生田信一(ファーインク)
美しいリソグラフのガイドブック『Guide for Riso』
前回のコラムに引き続き、猪飼俊介さん(ALBATORO DESIGN / PRINT + PLANTを主催)のアートワークを紹介します。今回紹介するのはデジタル印刷機リソグラフを使った作品と制作方法です。
猪飼さんが活版印刷のショップ「PRINT + PLANT」に導入されたリソグラフ印刷機の大きな特徴は「新しいモデルの印刷機で、厚手の紙でも印刷できるようになったこと」だと話します。紙の選択肢が広がったことで、カードや名刺のような用途にもリソグラフが利用できるようになったことは大きなニュースです。
また、印刷入稿データを作成する際に最初に戸惑うのは、データの作り方です。最終的には刷り色別に1色(版)ごとのデータを作るのですが、オフセット印刷のデータの作り方とは異なるため、多くの方が戸惑ってしまうようです。
今回のコラムお伝えする猪飼さんが作られた印刷入稿用のテンプレートを利用すると、普段使い慣れたソフトウェア「Adobe Illustrator」を使って、実際の印刷仕上がりを予測しながらデータを作成することができます。また実際に刷られた印刷見本を手元に置いておくことで、データ上で掛け合わせた色が印刷ではどのように仕上がるのかを確認することもできます。とても便利なツールに仕上がっています。
印刷費用がさほどかからないのもリソグラフの大きな特徴です。手軽にアートを楽しめるリソグラフの魅力を紹介していければと思います。ごゆっくりお楽しみください。
活版印刷+リソグラフの年賀状
2022年の年頭に猪飼さんから「今年の年賀状はリソグラフで作った」との情報が飛び込んできました。筆者はさっそく年賀状の送付を申し込みました。届いた年賀状が(写真1、筆者撮影)です。
(写真1)猪飼さんからいただいた2022年の年賀状。
紙はしっかりした台紙に刷られています。また、鮮やかな蛍光インクの発色が新鮮です。グラデーションの階調は大きめのドットで表現され、さらにリソグラフ特有のインクのカスレや色ムラも見られ、味わい深い印刷見本に仕上がっています。
どのように色が重ねられたのか、猪飼さんのAlbatoro DesignのInstagramサイトで工程を見ることができました(写真2〜5)。
(写真2)
(写真3)
(写真4)
(写真5)
(写真2〜5)年賀状のリソグラフ印刷の刷り順がわかります。
目を凝らしてよく見ると、2022年の干支の寅はシルバーの箔押し、ロゴマークは印刷で凹んでいるので活版印刷で刷られたことが伺えます(写真6)。贅沢すぎる年賀状ですね。
(写真6)よく見ると、活版印刷や箔押しで刷られているマークや文字があります。
カードに使われたリソグラフの色数は色玉を見ると確認できます(写真7)。「GOLD」「F.PINK」「YELLOW」「BLUE」の4色です。色名の前に付く「F」は蛍光(fluorescence)を表しています。
(写真7)刷られた色数を色玉で確認。
(写真8)は、階調表現のドット(網点)を拡大したところです。リソグラフではオフセット印刷のような細かな網点の再現には向いていません。粗いドットの表現がリソグラフ印刷を使いこなすポイントのひとつといえるでしょう。
(写真8)色の濃度を落とす場合は、やや大きめのドットで表現するのがポイントのようです。
美しいガイドブック『Guide for Riso』
猪飼さんがリソグラフを導入して、印刷機の特徴を徹底的に研究し、クリエイターに向けたガイドブックが作成されました(写真9)。
こちらはオンラインストアで販売されていています。商品の説明は下記の通り。
「リソグラフで印刷する上で注意する点、最小の文字や線のサイズ、色見本、線数、デザインの合わせ方などをまとめた10ページのZineです。リソグラフについての機能的な説明だけでなく、制作の参考になるようなアートブックとして作られています。」
(写真9)『Guide for Riso』
Design : ALBATRO DESIGN
Print : Risograph 9 Colors
Size : 146 x 206mm
Pages : 10Pages
Language : Japanese
オンラインストアでは、本の中身の写真を見ることができます(写真10〜14)。手元に届いたZINEを手にすると、厚手の用紙(用紙はポルカ メレンゲ 200kgを使用)にインキがしっかり乗っています。リソグラフの入門書としても最適ですし、カラーページが美しくアートブックとしても楽しめます。
(写真10)
(写真11)
(写真12)
(写真13)
(写真14)
(写真10〜14)『Guide for Riso』の鮮やかな紙面。
Webサイトで入手できる「Riso Guide and Template」
Alatoro DesignのWebサイトでは、印刷入稿のためのリソグラフのガイドとテンプレートが公開されており、これらのデータをダウンロードして利用することができます(写真15、16)。データの入手方法は以下を参照してください。 →http://www.albatro.jp/riso/
