生田信一(ファーインク)
ノートに印刷された罫線やドットについて考える
久しぶりに、文房具にまつまわる話題を取り上げます。ここ最近に出会った文房具の中から、役に立つグッズやおもしろいコンセプトの商品をピックアップしていきたいと考えています。文房具は紙と印刷、製本、デザインのエッセンスが詰まっており、興味が尽きません。不定期の連載になるかと思いますが、お付き合いくださいませ。
今回は、ノートや手帳に印刷される罫線を取り上げます。最近、ユニークな罫線やドットでデザインされたノートが相次いで発売されました。実際に使ってみたいと思い、いくつか購入しました。気付いたことや、新たな発見などをまとめてみました。
コクヨ・ドット入り罫線ノート
ノートの罫線は縦や横のラインで印刷され、文字や図を書くときのガイドとして機能します。淡い色で印刷された罫線は、筆記するときの文字の大きさや並びのラインを揃えたいときに役立ちます。横罫だけが印刷されたシンプルなものがほとんどですが、近年、罫線のデザインに手を加えたり、ユニークなドットをあしらったものを見かけるようになりました。
罫線とドットを組み合わせたノートの開発の歴史を調べていくと、「コクヨ・ドット入り罫線ノート」がルーツになっているようです。このノートが生まれたきっかけになったのは、書籍『東大合格生のノートはかならず美しい』(太田あや 著、文藝春秋、2008年)の刊行でした。この本とのコラボ企画から、ドット入り罫線が誕生したようです。以下、コクヨのサイト「ドット入り罫線開発ストーリー」から抜粋します。
「太田あやさんが200冊以上の東大合格生のノートを調べてみると、どのノートもとても美しかったというのです。最初から最後まで同じテンションで書き綴られ、整然と知識がまとめられている。この美しさをひも解いていくと、「東大ノート(とうだいのおと)」というキーワードで表される7つの法則が隠されていた……。」
7つの法則とは、
❶《と》 とにかく文頭は揃える
❷《う》 写す必要がなければコピー
❸《だ》 大胆に余白をとる
❹《い》 インデックスを活用
❺《の》 ノートは区切りが肝心
❻《お》 オリジナルのフォーマットを持つ
❼《と》 当然、丁寧に書いている
参考:特設サイト「東大合格生のノートはかならず美しい」(文藝春秋)
とても興味深い考察と指摘です。よくよく考えると、文字組みをきれいに見せるためのエッセンスでもありますね。
東大ノートの本はその後ブームになり、さまざまな関連書籍が出ています。筆者は、『マンガでわかる! 頭を鍛える 東大ノート術』を購入しました(写真1)。この本では、学校の授業だけではなく、ビジネスの世界で利用できるノートの活用術についても触れており、なるほどと思わせるものでした(私自身、あまり実践できていませんけど…)。
余談ですが、最近観た萩本欽一のドキュメンタリー映画『We Love Television?』で、新しいTV番組を企画するときの大学ノートの使い方を紹介していました。1つの番組に対して一冊のノートを作っているそうで、なるほどと思いました。アイデアが浮かぶ度にページの冒頭に項目(タイトル)を立てて、後で残りのスペースに書き足していくという手法でした。1つのプロジェクト(TV番組)で1冊のノートを作ることになります。シンプルな方法ですが、いろいろ応用が効きそうです。
キャンパスノート(ドット入り罫線)
コクヨの「キャンパスノート(ドット入り罫線)」は、定番ノートタイプ(写真2)以外に、幅広タイプ、ルーズリーフタイプ、レポート用紙タイプなどがあります。サイズやカラーも豊富で、目的に適ったものが見つかると思います。ラインナップはコチラを参照してください。
ノートの表紙をめくると表紙の裏にドット入り罫線の活用方法が記載されています(写真3)。活用のヒントが解説されているので便利です。
ドット入り罫線シリーズ(ドット入り文系線)
ドット入り罫線シリーズには文系線と理系線があることを知りました。学校で習う教科には国語と社会の文系、算数(数学)・理科の理系がありますが、科目に応じて使い分けることができます。まずは「ドット入り文系線」のノートを見ていきましょう(写真4)。
表紙裏には使い方の解説があります(写真5)。特徴は、行と行の間に余白のスペースが設けられ、さらに横罫の上に等間隔のドットが付いた構造になっています。この余白部分をどのように活用するかがポイントのようです。たとえば、漢文であれば返り点(レ点)を付けたり、日本語の訓で読む助けになる読みを付けるスペースに利用できます。
日本語の文字組版では、漢字にルビ(振り仮名)を付けるために行間を広めに確保します。縦組みの原稿用紙には行間に余白が設けられていますが、この余白スペースに後で加筆や修正を書き加えたりしますので、いろんな場面で応用が可能なフォーマットであるといえるでしょう。
英文の文章を書く場合は、ベースラインの基準位置として罫線を利用することになるでしょう。英字は、アセンダライン(「b」や「h」の文字の一番上)、ベースライン(アルファベットのベースとなるライン)、ディセンダライン(「g」や「y」の文字の一番下)が基準になりますので、行間は広めに設定するのがコツのようです。
等間隔のドットは、文頭を揃えたいときに文を始める位置の目安になります。
「ドット入り罫線シリーズ(ドット入り文系線)」のラインナップはコチラを参照してください。
キャンパスノート(ドット入り理系線)
次に「ドット入り理系線」のノートを見ていきましょう(写真6)。
表紙裏には使い方の解説があります(写真7)。特徴は、罫線上に並んだ大きなドットと、行の中に細かいドットが整然と並んでいることです。これらのドットを活用して図や表をきれいに書くことができます。
