

五十嵐製紙

伝統ある越前和紙の今とこれからをつくり出す 五十嵐製紙 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

住 福井県越前市岩本町12-14
電 0778-43-0267
五十嵐製紙ホームページ http://www.wagamiya.com
Food Paper ホームページ https://foodpaper.jp

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