同サイトでは、「Riso Guide and Template」の利用法について以下のように述べられています。
「リソグラフ用のデザインを制作する際にあると便利な色見本や、データ作成方法、特色データなどを本にまとめました。また、本と同様のデータと色見本のイラストレーターのデータを公開しております。
リソグラフでイラストやデザインなどデータを制作する際にご利用ください。
本とデータを同時に確認することで、リソグラフで印刷した際の色をコンピューター上で把握しやすくなります。」
(写真15)ALBATRO DESIGNサイトのリソグラフ印刷の紹介ページ。
(写真16)「Riso Guide and Template」の画面で、右下がリンクボタンになっています。このボタンで「Riso Guide Book」の冊子のオンラインストアへジャンプできます。また、「Riso Guide Book」のPDFデータを入手することができます。さらに「Riso Template Data / Illustration Data (Free) v2」をダウンロードして、テンプレートとして利用することができます。
「Riso Template Data / Illustration Data (Free) v2」をダウンロードし(写真17)、Illustratorで開くと(写真18)、使用する用紙の印刷有効面積が表示され、このままリソグラフの入稿データを作成できる構造になっています。さらに入稿の際の諸注意などがまとめられています。
(写真17)「Riso Guide Book」のPDFデータをダウンロードすることができます。
(写真18)「Riso Template Data / Illustration Data (Free) v2」のデータをダウンロードして、Illustratorで開きます。
利用可能な色はIllustratorのスウォッチパネルに「特色」として登録されています。スウォッチパネルでそれぞれの色をダブルクリックすると「スウォッチオプション」が現れ、それぞれのカラーが「特色」で定義されていることが確認できます(写真19、20)。
(写真19)
(写真20)
(写真19、20)「Illustration Data (Free) v2」を開いてスウォッチパネルを見ると、利用可能な色が特色で定義されていることが確認できます。
このテンプレートを利用してカスタマイズされた特色のカラースウォッチを使うことで、リソグラフ特有の鮮やかな色みをモニタ上でシミュレーションできます。さらに透明パネルの描画モードで「乗算」を使うことで、濃度(%)の指定や特色同士の掛け合わせをモニタ上でシミュレーションして確認できます。
そのほか、Illustratorのレイヤー機能の使い方や、印刷入稿時のチェック事項が細かく説明されていますので、初めてデータを作るときには、これらを読んでから作業を進めるようにするとよいでしょう。
リソグラフ印刷で作られたアート作品
最後に、猪飼さんが手掛けられたリソグラフの作品をいくつかご紹介しましょう。
RISOGRAPH TRIAL No.001 “The room where can see that” Series
リソグラフでは、1回の印刷で2色まで同時に印刷をすることができます。(写真21、22)は機械を導入してすぐに作られたトライアル作品です。(写真21)はA3サイズの用紙に「FLU.Pink」と「Yellow ink」の2色で刷られたもので、(写真22)はさらに「Blue ink」を加えています。部屋から覗いた幻想的な風景の作品で、リソグラフのインクの鮮やかな発色が印象的です。
(写真21)RISOGRAPH TRIAL No.001
“The room where can see that” Series
Trial A : A3 297 x 420mm
Risograph FLU.Pink + Yellow ink
(写真22)RISOGRAPH TRIAL No.001
“The room where can see that” Series
Trial A : A3 297 x 420mm
Risograph FLU.Pink + Yellow +Blue ink
GOFU “SHUTO” / Risograph ver
(写真23〜25)は、護符「種人」リソグラフバージョン。 “ものづくりをする人へのお守り”です。リデザインやアート、工芸など日々物を作る人達の為のお守りになります。ソグラフの蛍光色で印刷した護符で、ブラックライトを当てると蛍光色のインクが光ります。 →オンラインショップにて販売中。
(写真23)
(写真24)
(写真25)
(写真23〜25)Project: “GOFU” x Riso
Risograph Fluorescent ink x 4
“GOFU” A talisman for those who make creative works.
