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三星インキ株式会社
EB(電子線)印刷について①

EB(電子線)印刷について① - 三星インキ株式会社 | 活版印刷研究所

今回は紫外線よりも更に波長の短い光(光と言ってよいか分かりませんが・・・)を使用して印刷する方法について書かせて頂きます。

おさらいとなりますが、光は波状のエネルギーのことを示し、波の間隔の長さによって性質が変わり、呼び名も変わります。
可視光線の波長は400-800nm(ナノメートル)、紫外線は200-400nm(LEDも紫外線の範囲)程度と言われています。
可視光線よりも波長が長い光には赤外線やマイクロ波、電波などが該当し、波長が長くなるほど直進するパワーは低下しますが遠くまで届きます。テレビ・ラジオ・携帯電話などの電波と呼ばれるものも遠くまでエネルギーを運ぶことができます。
反対に波長が短くなるほど遠くまで届かなくなりますが、直進するパワーは増します。
UVインキのコラムでも書きましたが、可視光線のすぐ隣にある紫外線でも人体の皮膚を透過して細胞を攻撃してヤケド(日焼け)を引き起こし、ひどい場合は癌の発生を引き起こします。
そして紫外線よりもさらに波長の短い光にはレントゲンなどで使用するX線やガンマ線、放射線などがあります。

この透過性の高い波長の短い光(紫外線)をインキに照射することで電子の発生・移動を起こし、皮膜を形成させる印刷(硬化)方法をUV印刷(紫外線硬化)と呼びます。

そして今回紹介するのは、紫外線よりも更に波長の短い『電子線』と呼ばれる光を用いて皮膜を形成させる方法であるEB印刷(電子線:Electron Beam)についてです。
この印刷方式はかなり以前より提案されていましたが、日本ではあまり普及しておらず、ご存じのない方もいらっしゃると思います。

かくいう私もそこまで詳しくはありませんが、可能な範囲でご説明させて頂きます。

何度も言いますが、EB(電子線)印刷とは文字通り、紫外線ではなく電子線を照射して樹脂を架橋・硬化させて皮膜を形成するという印刷方式であります。
この時に使用される電子線は、電子発生装置などで作られた電子を高い電圧をかけることで加速させてビーム状(これが電子線)にしたものを使用します。
この電子線は紫外線よりもさらに強力なエネルギーを有しており、紫外線以上にインキ内部まで透過しやすく、UV印刷よりも更に短時間で、かつ厚膜であっても皮膜を形成させることができます。

そして電子を直接照射するということは、UVインキの皮膜形成方法である光反応開始剤の開裂による電子の発生が不要ということです(直接電子が供給されるということです)。
UVインキ中の『光反応開始剤』は紫外線などのエネルギーが照射されることで開裂し、その際に電子を発生させる働きを有する原料ですが、光反応開始剤は触媒等が存在するだけでも開裂して電子を発生させる可能性があり、光が当たらなくても架橋・重合が始まって固化する現象(ゲル化)が起こることがあります(以前のコラム:UVインキについて⑦を参照)。

つまりEB印刷用インキ(EBインキ)には光反応開始剤を添加する必要がなく、ゲル化現象を抑制させるために添加している重合禁止剤などの添加剤も使用する必要もなくなります。
つまり単純に顔料と樹脂(光反応型樹脂)さえあればインキ構成が可能となり、高価で不安定要素を有する光反応開始剤やその他助剤(重合禁止剤など)を使用する必要がないことからインキ自体の単価を下げることができ、かつ安定性の向上にも繋がります。

このようにUVインキよりも安価で、かつ貯蔵安定性にも優れたEBインキを使用するEB印刷がなぜ日本で広まっていかなかったのでしょうか。

EB印刷には、紫外線よりも人体に与える影響が大きい一種の放射線である電子線を使用していることから、外に漏れ出ないように完全防護するための設備が必要であること、また空気中では電子の活性が弱くなる(酸素と反応してしまう)ため、窒素雰囲気下での稼働が必須となりますが、日本では窒素発生装置の対応が不十分(従ってボンベでの購入となり費用がかかる)であるなどが要因として挙げられます。

ただ、EB印刷は高い透過性を有する電子線を使用するので厚膜でも皮膜形成が可能であり、かつ密度・重合性の高い皮膜を得ることができます。
またインキ面で光反応開始剤を使用しないので安全性の高い印刷物が得られる(光反応開始剤には毒性を有するものがあり印刷後も残存する可能性がある)、またゲル化が起こりにくいインキを提供できるといったことが言えます。
その他にも、照射時に発熱がほとんどないので耐熱性の劣る原反を使用することができる、光反応開始剤が開裂する際に発する臭気がない、顔料濃度の高いインキを使用することができるなど、UV印刷では対応が難しい点をクリアすることができることから、今後は徐々にではありますがEB印刷の裾野が広がることが予想されます。

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