たとえば、数学の関数のグラフでは、XY軸を書いて細かいドットに沿って数値を設定するのがコツのようです。表の作成においても、大きなドットを基準にセルの高さと幅を決める事例が紹介されています。また、理科の分野では、回路図の作成や、計測した数値データを折れ線グラフに起こしたいときなどに役立ちます。
「ドット入り罫線シリーズ(ドット入り理系線)」のラインナップはコチラを参照してください。
キャンパスノート(ハーフサイズ)
ハーフサイズのかわいいノートもあります。昨今は、ノートPCやタブレット端末が普及し、学生が一人一台、電子機器のデバイスを持つようになりました。PCを広げるとノートが机の上に収まらず書きづらかったりします。
そこで、セミB5ノートの半分のサイズ(タテ126mm×ヨコ179mm)のノートが生まれました。学校の教室の生徒用デスクの天板はW650×D450mmが一般的で、あまり大きくありません。PCをデスクに置いて、さらにノートをとりたいときに役立ちそうです。
罫線は「ドット入り罫線」と「方眼罫(5mm方眼10mm実線)」の2種類に対応しています(写真8)。価格も安く(税抜130円)、ちょっとしたメモ書き用に便利です。
「キャンパスノート(ハーフサイズ)」のラインナップはコチラを参照してください。
ほぼ日ノオト ─ 視覚的ストレスが少ない「新罫線」のノート
昨年11月に発売された「ほぼ日ノオト」は、これまでになかったデザインの「新罫線」が特徴です。以下に、「ほぼ日ノオト」サイトを参考に紹介します。
「ほぼ日ノオト」は、目のストレスに着目し、デザイン心理学に基づいて作られています。開発は、千葉大学工学部発ベンチャー株式会社BB STONE デザイン心理学研究所の日比野治雄教授らの研究チームが行い、「錯視」の現象をデザイン心理学の視点から応用して開発されました。以前、この研究について書かれた書籍を読み、私自身、興味を抱いていました(写真9)。
「ほぼ日ノオト」の罫線に応用されている「錯視」はどのようなものでしょうか。「錯視」は、視覚における錯覚のことで、形・大きさ・長さ・色・方向などが、ある条件や要因のために実際とは違ったものとして知覚されることを指します。Wikipedeaを見ると、錯視のさまざまな事例が紹介されています。たとえば、(写真10)の「カニッツァの三角形」は、描いてないはずの三角形が浮かび上がる錯視です。
この錯視の現象を利用してノートの紙面に見えないグリッドを作るという発想で開発されたのが「ほぼ日ノオト」の「新罫線」です。この罫線は開発者のBB STONEデザイン心理学研究所が特許を取得しています。
2021年11月に「ほぼ日ノオト」が発売されたというニュースを聞き、神保町にあるTOBICHI東京で購入しました(写真11)。色はカラフルな5色が揃っているので、目的に応じて色を選ぶ楽しみもあります。表紙やロゴなどの商品デザインは、ほぼ日手帳本体やカバーのデザインを手掛けている株式会社TSDOが担当しています。
では、ノートの罫線を拡大して見てみましょう(写真12)。全体をじっと眺めていると、見えないグリッドが表れて、ぼんやりと縦横のガイドを意識することができます。実線の罫線のグリッドと比較すると、「新罫線」は、圧迫感、ストレスを感じないことが特徴と言えます。
このグリッドを意識して、文字の並びを揃えたり、表を作成することができます。もちろん使い方は自由なので、さまざまな場面で活用できると思います。
九ポ堂がてがけた「とうだいノート 昼・夜」
最後に、活版印刷のグッズを数多く手がける九ポ堂さんのノートを紹介します。ここまで紹介したノートと違い、情緒や感覚に焦点を当てたロマンチックなノートです。「とうだいノート 昼・夜」は、「とうだい(灯台)」をコンセプトにし、表紙のデザインや紙面の罫線・カットイラストは、海辺の風景をモチーフにしているのが特徴です。
ネットで注文して届いたものをじっくり眺めると、数々のしかけが隠れていることに気づきます。たとえば、表紙の紙質は、触ると凸凹していて、灯台の建物のテクスチャーを思わせます。夜の表紙には灯台の光が金色の箔押しで表現されています。最初のページには扉が設けられており、気分を盛り立てます。
中のページも前半と後半でイラストが変わっていたりと、遊び心に満ちています。ガイドの罫線は不規則な形のドットで表されていますが、これは波頭の模様をイメージしたものですね。昼と夜の2種類のノートを並べると、灯台の1日を思わせるストーリーが浮かび上がります(写真13〜18)。
「とうだいノート」の入手は、いくつかのショッピングサイトで見つけることができます。販売元のライフ株式会社の案内はこちら。
https://life-st.jp/conts/wp-content/uploads/2021/12/todainote.pdf
ノートの活用法は人それぞれで、各自が自分に合ったスタイルを模索しているものだと思います。現在ではPCが普及し、従来の手書きのノートが電子機器のノートブックやスマホに置き換わっている側面もあります。記録しておきたいものは、端末の電子機器に文字を打ち込んだり、スマホであれば写真に撮って記録することもできますから、すいぶん便利になりました。電子機器に保存しておくと、あとで検索したり、加工したりできることがなによりの利点です。
でも、手書きの魅力はあると思います。アイデアが生まれたときの瞬発力を最大限に活かすには、手書きに勝るものはないのではないかと思います。よいアイデアが生まれる時は、大抵ぼけーっとしていることが多いので、アイデアが消えてしまわないうちに素早く記録しておくことがなによりも優先されます。手書きすることで、その時の気分や高揚感を記録できるのではないかと思うのですが。
では、次回をお楽しみに!