GOFU “KOMOKUTO” Blue / Risograph ver
GOFU “KOMOKUTO” Red / Risograph ver
(写真26、27)は、護符「木目人」リソグラフバージョン、 “ものづくりをする人へのお守り”です。150 x 150mmのカードサイズ。ブラックライトを当てると蛍光色のインクが光ります。 →オンラインショップにて販売中。
(写真26)GOFU “KOMOKUTO” Blue / Risograph ver
護符「木目人」リソグラフバージョン
Card Size 150 x 150mm x 1 pcs
(写真27)Project: “GOFU”
GOFU “KOMOKUTO” Red Risograph ver
護符「木目人」リソグラフバージョン
Card Size 150 x 150mm x 1 pcs
Risographic Tiger Invitation for 藝大ART PLAZA ”ART JUNGLE”
(写真28〜31)は、東京藝術大学校内にある藝大ART PLAZAの企画展「Art Jungle藝大動物園」のアートディレクションを担当されたときのインビテーションカード。リソグラフで重ね刷りする事で浮かび上がる虎がキーヴィジュアルになります。
(写真28、29)では、データ上の色指定と実際に刷ったものを対比して見ることができます。用紙は竹尾の気包紙です。
(写真28)
(写真29)
(写真30)
(写真31)
(写真28〜31)Risographic Tiger
Invitation for 藝大ART PLAZA
“ART JUNGLE”
Risograph 106 x 190mm
猪飼さんは現在、クリエイターの方に声をかけて「ZINE」の小冊子を作る計画を進めています。ジャンルはコミックやアート作品を手がけるイラストレーターやデザイナーさん、さらに学生にも声をかけているとのこと。本の形になれば保存性の高いアートブックになりますし、価格を設定して販売することもできます。どんな作品集ができあがるのか、とても楽しみです。
猪飼さんのリソグラフに対するアプローチは、クリエイターが制作しやすい環境をサポートするもので、とても参考になりました。できあがった成果物は独特の発色があり、創作への意欲を掻き立てられます。とても楽しい経験でした。
次回はリソグラフのインクの特徴や紙との相性などについて、さらに掘り下げていければと考えています。
では、次回をお楽しみに!
(写真21)RISOGRAPH TRIAL No.001
“The room where can see that” Series
Trial A : A3 297 x 420mm
Risograph FLU.Pink + Yellow ink
(写真23〜25)Project: “GOFU” x Riso
Risograph Fluorescent ink x 4
“GOFU” A talisman for those who make creative works.
[ALBATRO DESIGN・プロフィール]
ALBATRO DESIGNはグラフィック、プロダクト、空間までデジタルとアナログの両視点から新しい価値を生み出す、東京を拠点に活動するデザインスタジオです。
ALBATRO DESIGN is a Tokyo-based design studio that projects new value through specific multilateral perspectives that are derives from a range of analog and digital skills that include letterpress printing to graphic product and space design.
Instagram:https://www.instagram.com/albatrodesign/